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drupa2012が終了してから2カ月になろうとしているが、そろそろ報告会やレポートが出尽くした頃だと思う。drupa2012を称して「B2 drupa」「Post Press drupa」「Landa drupa」等々と言われているが、それぞれ理由があってのことであり、言われていることはそれぞれ真実だと思う。
しかし、その中の真実に注視すると、本当の真実が観えてきたりする。今回は技術的により深いdrupa2012解説を予定していたが、いろいろな人が技術的なコメントは発表しているので考え直し、少々斜に構えてdrupa2012に観る本当の真実について軽口を叩いてみたい。
さて、B2サイズデジタル印刷機に関して、少々ものを申し上げたい。
今回のdrupa2012ではB2サイズのデジタル印刷機が勢揃いしているようだが、本当にB2サイズの需要があるのかは、真面目に考えれば考えるほど分からなくなってしまう。おそらくポスター兼POPのような販促印刷物の需要は存在するだろう。しかし、この辺の印刷物なら大判のインクジェットプリンターで事足りていた分野であり、高速のB2デジタル印刷機だけのための分野ではない。むしろ「タスキに長し」的なことになりかねない。
POD的なオンデマンド印刷(Publishing)を考えると、仕上がりA4両面で製版サイズはB4、大きくてもA3サイズだと印刷用紙はB3くらいが一番需要のあるボリュームゾーンのように思える。
B2についつい志向がいってしまうのは、アナログ印刷の呪縛からくるものという気がするのだが、これは考え過ぎだろうか。
当然、アナログ印刷機が完全にデジタル印刷機に置き換わるのだったら、B2デジタル印刷機は絶対に必要なゾーンなのだが、そのためには品質だけではなく、コストつまり大幅なカウンターチャージ(最近はクリックチャージという)の見直しが必要になる。
もっとも一昔前に比べたらカウンターチャージもだいぶ安くなり、その他の努力と合わせれば、デジタル印刷ビジネスが立派に成り立つようになってきた。その他の努力の筆頭がWeb to Printに代表される原稿入稿&印刷発注の合理化であり、B to Bビジネスを基本としてクライアントの囲い込みツールにもなっているのだ。
デジタル印刷の本当の問題とは、「(オピニオンリーダー達が)言っていること」「時代の流れ、ベクトル」は理解できるのだが、デジタルの仕事が思うように集まらないということではないのか?
要するに仕事がないのである。だから「仕事を集めるツールであるWeb to Printが重要である」ことを、何回も、何回も念仏のように唱えているのだが、もうそろそろ効果が表れてもよさそうだと思っている。
さて、いかがなものだろうか?
とにかくデジタル印刷の仕事を集めるためにはWeb to Printは不可欠のアイテムである。仕事を集めないと何も始まらない。それにしてもデジタル印刷に合った仕事がないというのは深刻で、どこの誰だか分からない(もしかしたらその1人は日本のユーザーかもしれない)のだが「パッケージがデジタル印刷には向いているんじゃない」と言うと、猫も杓子も厚紙対応してパッケージ印刷を宣伝し出すという始末である。
こんな経緯を見るにつけ、「本当に市場がないんだなぁ」とため息が出てしまう。確かにオンデマンドパッケージ市場は存在するだろうが、もう少し小ロットというか、大判プリンターで十分というマーケットでもある。今回のdrupa2012のデジタル印刷機の雪崩を打ってのパッケージ参入騒ぎは、少ないパイを奪い合っていることを露呈している象徴でもある。
できることなら品質面でUVインキ等をアピールしながら、パイ自体を大きくしなくてはなるまい。
といってもトナー方式でB2デジタル印刷機を作るには空調等が本当に大変になるだろう。長い経験を持っているXeikonの機械は、内部をのぞいただけで、いかに空調にお金を掛けているかお分かりになるはずだ。
内部はかなりの体積分、空調関係で占められている。
