※本記事の内容は掲載当時のものです。
ナンデモQ&A:オフセット印刷
Q:IPAに代替するアルコールとはどんなものですか。
A:IPAとはisopropyl alcoholの略で水によく溶ける有機溶剤です。化学的には水酸基を持った低級アルコールで、一般の飲用アルコールであるエタノールと類似の構造、性質を持った化合物です。この化合物が湿し水に使われ出したのは印刷機の湿し水機構がモルトン方式から連続給水方式に代わったときでした。連続給水方式では湿し水を十分に版に供給するために湿し水の粘度を上げる必要があります。また、高品質な印刷を遂行するためには水を絞らなくてはなりません(出来るだけ少ない水で非画像部を確実に覆う)。この2つの目的を達成するために連続給水方式では湿し水にIPAが大量に使用されてきました。
しかし、社会全体で環境対応が強くさけばれるようになってからはIPAが避けられるようになりました。その理由としては2つあります。第一に法律の規制があります。IPAは労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則の第二種有機溶剤に指定されています。これに指定されると換気設備、環境測定、健康診断をしなければならないという義務が使用者に課せられることになります。第二に通常は数%から10%の添加で印刷しますが、添加すると臭気が厳しくなり作業環境が悪くなることから人の健康にも影響します。
そこでIPAの削減対策としてメーカーからノンアルコールエッチ液とIPA代替添加液の2つの提案があります。
一般に湿し水に求められる機能としては表面張力低下、水の増粘、インキとの乳化コントロール、整面、防腐・防錆、消泡等があります。従来は表面張力低下と水の増粘をIPA、その他の機能をエッチ液の添加で達成して来ました。
環境対応の一環としてメーカーとしては湿し水の機能を全て兼備したノンアルコールエッチ液を開発し、環境改善に貢献しています。またノンアルコールエッチ液だけでは不十分で、どうしてもIPAが必要な場合を想定して代替の添加液(商品名:AG-U2)を提供しています。ノンアルコールエッチ液は単体で使用し、AG-U2はエッチ液と併用します。
代替アルコール(AG-U2)は基本的にIPAとよく似た性質の化合物で沸点も82℃でほぼIPAと同じような揮発性を示す有機溶剤ですが、分子構造の違いから労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則の規制を受けません。両者とも表面張力を落とし水の粘度と上げることが目的です。しかし、代替アルコール(AG-U2)は従来のIPAよりも少量の添加で目的を達成する効果があることが利点です。
IPAの代替としては他に有機溶剤中毒予防規則規制外のエタノールもありますが、IPAの代替溶剤として多用されていましたが、エタノールは目的を達成するためにはより多くの添加量が必要になりますので、現在では縮小気味です。
IPAの濃度は比重管理又はガスセンサーで管理されています。管理装置の適応を考慮して、IPA代替溶剤はAG-U2やエタノールのように化学的にも物性的にも類似の化合物が選択されています。
IPAの規制において有機溶剤中毒予防規則では5%以上のときに適用、とされています。反対解釈すると5%以下であれば規制がないということになりますが、実際には原液を容器から移すときなどは規制対象と考えられます。従って、5%以下の添加量であっても非規制材料への転換が望まれます。
AG-U2、エタノールなどのIPA代替溶剤は労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則の規制を受けませんが構造、物性が類似した有機溶剤であるので全く無害ではなく、似たような影響はあります。実際の使用においては規制があるものと同じような扱いをすることが望まれます。それによって危険性が下がり環境もよくなるということです。
また、AG-U2についてはより少量で効果を発揮するので添加量を落とすことが出来、それによって職場環境の改善が達成されるものと考えられます。
取材協力:光陽化学工業(株)
(2008年6月9日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)