コンテンツファーストに向かう出版制作

掲載日:2015年3月5日

印刷ありきでも、電子書籍を先行する「デジタルファースト」でもない。2次利用可能な中身を先行するのが「コンテンツファースト」である。

コンテンツファーストとは

電子出版制作・流通協議会:田原恭二氏

コンテンツファーストを判り易く言うと、中身と入れ物を分けて考えようということである。
良くない例えだが、ビールである。今までは瓶ビールしか売っていなかった。そこに缶ビールが出てきたとか、生ビールも出てきた。中身はビールだが、入れ物は瓶があったり、いろいろな大きさの缶がある。
誤解を恐れずに言うと、今までの出版物は、入れ物を含めてどうやってプロダクトを作っていくかということに最適化してきた。あまり、中のコンテンツとパッケージの形状を分けて考えるということはしてこなかった。

それを一旦分けて、中身のビールをしっかり作ることと、パッケージ化することを別にしっかり考える。それがコンテンツファーストの考え方のわかりやすい例ではないか。

ITがどんどん進んで今後状況が変われば、入れ物もどんどん変化していく。しかし一旦作った中身を作り直す必要もなく、再利用できる。そうすることでいろいろなメリットが出てくるというところが、コンテンツファーストの目的である。

スマート・ソース・エディターが実現する 「コンテンツファースト」

株式会社講談社 デジタル製作部次長 増子 昌也 氏

印刷用データを2次利用してEPUB等へ変換すると、DTPソフトのバージョンや文字コードの相違によって、一から校正せざるを得ない状況となる。文芸作品を文庫化するだけでも、やはり一から校正しているという現実がある。

このような問題を解決するには、テキスト情報の中身を紙でも電子でも使い回しがきく状態で保存することである。
独自のXML形式で、Unicodeを採用する。そのためのツールとして、スマート・ソース・エディター(Smart Source Editor:SSE)というシステムをNECと共同開発した。 これからの書籍の制作、将来的には雑誌の制作も、このツールを使ってコンテンツファーストという考えでいきたい。

SSEの文字表示は、情報処理推進機構(IPA)が提供している5万字強の「IPAmj」明朝フォントを採用している。Unicodeであるため、そのままInDesign、EPUBへ文字情報を引き継ぐことができる。

数字や欧文の全角半角の検知や一括修正などの原稿整理機能や、表記の統一、誤用、送り仮名規準などをチェックする校正支援機能も備えている。

初校の組版や電子書籍製作については、各印刷会社内でSSEコアデータから一括変換しているため、作業期間を大幅に短縮することができた。
XMLデータのため、将来的に特定のアプリケーションやOS、バージョンに依存することがない。SSEコアデータを中心に雑誌の連載や単行本、文庫本、電子書籍などの多メディア展開を容易に実現することができる。

SSEの画面は原稿用紙のイメージである。文字修飾として「強調」というタグが表される。書体名や具体的な文字サイズではなく「強調の何番」と設定する。 入稿する際に「強調1」「強調2」との対応を指示する方式である。強調番号で指定するのは、作業するアプリケーションが、InDesignやMCB2とは限らないためである。紙の本を作る環境とは限らない。

これが、講談社の考える「使い回し」がきく、汎用データである。著者からお預かりしたデータを将来的に提供し続けるための仕組みである。
現時点で300点以上の書籍を製作し、問題も出ていない。
今後は、このツールを雑誌のネーム、コミックの吹き出し等にも使用していきたい。併せて、写真や画像・素材の管理等も同時におこなえるような仕組みを検討していきたい。

※page2015カンファレンス「これからの出版コンテンツ制作」より

(まとめ JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)