本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
~地域住民に愛され、地域活性化のために活躍するご当地ヒーロー~ 新潟・(株)クラビスの試み
ご当地ヒーロー」を使って地域企業や住民に元気を与え、地域を活性化させている印刷会社がある。域の言葉で話し、地域の名産品や文化を取り入れ、地域住民の心をつかんで離さないご当地ヒーローを作り、地方発のキャラクタービジネスに取り組む、株式会社クラビス 代表取締役社長の浅川進氏にお話を伺った。
活版鋳造会社から印刷機材販売商社へ
「愛をコメたヒーローはトキを越えてやってくる!」というキャッチフレーズのもと、新潟県の米を守るために2050年から現代にタイムスリップして戦う「超耕21(ちょうこうにじゅういち)ガッター」。米の文字をあしらった仮面をかぶり、肩にトキを乗せ、足にはコンバインを連想させるプロテクターを装着している。
このご当地ヒーローを企画し、地域を盛り上げているのが株式会社クラビスの浅川進氏だ。地道な活動を続けることで人気に火がつき、現在は県内でのTV 放映やヒーローショー、キャラクターグッズなどの版権ビジネスへと事業は広がっている。
株式会社クラビスは、1923 年(大正12 年)に活字を鋳造する「合名会社浅川活版鋳造所」として新潟市で創業、1965 年(昭和40 年)に「浅川商店株式会社」を設立、1966年に「浅川活版製造株式会社」と社名変更した。活版からオフセットへの移行に伴い、オフセット資材・機器など印刷機材販売商社として新潟、青森、秋田を拠点に事業展開した。コンピューターの普及により、印刷資材の売り上げに陰りがみえてきた1993年、東京の大学を卒業して社会人生活を送っていた浅川氏が帰郷し、入社した。
ニッチ市場「同人誌」印刷会社への転身
入社後、「印刷機材販売だけでは生き残れない、次の手を考えるべきだ」と印刷事業への参入を当時社長だった父・進一氏に提案したが「顧客である印刷会社の仕事は取れない」と反対された。その直後、父が病に倒れ、入院してしまう。危機感を持った浅川氏は半ば強引に印刷業に参入したが、思うようにはいかなかった。撤退を考えるようになったある日、父が他界し、浅川氏が5 代目社長に就任した。
既存客の印刷会社と違う領域・市場を見いだそうと模索していたとき、漫画・アニメの同人誌市場があることを知った。東京で開催されたイベントの視察中にみたものは、見渡す限りの人と印刷物だった。これはビジネスになると直感したのだ。「同人誌」というニッチ市場に取り組む同業者はいないため、不義理をすることなく、地方にいながら全国を相手にビジネスができる。こうして、個人客をターゲットにした同人誌印刷に特化して印刷業に参入することにした。自社の認知度を上げるためにキャンペーンやポイントシステムを取り入れてリピート客を増やすなど、確実に売り上げを伸ばす仕組みを考えた。同人誌印刷で得たノウハウを使い、漫画を用いた広告や会社案内などへも事業を広げた。そして2002 年11月、株式会社クラビスが有限会社フリークを吸収合併する形で、印刷機材の販売部門を畳み、印刷会社へと転身した。
新潟の魅力を詰め込んだ「超耕21ガッター」
順調な同人誌事業にも大きな課題があった。同人誌印刷は、夏と冬に開催される大規模同人誌イベントの直前が受注のピークとなり、それ以外の時期は閑散としてしまう。イベントに左右されない安定的な収益が見込める事業を模索する中、あるビジネス誌で秋田県のご当地ヒーロー「超神ネイガー」の存在を知った。
