※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『欧文書体 その背景と使い方』
小林 章著
発行所 美術出版社 B5判 159ページ 2625円
本書は,デザイン誌『デザインの現場』の連載記事を元に書き下ろしたものである。昔から,日本におけるコマーシャル・デザインや商業印刷物,または書籍印刷物の欧文組版の質的貧弱さやあか抜けないことは,よく外国人から指摘されたものである。
それはあたかも外国で日本語組版をし,印刷物が作られた状態と似ている。日本語組版ルールを逸脱したレイアウトが行われ失笑されたものである。「漢字・仮名」についても同じことが言えるが,欧文書体の成り立ちや背景を知らずに,見掛けの良しあしで書体を選択しても良い結果は得られないわけだ。
著者は,世界的に著名なタイポグラファのヘルマン・ツアップやアドリアン・フルティガー,マシュー・カーターなどと親交が深い本格的なタイポグラファである。本書は欧文書体を理解するのに優れた数少ないガイドブックで,著者は本文中に次のような名言を吐いている。「悪い書体はないが,悪いフォントはある」。意味深な言葉である。
欧文の印刷物を作るには,まず「欧文書体」の真髄を知ることが大切という。現代のDTPデザイナーや印刷関係者には,欧文に関する知識の乏しい人が少なくない。欧文組版ルールに関しても,基礎知識すら心得ていない印刷プロも多い(和文組版についても言えるが)。まず欧文書体について,その成り立ちと背景は最低限学ぶべきであろう。
しかし日本には,適切な欧文書体や欧文組版を学ぶガイドブックは多くはないが,これだけ豊富に欧文書体を取り上げて解説を付している書は少ない。優れた解説書である。タイポグラファやグラフィックアーツ関係者など,欧文書体を学ぼうとする人たちにとって福音となる書であろう。
(2005年10月6日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)