※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『現代装幀』
発行所 美学出版
臼田捷治著 四六判 261P 本体2600円(税別)
最初に第Ⅰ章「装幀の愉悦」を読むことで,本書の全体像を把握することができる。「装幀」とは外箱やカバー,表紙など本の外装のみを手掛ける仕事を言うのに対し,本文から外装までのすべてにわたって,一貫した構造的な視覚化を図る取り組みを「ブックデザイン」と区別して扱っている。
戦後の出版史を振り返ると,目を引く一つの顕著な現象は,本作りにデザイナーが参加する比率が大幅に増加したことである。戦前には多くの著名な画家や書家が本の装幀に携わっていたが,現在では専門の装幀家が存在している。
戦後という新しい時代にふさわしい方法論を提示したのは,グラフィックデザイナーの原弘である。原は戦前からデザイナーとして実績を重ねていたが,装幀を本格的に手掛けるのは戦後からである。
原のデザイン的な手法を特徴付けるのは「タイポグラフィ」の視点である。タイポグラフィとは,元来ヨーロッパにおける概念であるが,タイポグラフィによるアバンギャルドな手法を十全に咀嚼(そしゃく)しながら,それを日本の装幀に取り入れたことである。そして装幀に替わる「ブックデザイン」の概念を明確に提示した。その後継として多くのグラフィックデザイナーが活躍したが,なかでも杉浦康平の功績は大きいものがある。
第Ⅳ章「システム・構造と用紙」の中の,「タイポグラフィの変遷・写植」や「日本語の美しい組版の系譜」などの内容は,時代の流れとはいえ,現代の安易なDTP依存過多の体質に対する示唆になるであろう。
(2003年10月1日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)