教育や法令、学術論文など構造的な文書を組版する手法として、XML技術は根強く利用されている。近年では、Webや電子書籍と印刷向けにコンテンツの一元化とマルチユースを実現する手法としても、注目されている。
XMLによる出版・制作を独自に調査しているXMLパブリッシング研究会の活動について、株式会社ウェブインパクトの西河貴史氏に聞いた。
■XMLオーサリングと組版・EPUBツールの開発
XMLパブリッシング研究会は、2010年4月に発足し、XMLコンテンツのオーサリング、自動組版、電子出版などのサンプル制作やツール開発を通じて、情報交換やスキルアップを目指す有志の集まりである。
実際のメンバーは20数名で出版社や印刷会社・制作会社、IT会社など多方面からの参加がある。
主な活動は、サンプル制作やワークフローを検討するワークフロー・グループとツール開発をおこなう技術グループがある。技術グループは、当初、XML技術を詳しく理解するため、仕様を限定したXML変換ツールを開発した。それがXMLオーサリングツールと、XML組版ツールである。
その後、機能を拡張してEPUB変換にも対応している。
日常的にSNSやFacebookで情報交換しているほか、月1回JAGATに集まってミーティングをおこなっている。
これまでに、これらのツールを使用して盲学校の教科書をXML化し、視覚障がい者向けの大活字本や背景色を反転させたPDFを制作し、全日本盲学校教育研究大会での発表したこともある。
DAISY(アクセシブル情報システム)のセミナーでは、DAISY4からXML経由でPDFを生成するという発表もおこなった。
また、減災行動手帳というコンテンツのXML化に取り組み、スマホやPCで利用できるための手法を検討した。
このようなワンソースマルチユースによる電子化、アクセシビリティ対応などを目的とした勉強会をおこなっている。
XMLオーサリングツールの「Jepasspo」とXMLからPDFやEPUBを作成するツール「FANTaStIKK」は、Vectorで無償公開している。
機能限定のため業務用に使うのは難しいが、ワンソースマルチユースのトライアル用としては十分である。
動作環境としてはJAVAが必要で、MacでもWindowsでもLinuxでも動作する。
「Jepasspo」は、日本電子出版協会が規定したJepaXに限定したオーサリングツールである。
GUIベースでXMLオーサリングが可能であり、ボタンを押すとタグが出るような方式である。JepaXのコンテンツに対して、版型や書体、サイズなどの組版指定を設定し、組版データ(XSL-FO)、またはEPUBに変換するツールが「FANTaStIKK」である。
XSL-FOは、Apache FOPやAH Formatterというツールを経由して印刷用のPDFを生成することができる。
組版指定はユーザーがGUIで変更することができる。例えば、本文とタイトル、目次・前書・後書きなどの単位で設定する。版型やページサイズ、余白などや書体・文字サイズ、インデント、段落間なども設定可能である。
組版指示はユーザーが一から設定することもできるが、プリセットの仕組みもある。プリセットをカスタマイズして、自分用のセットとして保存することもできる。
EPUBに変換する場合、EPUBは版型の設定がないし、文字サイズも相対的となる。
■HTMLBook対応
HTMLBookはXHTML5のサブセットであり、コンピュータ関連の専門書出版で著名な米国オライリー社が提唱し、XHTML5ベースで書籍を執筆・制作するための規格である。
XMLパブリッシング研究会では、現在HTMLBook規格の調査・習得とツール開発、サンプル制作を計画している。
HTMLBookの詳しい内容はWebで公開されており、その日本語訳を作成して公開した。今後のツール開発は、XHTML5の入力対応とDAISY対応、ユーザーインタフェースの多言語対応もおこなう。現時点のHTMLBookへの対応状況は9割方完成しているが、一部に未対応の部分が残っている。
(JAGAT 研究調査部 千葉弘幸)