※本記事の内容は掲載当時のものです。
書評:『日本語のデザイン』
発行所 美術出版社
永原康史著 B5判 本体2500円(税別)
「日本語はもともと文字をもたない言語である」といわれている。この本は単なるフォントデザイン解説書ではなく,「日本語をデザインする」ことを考えたグラフィックデザイナーの思考の跡である。
著者は,日本語の文字組みの基本は「ベタ組み」といわれているが,それは情報の大量生産,大量消費のための組版システムであるという。そして組版をデザインの問題として考えるならば,基本としてのベタ組みは既に役割を終えて再検討の時期にきているという。
第1章から第6章で構成され,どの章も含蓄のある内容であるが,なかでも第3章「女手の活字」,第6章「文字産業と日本語」が興味深い内容である。「女手」とは仮名のことであるが,第3章の「女手の活字」では,日本語のデザインを語る上で重要な要素に仮名の「連綿」と「散らし」があるという。
「連綿」とは「つづけ字」のことで,「散らし」は「散らし書き」の意味で現代の「チラシ」に通ずる。「連綿文字」による組版は活字時代には困難であったが,写植文字盤で印字可能とし,その後デジタルフォントにより連綿体組版が可能になった。
第6章「文字産業と日本語」では「明治の混乱と組版」と「戦争と組版」が面白い。戦時中の1940年に,政府統制下で文字組版における書体の使い方,活字サイズ,行間などの組版様式が制限されたと記されているのが興味深い。 読者の参考のために,高島俊夫著の『漢字と日本人』(発行所 文芸春秋)の併読を薦めたい。 澤田善彦
(2002年12月20日)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)