「マーケティングオートメーション」で何ができるか

掲載日:2015年3月12日

JAGAT大会2014で特別講演をお願いしたジョー・ウェブ博士の新刊『This Point Forward』の日本語訳の出版に向けて鋭意制作中である。

ポスト『未来を破壊する』の世界

アメリカの著名なコンサルタントであるジョー・ウェブ博士の著した『未来を破壊する』は、2012年に日本で翻訳本が出版され、ずいぶんと話題になった。このままでは決して明るくない未来を破壊し、明るいものに変えていくという啓蒙の書である。

2014年10月3日に開催したJAGAT大会の講演でもウェブ博士は、ウィットに富んだ独特の語り口で聴衆を魅了した。その場で最新刊の『This Point Forward』の話に触れて、JAGATで出版することになった。人となりが、本書にも色濃く表れており、映画の気の利いたセリフやジョークを交えながら綴っている。正直なかなか面と向かって印刷業界の人には言いにくいこともズバリと言ってのけている。

とても読みやすく、まさにポスト『未来を破壊する』の世界――メディアミックスを意識した印刷の新たな役割――を実現させるための具体的な提言の書である。この新刊本に関しては、以前Webページで概略を公開しているので、そちらも参照にしていただきたい。

「バックミラー戦略」から“This Point Forward”へ

あらゆるメディアは、人びとの生活上で進化していく。より快適な生活のためには利便性を求めることもあるし、時代に合ったものが選ばれていくのは当然のことである。しかし、「あれかこれか」といった二者択一を突き詰めるのではなく、それぞれのメディアの特性を活かしていけばいいのである。

メディアの未来予測についてカナダのマーシャル・マクルーハンは過去を見ているにすぎないという。「われわれはバックミラーを通して現代を見ている。われわれは未来に向かって後ろ向きに進んでいく。」という詩的で印象的な言葉を残している。

これは読み替えてみるとあらゆる成功体験をもった人にあてはまるだろう。曰く「昔はよかった」というやつである。このマクルーハンの言葉に似たものに本書の中でたびたび登場する「バックミラー戦略」がある。過去がうまくいっていたから、これからもその成功は続くと勘違いしがちだというものである。

ウェブ博士は、この過去にとらわれている「バックミラー戦略」ではなく、本書のタイトルである“This Point Forward(ここから先へ=未来を創る)”への移行を説いている。この「昔はよかった」というロマンスを本書では「印刷への愛」という言葉で表現し、しかし発注者にとっては「そんなことはどうでもいい」となかなか手厳しい。

そして、効果測定がカギを握るとしている。マーケターがデジタルメディアに親しみを感じるのは、それが効果測定可能なツールであるからだ。そうだとすれば、印刷がデジタルに歩み寄るか、もしくはデジタルデバイスと印刷物の親和性を強くすることを考えるということではないか。

データ解析と効果測定

第2章で「マーケティングオートメーション」について語られる(実際は第3章で詳細が述べられる)。ここではマーケターがいかに効果測定を重視しているかが述べられている。メディア環境が変わることで生活者の行動が変化した。だからビジネスも変わり、マーケティングの手法も変化しているのである。

しかし、ここでまた印刷業界とマーケティングの問題が浮上する。最新のアドテクノロジーやビッグデータなど何の関係があるのだという疑問が生じる。ウェブ博士は、その疑問に対しても印刷業界と「マーケティングオートメーション」の関係について強調している。マーケティングオートメーションは、個別の顧客に対して、「最適なコンテンツ」を「最適なタイミング」で「最適なチャネル」に自動的に提供するツールのことである。

印刷物はかつてのように唯一無二のメディアではなくなったが、実は印刷物も効果測定ができるし、どうすれば他のメディアやデジタルと関係をもち、どのようにマーケティングオートメーションにつながるかを考えるべきだと提言している。

データ分析と新規ビジネスの関係

印刷業界で「データサイエンティスト」を育成できるか、そもそもそのような人材が必要なのか。ウェブ博士の言を俟つまでもなく、このことは印刷と関係がある。顧客の行動解析が重要なのは、現在の販売行動の中心は消費者であるからだ。メーカーによる一方通行は難しくなってきている。その分他の業界、業種にもチャンスが生まれてきているのである。

ウェブ博士は2020年に向けて非印刷の新しいビジネスを構築せよというが、そんなに簡単なことではない。設備の減価償却の問題もある。人材だって簡単に採用できるわけではない。しかしそこはできるところと手を組むことで解決していけるはずである。

例えば、これからの新規ビジネスは1社ですべて完結するのではなく、協業することを考えていったほうが得策だと思う。もちろんこれからの競合は同業他社ではなく、異業種との戦いになるだろう。しかし、広告代理店やIT企業と戦うことよりもお互いの利点を活かして、補完し合っていくほうがはるかに建設的ではないか。

データ分析によって、どのように自社の印刷ビジネスに落とし込むか、その導線を考えることが今後のビジネスを考える上で選択肢の一つになると思う。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

●関連情報

【プリンティング・マーケティング研究会、クロスメディア研究会共催】
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