本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
フューズネットワークは、FUSEeという電子書籍のオーサリングソフトウェアを開発している会社である。2000年に個人事業主で立ち上げ、2006年に法人化した独立系のシステムインテグレータで、システムの開発、設計、運用を生業としている。銀行の基幹システムでは、みずほ銀行の基幹システム、地図検索のサービスでは、パイオニア関連のカーナビとかWebの地図検索などの仕事を主に行っている。
2000年以前、私は吉祥寺の広告屋と印刷所が合体したような会社で仕事をしており、DTPのオペレータや製版を中心にやっていた。システム専門であったが、印刷に関わる技術とか制作に関わる技術には、ある程度の予備知識的なものはあったので、EPUBというものに関わっているという経緯もある。
さらに、フューズラボというEPUBのデザインとか制作を請け負う会社も経営している。「EPUBの電子書籍制作をやります」と手を挙げた最初の会社ではないかと思う。フューズネットワーク、フューズラボ共に、EPUB形式の電子書籍の受託制作を行っている。
電子書籍制作ツールのFUSEeについては、Windowsのスタンドアローン形式のアプリケーションで、FUSEeとFUSEeβという、主に2種類のラインナップで展開しているEPUB制作ソフトウェアである。
FUSEe開発の経緯は、2009年夏頃、我々の事業であるシステム屋にクラウドの波がやってきて、非常に経営が厳しくなりそうな気配があり、何か新しいソリューションはないかとニュースを見ていたところ、ある出版社が書籍の返本を断るというニュースが流れていた。
そのニュースを見て、「これは小さい本屋さんがなくなるのではないか。これから電子書籍がもしかしたら主流になっていくのではないか」ということで、世の中にある電子書籍のフォーマットを調べた。XMDFとか、ドットブックとか、EBIとか、いろいろなフォーマットの電子書籍があるということがわかり、その中でアメリカのIDPFという団体が提唱しているEPUBというフォーマットがあるという情報がWeb上にあり、調べてみるとおもしろいフォーマットであった。
基本的にはWebの技術を利用した、当時XHTMLとCSS2を利用した電子書籍のようなフォーマットのものであるとわかり、実際にそのフォーマットの仕様書を見た翌日、我々はもうソフトウェアを作っていた。意外にデータの中身がシンプルで、HTMLとCSSと、いくつかのXMLのファイルを組み合わせて、あとはZIPで圧縮したもので、当時我々は認識して、このお手軽さというものはなかなかないと考えた。
それまであった多くの電子書籍のフォーマットは、わりと仕様に関してクローズドであった。制作環境も有償のものが多く、ファイルフォーマット自体も内容が明かされていなかった。そこで我々はオープンな技術を利用した電子書籍のフォーマットを推し進めていくサイドに回ってみようと考えて、EPUBのソリューションに着手することにした。当時、私はいいと思っていたが、全社員から猛烈な反対を受けて、いまだに続いている。私も「やめておけばよかった」と思うことは多々あるが、そういう経緯で開発を始めた。
今現在、会社として電子書籍業界に対してのアプローチは、JEPA(日本電子出版協会)と、AEBS(電流協)に加盟して、セミナーや資料の作成といったことに参加している。また、会社では、FUSEeというソフトウェアを通して、いくつかの指針のテンプレート、特に日本語の組版に関する指針を、JEPAと、インフォシティとボイジャーが中心になって決めたEPUBJPという指針、インプレスR&DのOnDeckのテンプレートに関して、FUSEeを介して世の中に配信していくという活動を行っている。
現在、インプレスR&Dが出している「OnDeck」というEPUBの雑誌で、「FUSEeβで始めるEPUB3入門」という連載を持たせていただいている。他にいくつか制作環境、オーサリングソフトとかWebのサービスとか、そういったものがあると思うが、何が違うのか、見ていきたい。いくつかは他のツールでも実装されているものはあると思うが、EPUB3とEPUB2に対応しているので、EPUB3の書籍、EPUB2の書籍、独立したものそれぞれと、あとはEPUB3とEPUB2が混在した形式の、読み込みと書き出しに対応している。
EPUB2の時代から実際AppleのiOS上で動くiBooksというEPUBビューワの上では、比較的、EPUB3に似たというか、寄せた機能がたくさん載っていたが、その辺にもその都度対応を行っていた。いまだにiBooksの日本語縦書き環境がリッチなものかというと、全然そんなことはないが、今できるiBooks上の日本語表現のすべては一応満たせるだけの機能は持っている。それから、ビューワ・デザイン共にWebKit採用とあるが、FUSEe制作の過程において、ビューワとデザインタブを切り替えて制作を行っていただく。FUSEeの製品版1.2までWebKitのデザインタブ、WYSIWYGのデザインタブを持っていなかったが、つい先日バージョン1.3をリリースして、WYSIWYGの画面にもWebKit採用が終わっている。日本語の縦書き対応、ルビ、圏点などにも一応対応している。