「記事を読んだ瞬間、地域活性もできるし絶対におもしろいと確信した。すぐに仕掛け人の海老名保さんに連絡し、秋田まで会いに行った。その日のうちに意気投合して新潟でもやることが決まったんです」。興味があれば、すぐに行動を起こす性分なのだと浅川氏はいう。当初は社内でヒーローの設定や名前、必殺技などを考えたが、「超神ネイガー」だけでなく、沖縄の「琉神マブヤー」など次々に人気の新しいご当地ヒーローを生み出している海老名氏に新潟の食文化や方言、新潟人の心をくすぐるツボを伝え、それをもとに考えてもらうことにした。打ち合わせを重ねたある日、海老名氏から「新しいヒーローが生まれた」と連絡が入り、1 枚の企画書が手渡された。そこには、相関図やヒーローの名前、悪役たち、設定や必殺技などがびっしり書き込まれていた。それらは全て、新潟人の心をつかむポイントを押さえたものだった。
こうして、2009年夏、新潟県の米を破壊して食い散らかす謎の宇宙人から新潟の米と平和を守るヒーロー「超耕21ガッター」が誕生した。
キャラクタービジネスのモデル確立へ
「超耕21ガッター」は2009 年7月11日のハイブ長岡(長岡市)、翌12日の万代シティ(新潟市)のイベントでデビューした。マスコミや口コミ、ヒーローショーなどで認知度は上がっていった。現在は月に2~ 3 度のステージショーを行い、フィギュアやシールや手袋、Tシャツなど多くのグッズを新潟駅のお土産屋さんや道の駅、ヒーローショーなどで販売している。版権を持つクラビスは、イベント出演料やグッズ開発メーカーからのロイヤルティーを待つ仕組みになっている。
2010年12月には初のテレビ放映も実現した。制作はガッターショーを担当するパートナー企業にお願いできたが、スポンサー探しに苦労したという。人脈からスポンサーを募ってなんとか制作資金を集め放映すると、大きな反響を呼び、2011年7月には放映局のバックアップも受け、2 話目の放映も実現した。主人公のエイチ・ゴウ役には、新潟県のアコースティックデュオ「ひなた」のメンバー・たかのり氏が扮し、オープニング曲もオリジナルで書き下ろした。エンディング曲は新潟のご当地アイドル「Negicco」が担当している。
話目のエキストラは全てガッターファンのボランティアだったという。地域活性化のために企画したヒーローは、多くの地元アイドルや地域住民を巻き込み、成長し続けている。
チャレンジし続けることで新しいビジネスが生まれる
2011年11月3日、新潟市食育・花育センターの「にいがたっ子 食花まつり」でガッターショーが行われた。ショーが始まる随分前から大勢の家族連れが来場し、子どもだけでなく大人までが心弾ませながらガッターの登場を待っている。待ちに待ったショーが始まり、お姉さんの「さあ、みんなでガッターを応援するよ」の声に「がんばれ!」と口々に叫ぶ子どもと微笑みながらそれをみている大人たちがいる。
「子どもだけでなく大人も一緒にファンになってくれるのは、うれしい。ガッターの魅力は、かっこいいのに新潟県民にしか分からない話題や方言丸出しで話したりと、どこかはずしているところ。でもそれがみている地元の人たちにおもしろがられて受け入れられる。長く愛されるヒーローに育てていきたい」浅川氏は今後、地方発のキャラクタービジネスに取り組んでいきたいという。広く認知されている有名キャラクターはたくさんあるが、地方企業が使用するには高額すぎる。それに比べると、ご当地キャラクターは金額的にもリーズナブルで使い勝手もいい。県内企業に使ってもらい、会社のサービスや商品が売れて地域が盛り上がり、回り回って自社にも還元される形を目指している。
活字鋳造から印刷機材販売商社を経て、同人誌に特化した印刷会社へ転身し、現在はキャラクタービジネスにも取り組む。臆することなく業態変革を続けてきたクラビスから生まれた「超耕21ガッター」は、新しい新潟のヒーローとして、地域活性化に貢献しつつ、これからも多くのファンを魅了し続けていくだろう。
-取材協力ー
株式会社クラビス
事業内容=印刷(主に一般個人客をターゲットとした同人誌)、不動産賃貸(ペット同居可マンション)など