-印刷会社がクライアントに提供すべきもの【第4回】
顧客に提供する価値を端的に表す『ブランド・アイデンティティ』は、企業としての活動の軸になり、差別化も目指すことができる。
前回は、ブランディングを行う際の意識として、経営戦略から派生して行うものであることを見てきた。その中で企業として、誰にどんな価値を提供するのかという『ブランド・アイデンティティ』がつくられる。クライアントのビジネス全体を支援するためのブランディングでは、クライアント企業の価値を高めるブランド・アイデンティティを策定し、発信なければいけないことも紹介した。
「どのような価値を提供するか」というのは、顧客が求めていることでなければいけない。顧客が価値と感じることを知るためには、顧客のさまざまなニーズを探る必要がある。前回、マーケティング戦略においてのブランド構築の流れを紹介したが、その中の見込客(ターゲット顧客)を選定すること、つまりターゲティングが重要となってくる。印刷を受注するために販促物を制作する場合も、ターゲティングは行うことがほとんどであるが、ブランディングのためにはさらに深く設定し、ニーズを探らなければいけない。
見込客のニーズを満たすもので、さらに競合のできていないところを独自性としていく。それによって、顧客に企業を「このようにとらえてほしい」というブランド・アイデンティティができあがっていくのである。このブランド・アイデンティティには、提供する価値だけでなく、企業や製品・サービスなどのブランドとしての「らしさ」や、顧客の約束すること、ミッションなどが端的に表されたもので、企業として目指すところでもある。
例を挙げると、ある大手コーヒーショップチェーンでは、ブランド・アイデンティティとして『家庭と職場以外の第三のくつろぎの場所』という価値を顧客に提供しているといわれている。ということは、単にコーヒーを提供しているのではなく、場所を提供していることになり、それを求める顧客のニーズと強く結びついているのである。経営戦略や実際の企業活動にも大きな影響を及ぼすことになる。 クライアント企業をブランディングすることはもちろん、印刷会社として自社をブランディングする際にも同様である。クライアントが印刷物を求めていたとしても、その先には売り上げアップや価格競争脱却、販促の効率化や市場での認知度向上など、さまざまなニーズがあるはずである。また、社内での意識統一など、クライアントが普段から意識できていないニーズも考えられる。クライアントのこれらさまざまなニーズを、印刷を含めた企業活動全てでどのように満たすことができるかをブランド・アイデンティティとして表すことになる。
このブランド・アイデンティティが、顧客に「このようにとらえてほしい」と企業の目指すものになる。それに対して顧客が企業を「このようにとらえている(思っている)」と認識しているものが『ブランド・イメージ』といわれるものだ。このブランド・イメージと、ブランド・アイデンティティを一致させるための戦略や行う活動がブランディングである。
企業の意図通りに一致させたブランド・イメージを持った顧客に、何らかのニーズが発生した場合は、その企業あるいは製品・サービスを想起しやすくなる。つまり、購買決定に至る可能性が高くなるということである。これは顧客のニーズと結びついたブランド・アイデンティティがあるからこそできることである。
印刷会社としての自社ブランディングとして考える場合を考えてみたい。今までのように印刷物を提供しているだけであれば、本当の顧客ニーズを満たしているとはいえず、競合も同様に印刷物を提供していることになる。そうなると選ばれる基準は価格の安さという場合も多いであろう。ところが印刷物を含めたさまざまなニーズを満たす価値あるものを提供されていると顧客が認識した場合、価格ではなく「ニーズを満たしたい」という思いで選ぶことになっていくのである。クライアントのブランディングも同様で、クライアント企業の見込客に対してブランド・アイデンティティを策定していくのである。
小澤 歩(おざわあゆむ)
有限会社グレイズ代表取締役 http://ozawaayumu.com/
(財)ブランド・マネージャー認定協会マスタートレーナー http://www.brand-mgr.org/
目次 | ||
第1回 | 印刷会社に求められる顧客ビジネス支援のブランディング [2015/10/23] | |
第2回 | 印刷会社がクライアントに提供すべきもの [2015/11/27] |
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第3回 | 印刷会社が取り組むべきブランド戦略構築の流れ [2015/12/01] |
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第4回 | 活動の軸になるブランド・アイデンティティとは [2016/01/05] |
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第5回 | 顧客の心の中で自社を占めるポジショニング [2016/02/05] |
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第6回 | 印刷会社ができるクライアントのブランド価値の表現 [2016/03/08] |
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第7回 | ブランドの価値は世界観とトーン&マナーでつくる [2016/03/11] |
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第8回 | デザインを統一するトーン&マナーのつくり方 [2016/04/8] |
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第9回 | ブランド・イメージをユーザーに届けるためのデザイン表現方法とは? [2016/05/12] |
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第10回 | ユーザーの購買意欲を喚起する写真、イラストの選定方法 [2016/07/15] |
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第11回 | ユーザーの購買行動を促す広告・販促物に必要な視点とは [2016/08/19] |
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