※本記事の内容は掲載当時のものです。
事業紹介インタビュー:ブラウザを超えて進むインターネット
イースト株式会社 代表取締役社長 下川和男氏に聞く
1985年設立以来「パーソナルコンピュータとともに」をテーマに、Windows系ソフト開発において、高い技術力と信頼を得てきたイースト株式会社は、常に新しい技術に基づく製品を提供し続けている。
Vista技術の普及啓蒙に力を入れている、イースト株式会社の下川和男社長に、ブラウザの制約から解放されて、アプリケーション開発の自由度が増した技術の特長と、Web2.0の動向を伺った。
――今最も力を入れておられることは?
下川 マイクロソフトの最新OS Vistaはすごい仕組みをもっているのに、あまり認知されていません。例えばWPF(Windows Presentation Foundation)機能を使うと、インターネットに接続しているのに、ブラウザがない世界が作れます。Flashを使ったWebサイトでは、ブラウザのメニューと枠の中でFlashアプリが動きます。それがブラウザのメニューがなくてアプリケーションだけが動くようなプログラミングが可能になります。利用者はブラウザを抜きにしてアプリケーションに集中できます。
Vistaではドキュメントも大きく進化しました。WPFドキュメントの一番の特徴は自動段組み機能で、ウィンドウを広げると自動的に段組み数が増えて、縮めたら少なくなるし、文字サイズも自由に変えることができます。
マイクロソフトのXAMLというXMLのアプリケーション言語体系は、膨大な機能をもっていて、HTMLの機能も包含し、その上に新しいテクノロジーが入っています。例えばFlash的なスクリプトをXAMLで書くことができます。それを再生すればFlash以上に、きれいに動くアプリケーションが作れるし、ドキュメント用の構造も定義されているので、T-Timeのような電子書籍風の表示も行えます。
今まではブラウザで印刷すると右側が欠けて出ていましたが、WPFの印刷機能では、A4と指定すればA4判で一番きれいなレイアウトで印刷します。 現在、XAML関連のソフトを開発していますが、1月4日に次世代Windows技術を使った、Web2.0実証実験サイト「est.jp」を公開しました。Vista技術の普及啓蒙を図りたいと考えています。
――入り口はWebで、そこから先はシームレスに開発ができるようになるということでしょうか。
下川 Webからリンクしてアプリケーション起動もできるし、Vistaのサイドバーにいろいろなアプリケーションのランチャーを置くこともできます。
例えばVistaを起動すると「ニューヨークタイムズ」というメニューがサイドバーに表示され、クリックするとアプリケーションとしてそれが動き、「ニューヨークタイムズ」の最新ニュースが見られるという形になります。
今回のVistaやOfficeの特徴は、「インターネットへの接続方法として、なぜみんなブラウザばかりを使うのか。アプリケーションを作れば、Web側のSOAPを使ったサービスを使ってやり取りするだけでよいではないか」という考え方です。今でもWebサービスをOfficeから呼ぶことができますが、もっとやりやすくなり、さらにOffice製品のデータ構造がXMLになったことで、アプリケーションからOfficeドキュメントを生成することもできるようになります。アプリケーションがOfficeのXMLドキュメントを読むという世界が作れ、アプリケーションの自由度が高まります。
――XPからVistaへ移行の問題がありますが。
下川 マイクロソフトが危惧(きぐ)しているのは、「今のままでいい」と言われることでしょう。次のもっと良い世界に入ってしまえば古いものの不便さが分かりますが、「これでいい」と思っていると、変われません。
――企業のITシステムのグランドデザインがしっかりできていると、新しいテクノロジーを取り込みやすくなります。しかし、会社としてのグランドデザインがパソコンに移り切っていないところもまだ日本にはあります。
下川 マイクロソフトもインフォメーションアーキテクトという言い方で、アーキテクトを育成して、グランドデザインができるようにと考えています。顧客からのさまざまな案件に対して「基本構想はこうしよう」という提案をする人をイースト社内でも育成しようとしているし、デザイン会社と組んでWebデザインの向上にも注力しています。
Vistaの普及が今のXPと同じレベルになるには、5年くらい掛かるのではないかと見ています。XPへの.NET Framework3.0の追加で、WPFは動くので、数年後には、「ニューヨークタイムズ」のTimes Readerなどの有用なWPFアプリケーションが普及すると思います。
――最近はSNS(ソーシャルネットワークシステム)に力を入れられているようですが。
下川 3年越しでBizPalというサービスに取り組んでいます。SNSを根幹としてWeb2.0技術で会社のコミュニケーションを向上させようという顧客も現れています。 さまざまな会社から、いろいろなAPIをもったサービスが出てきます。例えばOffice Liveというサービスは、スケジュール管理、顧客管理など豊富な機能があるのですが、それとBizPalを連携させたり、Grooveという、共同作業の仕組みともBizPalを連携させたいと考えています。
何かシステムを作る時、私たちはインターネット上のサービスとして提供するわけですから、他社のさまざまなサービスとも連携して、多展開していこうということです。
――Webも単に情報提供したら終わりではなくなって、受発注や広告など、いろいろなものが絡んできて、拡張性が求められています。トランザクションやレポーティングなどの機能も必要です。
下川 RSSやWeb APIなどをうまく組み込んでおくと拡張性がもてるようになります。
デザイン系の人はWebの見えるところだけに特化して、バックオフィス部分は全然気にしていないので、イーストのような会社とデザイン会社が組めば良いサイトできると思います。
VistaにしてもOffice2007にしても、今までのいろいろな課題に対応した知恵を盛り込んだ製品に仕上がっているので、その辺に着目すると解決策のヒントになり、そういう技術を組み合わせて作ったほうが、早くソリューションが提供できます。
イーストのMyDictionaryという仕組みはWeb APIを公開していますので、それを使って、W-ZERO3でウィキペディアの検索サービスを作りました。もちろん無料です。イーストの辞書プロジェクトは10年以上の歴史があるので、これからは辞書検索の広告連動ビジネスなども手掛けたいと思っています。また、IE7のOpen Searchにも対応させますので、IE7の検索窓で辞書が引けるようになります。
現在のテクノロジーで、これから4~5年はいろいろな新しいサービスが出現し、インターネット上も伸びる企業と伸びない企業が振り分けられ、2010年ごろには企業の隆盛に決着が着くと考えています。
イースト株式会社
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-22-8 代々木かえつビル
TEL 03-3374-1980 / FAX 03-3374-2998
(2007年3月)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)