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共栄メディアは、1978年に共栄プロセスの社名で製版会社として設立された(1998年共栄メディアに社名変更)。1989年には色校正専門会社の共栄校正(2007年共栄メディアと合併)を設立して4色校正機を導入した。さらに大手音楽会社のCDのジャケットの校正を手掛けるなどして校正部門に注力してきた。
その他にも印刷機、CTPなどの設備を導入し、現在ではデジタルサイネージの事業やオリジナルTシャツの制作まで幅広く手掛けている。
製版会社の枠にとどまらず印刷会社以外のクライアントからも直接仕事を取りに行きたいとの思いもあり、こうした事業展開が図られてきた。現在の社名もその一つの表れで、業務内容も多岐に渡り、企画、デザイン、プリプレス、色校正、印刷からキャンペーンのツールやオリジナルTシャツの制作までと幅広く手掛けている。
さて、その中で主力業務の一つとなるのが校正(特に本紙校正)で、菊半4色4台、菊全2色4台、菊全単色2台の校正機を稼働させている。現在の色校正を取り巻く環境は印刷物の減少や環境問題など、非常に厳しい状況に置かれている。また本紙校正自体も色再現の安定性、コスト、納期などの課題を抱えている。
共栄メディアでも20年以上も経過した機械もあり、安定した色再現に多大な労力を払っている。校正機は機械自体の生産が中止され、修理部品の供給も特注となり、コストや納期もかかってしまうとのことであった。
このような状況であるが、ここ数年、共栄メディアでは色校正の売り上げが全く減っておらず、さらに新たな引き合いもある。競合他社が淘汰される状況の中、共栄メディアでは厳しい品質管理の下で安定した高品質の色校正を提供してきた技術の高さ、ユーザーの信頼を勝ち得たことがうかがい知れる。
共栄メディアの色校正の仕事では、高いクオリティーが求められるものが多い。品質要求の高い仕事や、重要な仕事は本紙での色校正が必要とされている。この校正用途で本機校正用の印刷機、高い品質要求に適合できるデジタル印刷機などの導入を検討していた。その結果、色校正用途としてデジタル印刷機(富士フイルム:JetPress720)を導入することとなった。
従来の校正の工程では初校、再校、3校で同じ色の再現に大変な労力を費やしていた。湿度、温度の影響でドットゲインがすぐに変化し色再現が不安定になり、担当者から容易にOKをもらうことができないケースがあった。
JetPress720ではその変動範囲、⊿Eが1前後の中で収まり、クライアントの信頼を得る結果となった。いつでも同じ色が再現できるという、しごく当たり前のことであるが、色校正では非常に重要なポイントになる。デジタル印刷機は小ロット対応のイメージがあるが、1枚から必要とされる校正用途ではまさにうってつけで、損紙もほとんど発生しない。
さらに印刷本紙が使用でき、オペレーションも難しいスキルを必要としないので、今後の色校正用途で大きな可能性を持ち合わせている。
JetPress720の搬送系は普通のオフセット印刷機とほぼ同じである。針、爪がありフィーダーデリバリーがある。単にオフセット印刷機のインキングユニットの部分がインクジェット方式に載せ替えられたとも言える。実際に見ると、排気用のダクト部分を除けばその外観は最新のオフセット枚葉機と思っても不思議でない。オフセット印刷機に匹敵する精度、品質を持ち合わせていることを考えれば、それも納得いく。
印刷本紙が使えるのは、インクジェット方式なので1胴目でプレコートをインクの受容層(無色透明のニスのようなもの)として形成しているからである。プレコートでは全く紙の風合いを損なわず、そのコーティング剤の上でインクを塗布させて瞬間的に凝集するので、従来のインクジェットで発生するインクの滲みが少ない。つまり、今まで汎用のインクジェット機で指摘されていた文字の太りが劇的に改善されている。
色の安定性についても毎日始業前にキャリブレーションを取れば、一日稼働した後、翌朝の確認時でもほぼ⊿Eで1以下である。イージーオペレーションで、オペレーターの育成は効率良く行える。プリンター(デジタル印刷機)ならではのメリットともいえる。
生産性についてはスピードも2700枚/時間であり、特筆するような速さではない。しかし校正用途としてみると、校正機では4JOB/時間(JOBあたり10枚として)なのに対し、JetPress720では15JOB/時間をこなせる生産性を持ち合わせており、これまでの4台分の仕事をこなす生産性を有している。
単に出力スピードなどスペックの数字にこだわるのではなく、デジタル印刷機の特徴を上手く活用して、共栄メディアが抱えている色校正の課題をほぼ解決してくれたのが、JetPress720であるといえよう。
現在は、JetPress720は色校正機としての使用を考えているが、今後、広色域印刷の商品展開の可能性を視野に入れている。デジタル印刷機のビジネスでは、校正という概念はなくなり1枚からが最終成果物となり得る。
今まで特に色校正機のオペレーターが、クライアントに満足してもらえる色再現(色出し)ができず、悔しい思いをしていたものが、このデジタル印刷機では、クライアントが十分満足納得できるものを容易に提出できると現場でも期待している。
JetPress720の色再現領域は、広色域のsRGB領域に匹敵する。綺麗な印刷物ができるということでは、RGB画像の入稿であれば、オフセット印刷のCMYK変換する必要もなく、そのままクライアントに提供することもできる。また、小ロット印刷向きの可能性も十分に持っている。
(JAGATinfo2012年12月号より転載)