※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『原弘と「僕達の新活版術」』
発行所 DNPグラフィックデザイン・アーカイブ
川畑直道著 A5判 317P 本体3333円
原弘は,著名なデザイナーらと共に戦後デザイン界をリードした大家の一人である。しかし本書で描いているのは,既に名を成した後の原弘の姿ではない。著者は原弘という人物の研究を志して,その生涯と足跡を余すところなく描いている。最初に本のタイトルを見る限り,グラフィックデザイナーの原弘と「新活版術」の意味が理解できなかった。
「新活版術」は「ニュータイポグラフィ」の意味で活版印刷術のことではない。「デザインは芸術ではない。結果として芸術と見るのはよいが,芸術は自己表現である。デザインはあくまでも目的を果たすものだから。」これが原弘の生涯を貫いたデザイン観である。
1930年代は印刷メディアそのものが大きく変容した時期といわれているが,DTPによるグラフィックアーツにおける変化の面では現代にも当てはまることである。
原弘はグラフィックデザインだけではなく,ブックデザインの装幀にも優れた才能を発揮した。そして欧文タイポグラフィにおける内的構成として,基本書体はサンセリフ書体を推奨していた。1920年代に生まれた欧文活字のサンセリフ体「フーツラ(futura)」が,原弘により1960年以降の日本において流行したことは印象的である。
原弘の残した足跡は数知れないが,特に印刷関連では欧文印刷研究会の活動である。欧文印刷研究会は1940年2月に結成されたが,戦後の欧文書体や欧文印刷の品質向上に貢献し,欧文タイポグラフィの境地を開いた先達者として原弘の存在は忘れられない。 澤田善彦
(2002年12月27日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)