ただ、この辺の表現に関しては、WebKitの実装に基づくものになっている。WebKitを採用したことによって、多くのEPUBビューワで採用されている描画エンジンであるというところから、比較的FUSEeで作ったものに関してはWebKitを使っているビューワで表示したとき似たような表示になるであろうという期待が持てる要因になっているのではないか。
それから、HTML5のビデオタグ、オーディオタグに対応している。また、JavaScriptが動く。描画エンジンWebKitを使っているが、そのWebKit自体、一緒にJavaScriptを動かすエンジンも内包されているので、JavaScriptも動く。ただ、EPUBビューワのすべてがJavaScriptに対応しているわけではないし、対応しなければいけないわけでもないようなので、一応FUSEeで動くことは動くが、それがビューワで動くかどうかは、ビューワに実際持って行って確認する必要がある。
それから、OTF/WOFFフォントの内包が可能である。印刷ではおなじみのオープンタイプフォント、Webで最近使われ始めたWOFFフォントの内包が可能になっている。
今までTrueTypeのフォントを内包させるようにしていたが、EPUB3からTrueTypeのサポートが外れたので、一応、内包できないようにしてみた。しかし、最近TrueTypeフォントの外見をしたオープンタイプフォントというものがどうもあるらしいということがわかって、ひょっとしたら戻すかもしれないという社内的な動きもある。
SVG対応というのもWebKitの機能によるところが大きいが、XMLで書かれたベクターのグラフィックをビューワ上で表示できるというようなものである。
その下のメディアオーバーレイ対応に関しては、SMILの拡張子がついた、マルチメディアによる読み上げ機能のようなものだが、それに対応した。実際はSMILだけではなく、PLSとかSSMLとか、そういったファイルも内包できるが、実際に設定ファイルのほうで正しく反映されるかという確認をまだ我々は行っていない。今のところ、SMILによるメディアオーバーレイが可能である。
その下の、iBooksに対応した固定レイアウト形式での書き出しというのは、PDFのようなレイアウト固定の書籍がEPUB3から一応作れることになった。2の時点でiBooksではフィックスド(固定)レイアウト形式で閲覧可能だったが、近ごろ、ソニーリーダーとかReadiumが、IDPFが提唱している固定レイアウト形式に対応したということで、我々もiBooksだけでなく、それ以外のビューワに対しての固定レイアウト形式での書き出しに対して、現在アプローチしている最中である。次のリリースバージョンでは固定レイアウト形式での書き出しが可能になる。
あとは指針とかデザインテンプレートの利用が可能ということで、先ほどの3つ、JBasic、EPUBJP、OnDeckという指針及びテンプレート、そしてデザインテンプレートが1種類入っている。
EPUBの書籍を書かれている林拓也氏が提供しているHapHandsテンプレートというものがあるので、それを利用して制作が可能ということになっている。これが主な他の環境との違いになると思う。
次に、FUSEeとFUSEeβの違いを説明する。FUSEeという製品は2つのラインで展開を行っている。FUSEeという製品と、FUSEeβという無償で提供しているツールの2パターンである。
FUSEeのほうはアマゾンで販売を行っている。直販も可能だし、いくつか代理店契約していただいている業者もあるので、購入される際はいずれかをご利用いただく形になる。FUSEeβのほうは、我々の会社のサイトからリンクが張ってあり、行けるようになっている。基本的には無償で提供している製品である。
何が違うのかというと、FUSEeβのほうはWYSIWYGの編集画面を持っていない。また、画像の編集機能やSVGに関するツールのいくつかが使えなくなっている。基本的に書き出すコードに大きな違いはないが、FUSEeβは無償で提供している関係上、動作保証はしないし、先進的な機能が早く乗る可能性が高い。ご利用いただいて使用感などフィードバックをいただくことによって、製品の品質を高めていくというスタイルで提供している。
あと大きな違いは、FUSEeβのほうはマニュアルがついていないので、Webの制作に慣れていない人には、正直、何のことやらわからないというソフトウェアになってしまっているかもしれない。
β版のマニュアルは有償で販売させていただいている。これはEPUBの書籍を販売している書店、現在は文楽とパブーで販売している。使い方に関しては、多くのWebのオーサリングソフトとそれほど変わりはないと思っているので、わからない場合はWebの制作に詳しい人に聞いてもらえば大体作れると思う。
実際にβを使ってデモンストレーションを行ってみたい。WYSIWYGがないものだが、OnDeckのテンプレートが開いた。「新規で作成」を選ぶとテンプレートが開く。環境設定のテンプレートのところで「テンプレートを使用する」にチェックが入っていると、あらかじめ設定したテンプレートが開くようになっている。