やっぱり実績のある液現タイプかインクジェットが主流になるしかないのかなぁ?とも思うのだが……。万が一にLandaが化ければ、デジタル印刷機への注目度も一変するだろうが、これは早くともIPEXまで待つしかない。
その点、アナログUV印刷はB2サイズでも何ら問題になるところもなく、いわゆるオフセットオンデマンドは超現実的な小ロット対応ということができる。LED-UV光源やそれに対応したインキの開発も進み、コストがもう少し下がればメインストリーム(主流の生産方式)になれる実力を備えている。
UV印刷機とデジタル印刷機だけのパウダーレスオンデマンド工場というのは一つの近未来型印刷工場だ。これにPost Press機器が周りを取り囲めば、近未来型オンデマンド印刷工場ということである。
アニカラーもB2サイズが登場しているが、アニカラーが売れる市場とはデジタル印刷が普及している市場とも言える。残念ながら日本ではインキコントロールしないことがメリット、ポイントというようには受け入れられないようである。実に皮肉なことである。デジタル印刷機としてのアニカラーはなかなか使い勝手がよさそうなのだが……。
次に、最近二回のdrupaではインクジェット、インクジェットと騒いでいるが、どっこい液体トナーも頑張っているという点について触れておきたい。
液体トナーという技術はIndigo以外にも、多くの会社がトライして挫折してきた技術である。トラブルの多かった液体トナー技術を生産機としてモノにしたのがHPであり、天下のHPだからじゃじゃ馬を乗りこなせたと賞賛されていたのである。つまりHPだから上手くいっていると、諦めムードだったわけなのだが、今回のdrupa2012では、ミヤコシ、Xeikon、Oceが揃って液体トナータイプを発表したのだ。
OceのInfiniStreamは非展示だったが、パッケージ市場を狙いブランドオーナーやパッケージ業者に直接売り込もうというモノだった。確かに現在のIndigoは改良に改良を重ねたといってもEインキの脱墨の問題やVOCの問題(大問題とは、ほど遠い些細なレベルだが)が指摘されており、付け入る隙がないわけではない。
また印刷スピードにしてもIndigoは一胴なので、色数が増えるほどスピードが落ちてしまうという欠点?(性質)を持っている。
要するに一色なら120m/minだったものが4色だと30m/minになってしまうし、2色なら60m/minということになる。
よく笑い話に出されるのが、Indigoを使った単色ビジネスで、クリックチャージが色ごとになっているため単色だと安くなり、Indigoで単色ビジネスをやるというのは、存外理論的なことなのである。
逆に言えばこれまで4色用の高速液現タイプが無かったということでもあり、やっぱり液現だということになったらいろいろ工夫されてくると思う。簡単なところでは多胴にすれば色数で印刷スピードが変わることもないわけである。今回登場した液現デジタル印刷機は、皆ハイスピードを誇っているし、品質もIndigo並と評価されているが、大事なのは安定性であり、実際に動き出してみないと何とも言えない。
なぜ液現タイプが今さら見直されているかというと、トナータイプの品質限界やインクジェットへの不馴染み感というか、やっぱりオフセット印刷の質感には親しみを感じているのだ(理屈ではない志向の世界?)。そのイメージに一番近いのが液体トナーであり、文字品質などではその差が歴然なのである。
長年プロ用のデジタル印刷機として液体トナーのIndigoと覇を競ってきた粉体トナーのXeikonが液現の印刷機を開発したことは、「やっぱり高いお金を取るにはインクじゃなきゃダメなのかな?」と再認識させられる。
今後粉体トナーはオフセット品質、つまり印刷物単体に価値を見出すというより、全体サービス、ソリューションに比重が移っていくのだろう。しかし、何事も仕事を集めないと始まらないのだ。大事なのは仕組みを作って、その仕組みを効率的にPRし、仕事を集めることなのである。
(研究調査部長 郡司 秀明)