※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『文字の母たち』
港 千尋著
インスクリプト B5変型判 112ページ 3150円
本書は400年の歴史を誇るフランス国立印刷所と、そして日本国内で200年の古い歴史のある明朝体活字の精華である「秀英明朝体」の伝統を伝えようとする大日本印刷の活版印刷と、文字の東西をつなぐ写真集である。フランスと日本、それぞれの活版印刷の違いが浮き彫りになっている。
世界で最も古い印刷所の一つで、活字の発展にとって、またタイポグラフィの歴史の上で重要な役割を果たしてきたのがパリ・フランス国立印刷所である。19世紀までに制作・収集された活字類は、ガラモン体に始まるアルファベット書体を始めとするヒエログリフ、ギリシャ、アラビア、ヘブライ、チベットそして漢字、仮名などが保存されている。しかし、活版印刷の終焉(しゅうえん)とともに2006年に最後の幕が閉じられている。
グーデンベルグ以降の西欧の活版印刷技術を伝承し、近代から現代に至る活字書体に大きな影響を与えてきた。国立印刷所に収集されている「文字の母たち」は、直接鏨(たがね)で彫刻された多くの父型(パンチ)類である。なかでも漢字の活字制作方法がユニークで「分合活字」と呼ばれる、部首を別々に作り組み合わせる手法を採用したものである。文字数が多い漢字の活字を制作するには効率的な方法と言える。
日本でも、最近まで「直彫り(じかぼり)」と呼ばれる活字制作手法が用いられ、名人と言われる職人(中河原勝雄)が最後の彫り師として紹介されている。本書はパリと東京で撮影を重ね、活字に凝縮された東西文明の交流と最後の職人たちの姿を見事に写し出した類のない壮大なフィールドワークである。全ページ秀英明朝体で組版されているのが印象的である。
(2007年8月30日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)