『未来を創る』から考えるマーケティングオートメーションとは

掲載日:2015年5月14日

『未来を創る―THIS POINT FORWARD』日本語版が発行になった。前著の『未来を破壊する』と併せて読むことで印刷の未来、自社の方向性を考えるきっかけにしていただきたい。

『未来を破壊する』から『未来を創る』へ

JAGATでは、これまでも印刷業のあり方や方向性についてもイベントやセミナーなどで検討してきた。ことに『未来を破壊する』日本語版の出た2012年以降は、この本をもとに議論し提言をしてきた。2014年のJAGAT大会では著者の一人であるジョー・ウェブ博士を招聘し、page2015では「未来を創造する―Post未来を破壊する」をテーマに基調講演を開催した。そして、このたび『未来を破壊する』の続編として、『未来を創る』を刊行した。

印刷会社が陥りやすい思考法として、紙と電子をすぐにVS.でとらえて、紙の優位性を述べて、「印刷物はなくならない」と考えてしまうことである。もちろんなくならないだろうが、量は減るだろう。電子メディアのほうが便利な場合は、使う人がそちらを選択するからだ。これは善し悪しの問題ではなく、メディア環境の変化と利便性の問題である。

しかし、印刷物がコミュニケーションツールとして、主流から外れていく現実を捉えろと言ってもやはり頭を抱えて悩んでしまうのが、当然だというものだ。落ち込んだ売上高を補完するにはどのようにしていけばよいのだろうか。頭を抱えているばかりとか、「じっと手を見る」だけでは物事は解決しない。

本書の意外な魅力再び

ここで脱線することを承知で、本書に細かく書かれている注釈(原注)を意識・模倣して、石川啄木の有名な「じっと手を見る」について見てみよう。

はたらけど
はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり
ぢつと手を見る

これは啄木の処女歌集『一握の砂』の有名な一首である。一首三行詩の形式は画期的な手法だったが、その内容は生活短歌の域にとどまっている。わずか26歳で亡くならなかったら、社会主義に傾倒し始めた啄木は思想家としてどのような変貌を遂げたのだろうか。

……じつは、一見すると本論とは何も関係なさそうな引用やうんちく(ときにはダジャレ)が注釈にたくさん載っているのも『未来を創る』の特長である。この「じっと手を見る」もウェブ博士の言い方を真似してみると、「啄木も変わらざるを得なかった」のであり、「ああ『一握の砂』のような古典的な名作が若い世代にまるで知られていないとは!」となり、もしくは「またも懐古趣味に走ってしまった」となる(詳しくは本書をご覧いただきたい)。

「付加価値」を見つけること

さて、「付加価値」とか「ソリューション」などは、実態がよく見えない、いわゆる「玉虫色」の抽象的な用語だと思うが、われわれはつい口にしてしまう。
そこでしか買えない、オリジナル商品は稀少価値を生むことになる。ただし付加価値とは、今あるものに独自の価値やサービスが付随することを指すのであろう。このことについて本書では次のように書かれている。

「高付加価値」の最大の難点は、大半において印刷会社にとっての価値が想定されていたことだ。つまり高付加価値とは、印刷会社が何らかの業務(付帯サービス)を請求書に追加できることで得る利益のことだった。

では本当の付加価値とは何かというと、それは「価値の有無を決めるのはあなたではない」し、「あなたが考えたこともないものかもしれない」とかなり厳しい。本当の意味における付加価値は、あくまで顧客視点であるとしている。

マーケティングオートメーション

最近のマーケティングのトレンドは、マスから個別のコミュニケーションへと移行している。おそらくこの流れは止められない。もちろん活用するためには、データが必要になる。

データの取得に関して、かつてはPOSデータやアンケートなどがあったが、スマートフォン(スマホ)が出てから一気に容易になったと思う。Apple Watchが普及すれば、さらに身に着けているあらゆるものから自身のデータを放出していく時代になるだろう。そこにマーケティングと商機をどのように感じ取るか、を考えるのがマーケターの役割である。

これまで印刷業界ではデジタルマーケティングなどを考えなくてもよかったし、あまりその必要性もなかった。しかし、デジタル印刷という流れが大きくなるとしたらデジタルデータの取得やデジタルメディアとの親和性は避けて通れない。さらに印刷物をどのように測定できるようにつなげるかをこれから考えていくべきではないか。

本書でも「理解不能な昨今のマーケティング用語(筆者は嫌気がさしている)」と書いてある。マーケティング用語は、日本語にうまく訳せないからそのままなのだろうが、それにしても次から次へと横文字が並ぶのには辟易させられる。一時期Web2.0がはやったときにも横文字だらけだった。

ただし、これらのマーケティング用語はマーケターにとっては当たり前の言葉で、通常の会話に出てくる。彼らの会話の中に「印刷」という言葉が出てこないことが問題だと本書では指摘している。仕事を獲得したいなら彼らと同じ言語で話すべきだと述べられている。

同じ業界や特定の集団でしか通用しない言語を「ジャーゴン」というが、それはそれぞれの業界内における仲間意識やもっと言えば、特権や自信の表れであったのかもしれない。しかし、いまやデジタル化によってあらゆる情報が串刺しにされることで、ブラックボックスは解体され、ジャーゴンも通用しなくなりつつある。

「マーケティングオートメーション」はそのものずばりマーケティングの自動化のことだが、個別自動化で顧客にとって有益な情報をタイムリーに提供していくことである。これは印刷にも当てはまる。なぜならデジタルマーケティングを最適化することは、PODやバリアブル印刷と同じ発想だからである。

それぞれの会社が、それぞれの顧客や商品、そして戦略を考えて、デジタルに舵を切るのか、アナログ印刷の深耕をするのか、他人任せでなく自分で答えを見つけることをウェブ博士は問うている。

メディアミックスの中での印刷の役割を考えて、提案できることと顧客やマーケティング担当者と同じ言葉で会話することの重要性を述べている。マーケティングオートメーションを知らないマーケターは、「マクドナルドを知らない人がファストフードの店を開くようなものだ」とまで言っている。

同じ言葉で、異業種の人と話し合ったり、顧客の立場で一緒に販売促進のお手伝いをすること(その中にマーケティングも含まれる)、まずは2020年に向けて行動を起こすことが必要になる。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)

●関連情報

【印刷総合研究会―印刷マーケティング部会】
2015年5月28日(木)14:00-16:20
『未来を創る―THIS POINT FORWARD』発刊記念セミナー

※本書の中でページ数を多く割いているマーケティングオートメーションについて、代表的な企業であるマルケトの福田康隆氏よりマーケティングオートメーションはどのように活用され、どのような成果をあげているのかについて事例とともに説明していただく。また「未来を創るために必要なこととは」と題して、ディスカッション&質疑を行います。