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サイバーテックは、「集める・ためる・活用する」(XMLDBおよび周辺技術)を提供するシステム開発会社である。出版・印刷に特化しているわけではなく、XMLというデータをそのまま格納できるデータベース製品NeoCoreXMSを持っており、これを展開するためのパートナービジネス、ソリューション提供、各種技術支援を行っている。
なぜ、Web to Printと関係してくるのかというと、XMLのデータベースはドキュメントやコンテンツなどを格納するデータベースである。一般的な生産管理、販売管理の数値データではなく、ドキュメントやコンテンツを格納するのに適したデータベースということで、今まで出版社や印刷会社への導入事例が多い。
今まで印刷業でのデータベースの利用法は、組版データベースが代表的である。例えば、紙のカタログを作るためにDTPで編集したものをデータベースに格納し、自動組版のソフトでアウトプットするとか、出版社のデータベース自動組版の事例がある。つまり、これらはアウトプットが紙である。
また、販促ツール自動作成システムもある。入稿システムがあって、データベースに溜めて、最終的に紙をアウトプットするシステムの事例である。
さらに、PCのユーザーマニュアルの作成事例もある。最終的にはアウトプットは紙である。これらは実は少し前の事例で5~6年前のものが多い。その当時は、エンドユーザーのカタログを制作している会社、出版コンテンツを持っている会社が、どうやって効率良く印刷物を制作するかというところで、データベースが使われていたのである。
そういう話は最近減ってきた。つまり、エンドユーザーのビジネス環境が変わってきている。今までの事例では、データベースは組版データベースであり、その先に自動組版システムがあって、制作を効率化するため、自動化するためのシステムだという既成概念があった。
これからは、コンテンツを中心に考えるべきである。色々なコンテンツがある。出版社の場合であればDTPのコンテンツや、書誌情報のようなExcelで書かれた出版企画のドキュメントもある。Webサイトで公開しているWebの情報もある。そういったものを紙だけでなく、Webサイトや電子書籍、売上をもたらすマーケティングツールなど、さまざまなメディアに展開して行く。紙は、その中の一部という状況とすべきである。
組版のためのデータベースだけでなく、コンテンツを格納するための1つの器として広く考えた方が、今のお客様のニーズには近いだろうと考えている。
(図XX)
出版社はデジタルコンテンツで多メディア展開したいとか、Webやソーシャルメディアで顧客層を囲い込みたいと強く感じているところが増えている。メーカーやカタログ通販をしている企業では、Web経由の販売を重視している。紙であっても、オンデマンド印刷を想定することが増えている。
メーカーやカタログ通販、カタログ関係は、既存の資産でDTPデータがたくさんあるため、それを活用したいというニーズがすごく多い。つまり、カタログの提供サイクルを早めたいとか、Web用に2次利用したいとか、というニーズが大きい。
紙はいらないとか、必要ないということではなく、まずは売り上げにつながるとか、顧客を囲い込むための手段として、Webというキーワードが認識をされていると感じている。
(図XX)
ITの分野でも、今までは受託型が多かった。顧客ニーズや課題が明確で、それらを教えてもらえる関係が前提であった。RFP(提案依頼書)ありきとも言える。案件として存在している前提があって、それに対してこういう印刷物ができます、ソリューションがありますという形であった。
これからは提案型である。顧客ニーズが必ずしも明確ではない。不明確な中からさまざまな選択肢を提示して、その中から費用対効果が良いものを提案し、それをお客様が選ぶ。RFPは存在しないし、予算も取れていない。こういった案件が非常に多くなっている。
「データベース化しましょう」「自動組版をして制作を効率化しましょう」という提案が果たしてそのニーズに合っているかどうかは、顧客が何に対して投資したいか、何を重要視しているかによる。
制作面は変えたくないと考えていることも多い。
(図XX)
ある部品をカタログでも、Webでも販売している中堅企業があった。既存のカタログのDTPデータを保有し、分厚いカタログを制作していた。ライバル企業がWebサイトでの売り上げを伸ばしているという噂を聞いて、問題になっていた。
うちは立派なカタログを作っているが、年に1回しかカタログの改版が出来ていないとか、実はECサイトも持っている、とかである。ECサイトは、ごく普通の内容で、作りもよく出来ている。しかし、ECサイトに掲載している点数がカタログの半分もないと言う。
本当はもっと売れる可能性があるのに、そこにデータがいっていない。ECサイトという売る仕組みがあるのに、カタログを作ることを出発点にしてしまっているために、カタログのデータや校正が終わらないとWebに流し込めないという発想になってしまっている。せっかくECサイトを持っていても半分くらいしか商品点数がないのである。
今までのアプローチの場合であれば、データベースを構築してデータベースから紙も作ってしまいましょう、Webにも展開しましょうということになる。そういうことをやっていると非常に費用がかかる。制作フローも変えなくてはいけないため、1~2年がかりの大変なことになってしまう。
今のお客様はそういうことを望んでいない。まずはスモールスタートをしたい。出来るところ、効果があるところから手を付けたいと言うことである。
既存のDTPのInDesignのデータがあれば、何らかの形でカタログに必要な情報だけをデータベースに入れて、紙ではなくECサイトにデータとして流し込める形式にする。そうすると、WebカタログとかWebサイトの元データとして既存のDTPデータを利用することが可能になる。
