デザインを印刷会社の差別化、競争力強化につなげるために、求められるデザイナーの資質とは何か。
優れたデザインは製品・サービスに好ましいイメージを与え、機能性を高める。印刷物であれば、キャッチーなグラフィックで、多くの人が思わず手に取ってしまうもの。見やすく読みやすく、情報が一目で伝わるもの。目指すターゲットの心を掴み、顧客の売上アップに貢献するもの…
優れたデザインを提供することは顧客の信頼につながり、他社との差別化の武器となる。 印刷会社の経営者、デザインを担う方々は、デザイナーの役割と、求められる技能を理解することが必要だ。
デザイナーの役割
デザイナーは商品、サービス、販促プロモーション、各種メディアなどの視覚表現を担う、創造、造形、表現技術の専門家といえる。
表現者という点でアーティストに近い存在だが、純粋な自己表現者ではなく、顧客の事業の支援者であることがアーティストとの違いである。
印刷会社の場合、デザインの主な対象は情報といえる。JAGAT通信教育「考えるデザイン講座~説得力は企画力」の主任講師であるグラフィックデザイナーの和田義徳氏は「デザインとは情報を可視化するもの」と述べている。
またデザイナーは製品・サービスの設計という重要な役割を担っている。顧客が伝えたい情報を分析し、構造化、表現、製造へつなげるまでがデザインの仕事だ。デザイナーの指示が印刷物製造工程と印刷物の訴求効果に影響を与える。
デザイナーに求められる知識・技能
以上のことから、印刷会社のデザイナーにはさまざまな知識・技能が求められる。
一例を挙げる。
・デザイン基礎知識:色彩・レイアウト・タイポグラフィなど
・印刷物製造工程の知識:組版・画像処理・製版・印刷・製本・後加工など各工程の基礎知識。コンピューター・インターネットの知識も必要。
・マーケティング知識:市場で受け入れられる製品・サービスを生み出すために必要。
・創造力:新しいアイデアを生み出すために必要。
・コンサルティング能力:顧客と対話し、課題を引き出し、解決方法を導き出すために必要。
・提案力:顧客に対し説得力あるプレゼンテーションを行うために必要。
・コミュニケーション能力:顧客との信頼関係を築く上でも、多くの関係者との作業を円滑に進めるためにも欠かせない。
DTPオペレーターとデザイナーの違い
DTPの普及に伴い、DTPオペレーターとグラフィックデザイナーとの間で仕事の領域がクロスするようになった。小規模の印刷会社では、DTPオペレーターがデザイナーを兼ねる場合もあるだろう。しかし、両者は全く違う職業である。 以下、「厚生労働省編職業分類(平成23年改定)」で、両者がどう定義されているかを示す。
DTPオペレーター 大分類:生産工程の職業|中分類:製品製造・加工処理の職業(金属材料製造、金属加工、金属溶接・溶断を除く)|小分類:印刷・製本作業員|細分類:DTPオペレーター
グラフィックデザイナー 大分類:専門的・技術的職業従事者|中分類:美術家,デザイナー,写真家,映像撮影者|小分類:デザイナー|細分類:グラフィックデザイナー
DTPオペレーターは製造分野のプロ。デザイナーは創造分野のプロといえる。身に着けるべき技能に違いがあることを理解する必要がある。
社内の人材育成と外部デザイナーとの連携
印刷会社がデザインに注力する手段としては、自社のデザイン部門を強化するほか、外部デザイナーとの連携を強めるという選択肢もある。
デザイン部門の確立は顧客との信頼関係の強化、自社のブランディングにつながる。 その一方、デザインを社内で完結してしまうと、デザインの傾向が固定化し、顧客の多様な要望に応えることができない懸念がある。そのため、案件に応じて内製と外注を使い分けることも有効な手段となる。
外部デザイナー活用の必要性については、印刷会社の規模も関係してくる。経済産業省「平成24年工業統計表 産業編」で、産業小分類「印刷業」における従業者規模別の統計を見ると、従業者数3人以下の事業所比率は54.8%、同4人~9人が23.0%であり、10人未満の事業所が8割近くを占めていることが分かる。
この規模の事業所では社内デザイナーを置かないケースもあり、外部デザイナーとの連携が重要となるだろう。
ただしデザインを外注する場合にも、外部デザイナーと顧客の間に立ち、デザインをコントロールできる人材を社内に持つことが重要である。社内デザイナーのレベルをアートディレクターの域まで高められるかがカギとなる。
印刷会社が優れたデザイナーを育成するために、JAGATでは、デザインに関連したセミナーや通信教育のメニューを提供していく。ぜひ活用していただきたい。
(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)
関連情報
JAGAT通信教育
考えるデザイン講座〜説得力は企画力
クライアントの要求をどう理解し組み立て、デザイン表現するか、 そのプロセスの論理的な考え方や基本ルールを実践的に学ぶことができます。