※本記事の内容は掲載当時のものです。
事業紹介インタビュー:「コスト・エフェクティブ」をスローガンに顧客満足を提供
ミューラー・マルティニ ジャパン株式会社 代表取締役専務 宮崎靖好氏に聞く
ポストプレスのトップメーカーとしてスイスに本社を置くミューラー・マルティニ ジャパンでは、「IPEX2006」でも注目されたように、印刷後加工におけるJDF対応製品を用意し、印刷前工程から後工程に至るまで一貫したデータ共有が可能な機械を生産し印刷全工程のJDF化を進めている。2006年1月に代表取締役専務に就任した宮崎氏に、日本の印刷産業における後加工の生産性向上の方策などについて伺った。
--印刷後加工の生産性向上についてのご提案は?
宮崎 期待すべきは自動化の進捗になります。製本作業に代表される印刷後加工作業は、今日でも人手に頼ることの多い、言わば「労働集約型」になっています。経営的には省力化を進めたいが、それに関わる投資コストが利益としてかえってくるのか。そうした不安があるようです。今年のIPEXでは弊社は展示したすべての機械がJDF対応となりました。また、自動セットAMRYS(アムリス)を採用した機械も多種、提案いたしました。このAMRYSとJDFの組み合わせが、今後、日本においても、印刷後工程の生産性を目に見える形で改善してくれるのではないか、と考えています。
--JDFとAMRYSで全工程が透明化されれば、クライアントにとってもコストや製本仕様までが発注の範ちゅうに加えられるようになるというメリットも生まれるのではないでしょうか。
宮崎 日本市場の特殊性について指摘を受けることがあります。日本では製本品質に過剰なこだわりをもっていないか、というわけです。中綴じ製本を例に取れば、針金はページをしっかりと綴じて外れなくて、先端がページにちゃんと収まっていればPLの問題もクリアできているはず。しかし、日本の現場では数冊の中綴じ本を見比べて、針金の位置や形状の変化なども問題になる。そうした品質規定にパスするために、機械で作った製品を人間が手に取って一つひとつ検査をしたり、それでいて、納期や単価は極めてシビア。結果として生産性は上がらず、製品のコストがなかなか下がらないという状況になっています。
--透明化でクライアントとのコミュニケーションが円滑になれば、改善されるのではないでしょうか。
宮崎 発注元(クライアント)との円滑なコミュニケーションは、印刷製本業にとって、これからも大きな課題でしょう。特に品質、コストそれから納期という3つの要求について、タイムリーな連携が重要なテーマになってくると思います。弊社では昨年より「コストエフェクティブ」を展示会のキーワードにしました。コストエフェクティブとは「対費用効果」ということで、つまりはより良いROI(投資に対する見返り)を提案しますという考え方です。機械の稼動速度を上げて、生産性を向上させることが第一なのですが、それに加えて、AMRYSによる自動セットにより、「非熟練のオペレーターにも使いやすい機械にする」「セット間違いを減らして損紙を節約する」「プリセットで準備時間を短くする」といった目に見える改善が期待できます。また、JDFにより、稼動情報をリアルタイムで取り出し、コスト分析や進捗管理に利用できます。経営的に工場の稼動状況を透明化して、いつでもどこからでも仕事の状況あるいは結果を確認できることになり、これが、発注元との円滑なコミュニケーションに大いに役立つと考えております。ちょっと極端な事例ですが、近未来の印刷製本工場とは、自動化とJDF化の進んだ印刷工程に、印刷後工程を一貫ラインとして直結してしまうようなイメージをもっています。そのためのツールがJDFをベースにしたデジタルワークフローであり、欧米の弊社ユーザー25社くらいですが、既にそうしたラインの実用を試みているとも聞いています。
--今後の日本国内での展望をお聞かせください。
宮崎 日本の印刷製本市場は過去約15年にわたり、あまり良い状況ではありませんでした。しかし、昨年からチラシや通販関係の商業印刷を中心に、しっかりとした回復基調にあるように感じています。出版においても、フリーマガジンの台頭、女性誌の厚本化やタイトル増加など新しい傾向が見られます。特にフリーマガジンは、そのターゲットが有料雑誌と異なり、年齢や性別、配布地域やコンテンツなどが非常に細分化されていますので、まだまだ増える余地があると考えています。また、フリーマガジンはそのタイムリーな発行と無料誌という特質から、印刷製本工程への要求は短納期と低コストが最優先されていると聞きます。素早く、安くというわけです。品質要求が低いということではないのでしょうが、すべてで最高のものを、という従来の常識を打ち破るものとしては、注目されていいのではないでしょうか。
弊社の中綴じ機にスープラという高速機があります。毎時3万回転のスープラは、4m超という広幅のグラビア輪転機とセットで欧米で導入されており、印刷機の1回転でそのまま中綴じして冊子を製本してしまおうというラインになっています。究極の印刷製本直結構想ですが、こうした高生産性の印刷製本加工ラインが日本でも検討される日は意外と早いかもしれません。
景気は上向き加減ですが、一方で、弊社顧客の共通のご意見として、印刷製本単価は下げ止まらないだろうというマイナスファクターが存在します。仕事量はある程度期待できるが、利益はちゃんと確保できるだろうかというのが、今年の最大のテーマとなるようです。そうした業界の現状にこたえるためには、「コストエフェクティブ」な機械を提供することに尽きると考えています。具体的には3つのポイントを提案しています。1つ目は、JDFとAMRYSの組み合わせです。日本においても印刷製本工場内のワークフローをデジタル化して透明性を上げ、コストの削減を図ろうという動きはますます進むでしょう。弊社の機械は今後すべてJDF対応となります。AMRYS機能もすべての機種で標準装備もしくは選択オプションとなる予定です。2つ目は、付加価値を作り出すことです。書籍、雑誌、カタログ、取扱説明書などといった紙メディアは今後ますます他メディアとの競合や共生が求められます。世界市場を対象に開発された弊社機械は先行する欧米などでの付加価値ノウハウが詰まっており、それらを積極的に日本で紹介していきたいと考えています。特に「環境に優しい本作り」というエコロジー精神は尊重されないといけないですし、それにこたえるための製本方法も提案していきます。例えば、PUR製本があります。反応型のPUR糊を使った製本ですが、繊維の短いリサイクル紙でも丈夫な本が作れ、また再生工程での糊の完全除去が可能なため、リサイクル性にも優れている製本方法です。3つ目は保守セミナーの日本開催です。従来はスイスにあるトレーニングセンターで定期的に開催されていましたが、昨年から日本国内でも始めました。事前保守を励行していただくことで、機械の故障を未然に防ぐことを目的にしています。見過ごされやすいのですが、機械の予期せぬ停止時間を減らすというのは、生産性向上のためにはとても安価で有効な対策なのです。
ミューラー・マルティニ ジャパン株式会社
〒174-0042 東京都板橋区東坂下2-5-14
TEL 03-3558-3131
(2006年7月)
(印刷情報サイトPrint-betterより転載)