InDesignデータがあるので、印刷物は従来どおりの工程、InDesignで制作すればよい。
この方法では、DTPのデータとWebサイトのデータが2重マスターとなるという問題がある。しかし、これを先行することで顧客の電子メディアへの転換、配信の重要性が認識されるという形になる。紙への自動組版は、出来るところから徐々にやっていく、という提案をしたことがある。
コンテンツ管理のシステム、入稿をする、データベースで管理する、版数を管理する、自動組版に出力する、というシステムよりも、安価に早くスタート出来ることが大きなメリットである。さらに、紙の工程は変更する必要がないということも、顧客のメリットである。
Webサイトへの展開、ECサイトへの展開を重要視されている顧客には、こういうアプローチもある。
タウンニュース社という地域新聞社があり、コンテンツのデータベースのシステム化をした。
この場合、お客様が明確な目的を持っていた。
出版社として、これからコンテンツを戦略的に活用し、Web媒体活用で地域ごとの読者層を囲い込みたい。
Webへの情報発信を積極的にして、紙の広告収入だけではなくWebでも広告収入を得たい。それに関わる紙面制作とWeb制作環境の改善もしたいということであった。
ここでは、自動組版の仕組みも使っており、システムとしてはかなり大きなものになる。
課題解決のポイントとしては、まず紙面ありきではあるが、それを効率良くWebに展開したいということであった。また、FileMakerベースの入稿支援システムというものはあったのだが、使い勝手がよくないため、再構築してデータをデータベースに溜めたいということであった。
システム化企画にあたってお客様が重視した点は、記事コンテンツはすべてデータベース化したい。すぐに多メディアに展開出来てすぐに取り出せる形にしたい。しかし、紙面先行の制作フローは変えないでおきたい。出来るだけ現場の負担は増やしたくないというニーズがあった。
(図XX)
新聞記事なので縦書きである。縦書きが入稿できて、直感的に操作できるということで、Wordを入稿エディタにした。Wordで入稿した原稿が、裏側で自動的にXMLの形になってデータベースに格納される。そして、子組ごとに自動組版してプレビューをおこない、修正を反映できるようなWebシステムを作った。小組ごとの校了データはInDesignサーバー経由でアウトプットされるという流れである。
最大の特徴は、Webサイトへの配信である。紙面の入稿の効率化だけであれば、このお客様はお金をかけてはやらなかった。地域新聞社としては、モバイル、スマートフォン向けのWebサイトに記事コンテンツを効率良く配信するために、CMSを導入したのである。
XMLで格納され、蓄積された記事データは1日1回、バッチプログラムでCMSのデータベースの下書き記事として毎日定時に配信される。
紙の制作のフローとWebのコンテンツの制作フローが一体化したということである。入稿して校了したものについては、早ければ次の日のWebに載るとか、紙面を出すタイミングとWebに公開するタイミングをコントロール出来るようになった。
結果的に、Webサイトへのアクセス数、Webサイトへの新しい広告出稿が増えたというお話しをいただいている。
Wordの入稿の部分についても、どうやっているのかと非常によく聞かれる。実はWordの裏側でプログラムが動いている。何もしないWordが勝手にXMLになることはあり得ないので、ある程度マイクロソフトのマクロを裏で動かして、記事の枠をあらかじめ作っておく。
設定されたテンプレート上に記事を書いていくと、テンプレートごとにXMLのタグが紐付けされる。それを保存すると、ローカルのPCではなく、インターネットを経由してデータベースにXMLのタグ付で入るというプログラムを仕掛けている。カスタマイズをして入稿したデータを再利用出来る形のデータベースコンテンツに変換しているというシステムである。
税務研究会は税に関する専門書籍の出版社である。企業の経理・財務担当者、人事担当者向けの書籍や月刊誌、週間ニュースレターを販売しており、その他にデータベースサービスがある。つまり、この会社のデータベースは組版だけではなく、収益を生み出し、お客様の囲い込みをするコンテンツデータベースとなっている。
印刷会社が事務通信や書籍のDTPデータを制作している他、データベースサービスの会員向けコンテンツとなるXMLデータを制作し、納品している。会員サイトからコンテンツを検索する仕組みを作っており、データがどんどん増えれば検索するバックナンバーも増えるということである。
税法が変わるとその前後の違いとか、同じ税法でも3年前、5年前、10年前を比較したいというニーズがあり、紙ではなく検索が可能なデータベースの方が、利便性が高いということである。
専門書出版社では書籍を販売することも大事だが、このような形で「ワンソース・マルチユース」にも積極的に取り組んでいることが多い。
弊社はフィリピンに海外拠点を持っており、30名体制でやっている。
例えば、DTPやWordのデータをデータベース化するために、予めシステムで自動的に整理・加工したいということがある。しかし、そうでもない世界は結構あって、PCサイトを人力でスマートフォンに対応させるとか、大量のWebコンテンツを人力で新しいWebサイトのCMSに流し込むとか、大量のWordやInDesignのデータを人力で別のデータ形式に変換するというニーズが実は多い。
印刷会社でも、データのデザインや加工など制作部門の業務の一部を海外委託してコストダウンすることで、Web To Printとかデータベース化のきっかけにしていただくことも出来る。
2012年5月14日テキスト&グラフィックス研究会
「Web to Printを活用したソリューションと印刷会社の役割」より(文責編集)