EPUBJPのテンプレートを適用して、新規で何かを開こうとすると、既に表紙、縦書きのタイトル、注意書きなど、「ここに本文が入る」など、マークアップの例が入ったものが出る。少しおかしいところもあるが、一応縦書きで表示されるようになっている。
このように、最初からテンプレートを使うと、特に労せずとも、タグを編集することによって、こんなふうに変更しながら作ることができる。
テンプレートを使わない場合は、何もないような空ページができる。これが何もないページである。目次もFUSEeが勝手に生成してくれるようになっている。環境設定のカバー、目次のところで、目次のグループの下のほうに、「H1-H6タグを目次に含める」というドロップダウンのものがあるので、ここにチェックを入れる。
わかりやすく「目次に入れてね」と書いて、Hタグを付けていく。FUSEeのコード編集の右クリックメニューには、わりと強力なタグサポートメニュがあるので、使っていただけると便利だと思う。
1から6まで、見出しのタグ、Hタグが付いた。これでビューワを見てみると、「目次に入れてね」の1から6までマークアップがなされて、同時に目次のところに自動的に目次が生成された。もちろん、本文がないとどうしようもないが、Pタグ、段落で文字を打っていけば、一応書籍のようなものが簡単に作れるというのがFUSEeである。
電子書籍全般、特にEPUBは、書誌情報がとても大事だと思う。ファイル自体が検索対象になることを意識したフォーマットなので、書籍タイトルは全部埋める勢いで埋めてもらったほうがいいような気がする。
実際、ファイルが独り歩きしていったときにも、書誌情報をもとに、インターネット上にあるものであれば引っかけられるような仕組みが今後できてくると思うので、この辺は、あるものに関しては全部入れたほうがいい。
その隣のタブ「その他の情報編集」は、著作権のありどころを示すものである。膨大な項目が和訳されている。「疑わしき作者」というのは、何に使うのかわからないが、疑わしいという人はここに書いておけばいいのだろう。作者であることが疑わしいような人を書いておくと、そういった人が検索で引っかかるようになるのかもしれない。一番右はプロパティタブで、このファイルの情報を確認するようなタブになっている。
FUSEeβはWYSIWYGがないという話をしたが、実際に作りづらいかというと、社内で話を聞いた感じでも、実は製品版より使いやすいところもたくさんある。
これは橋脚の写真だが、本文の画像を挿入したいところに、タグ挿入でツリービューに登録したイメージが選択できるようになっている。これで画像が入る。画像の大きさ等に関しては、現在の制作のプロセスとして、スタイルシートでサイズを当てていくというのが主流になっていると思うので、新たにスタイルシートを追加して、そこにイメージタグのサイズ等を記入して、スタイルシートで今作ったものを挿入すると、今、ここに入っている。タグを勝手に挿入してくれるような機能が、たくさん右クリックメニューについているので、いろいろお試しいただければと思う。
FUSEeでは、制作の作業をする人が楽になったほうがいいということで、いろいろとアプローチしている。これは、用意した600dpiのTIFFの画像をツリービューに登録して、それをPNGに変換すると、左下に「TIFF画像をPNG画像に変換している」という情報が出ているが、変換が終わったものが登録されるといった機能である。
これはまだリリースされている機能ではないが、この辺の機能を安定させたものを、今週水曜日あたりにリリースしようと思っている。機能は、TIFF画像のPNG、JPEG変換というものと、右クリックして画像を小さくするとSVGの画像を作ってくれるといった機能も新しく付ける。
今のところ、IPAEX明朝ゴシックとMS明朝ゴシックだけ対応しているが、いずれは登録されているフォントすべてでSVGの画像をフォントから作成するという機能を実装しようと思っている。
それから、Web制作の人にはおなじみの機能だろうと思うが、インスペクターという機能がある。JavaScriptのデバックなどで非常に有用に使えるものだが、実際のソースをいじらずに要素の検証ができる。
ソースの内容を変えずに見た目を変えることができるので、複数人で検討したりするときは非常に有用に使えるのではないか。色を変えてみたり、サイズを変えたり、SVGだけでなく、HTMLのコンテンツでも同じようにソース自体をいじらないで要素の検証ができるという機能が、次のリリースで実装されることになっている。
今、EPUBを世の中に広めようという活動の一環で、志茂田景樹先生の読み聞かせイベント、「よい子に読み聞かせ隊」というイベントがあって、そこで使われている絵本をEPUBで作ったらどうなるのかということをやっている。
これがFUSEeで作られた絵本である。機能的にはJavaScriptとメディアオーバーレイの機能を使って、志茂田先生に読み上げをしていただいて、イベントで演奏しているバイオリンの演奏者に参加していただいて、こういうデモ的なものを作っている。
もし興味があれば、あるいはもう少し作り込みをするのでボランティアで参加してもいいという人がいれば、ぜひご連絡いただきたい。
2012年4月10日T&G研究会「EPUB書籍の制作と印刷連携」より(文責編集)