『秀英体研究 』

掲載日:2014年8月18日

※本記事の内容は掲載当時のものです。

 
書評:『秀英体研究 』
片塩二朗著
発行所大日本印刷株式会社 B5判 736ページ 価格12600円 

 

過去に固有の活字書体名に関する研究や文献が刊行されることは珍しいが,本書は大日本印刷の記念事業の一つとして刊行されたものである。「秀英体」は「秀英明朝体」の代名詞で,大日本印刷の前身である「秀英舎」の名から命名された活字書体名である。

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「秀英体」は「築地体」と並び称され,今日まで文字文化の伝統を印刷業界に継承してきた。本書は「秀英体」に対して,多角的にメスを入れ分析・調査している貴重な資料である。これを見ると大日本印刷の歩みは,秀英体の歴史と言っても過言ではないであろう。秀英舎の源流は「築地体」にあると言われているが,1907年からの大改刻と取り組み「秀英体」が完成されたわけである。

業界最大手の大日本印刷も2003年3月末をもって,創業以来127年続いた金属活字の終焉(しゅうえん)を宣言した。しかしながら「秀英体」は,日本の活字文化を支えてきた大きな柱であることは,貴重な歴史上の事実として後世に残ることであろう。本書は「秀英体」の中で,特に「平仮名書体」の形姿の変遷に注目し,豊富な活字見本帳を基に重点的に調査・分析されている。

「秀英体」における大改刻は,ポイント制活字への移行と機械式活字母型彫刻機によるところが大である。現代の「新秀英体」の改刻の歴史は,1949年(昭和24年)の機械式活字母型彫刻機(ベントン母型彫刻機)の導入から始まる。そして「新秀英明朝体」のコンセプトはCTS(電算写植機)に継承され,さらにデジタル化しDTPのアウトラインフォントにまで至っている。近い将来「秀英体活字資料館」の設置を計画しているという。楽しみである。

 

 

(2005年4月11日)

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)