本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
この本の英語版を初めて知ったのは1年半くらい前である。What They Think というWebサイトに載っていた。What They Thinkはこの本の著者であるウェブ博士が主幹をしているWebサイトである。
この本の翻訳版を出版したいと思ったのだが、ウェブ博士とコンタクトが取れなかった。たまたま私の友人がアメリカに駐在していて、ウェブ博士の友人と知り合いで、ウェブ博士と話がつながった。そして、日本語でも発行してよいということで、著作権をいただいた。著作権自身は結構高くて、後で出版社の方に報告したら、そんなに著作権料が高いわけはないと言われたが、契約なのでしょうがない。その後、山下さんに翻訳していただいた。
さらにこれはオンデマンド出版をしている。オンデマンド出版を手掛けている大村会長にもご協力いただき、まるっきり私の自費出版という形でどこからも資金援助を受けずに出版した。日本の印刷業界の皆さまに向けて翻訳版を出版したいという気持ちに、ご賛同を得て出版することになったのである。
また今日はJAGATで取り上げていただいてこの本が紹介されて、皆さんとこの本について討議できることを本当に感謝している。
今お話ししたWhat They Thinkというサイトであるが、是非皆さんにも見ていただきたい。日本フォーム工連が主催する理事会では、国際委員会からの報告としてこのサイトからのニュースソースを主にして、一部を翻訳して会員の皆さまにお伝えしている。
このサイトの中に「Disrupting the Future」という本の紹介があり、著者のウェブ博士を知った。フォーム工連が年に4回発行している会報に、英文で米国情報としてレポートが載っている。また、フォーム工連のWebサイトにも、この会報が載っている。過去3年~4年の蓄積があるので是非サイトにアクセスしていただいて、海外のレポートを読んでいただきたい。
ビジネスフォームは昔から情報の器としてコンピュータ産業とともに発展してきたが、フォーム印刷は非常に落ち込んでいる。その代りにデジタルプリントを手掛けている会社の市場が伸びている。米国のレポートを見るとデジタルプリントに取り組んでいないビジネスフォームの企業は瀕死の重傷であるという報告がWhat They Thinkサイトのコメントに載っている。
米国のビジネスフォームの市場の変化のもう1つの面として、伸びていたデジタルプリントサービスがなかなか上手くいっていないということが問題になっている。特に四半期ごとに通知書類を削減している。目的はやはりコストダウンである。郵送コスト、経費削減のために、通知書類を削減しているようだ。アメリカでも、今まで月1回とか定期的に報告していた通知書類もWebに置き換わって、なおかつビジネスフォームの市場としてはシュリンクしている。
もう1つ困った状況がある。米国の郵政の事情が瀕死の状態である。日本も郵政の民営化で10月からは郵便事業の改革でもう1段、窓口業務と配送業務が一緒になるということをやっているが、郵政事業の方も二の足を踏み、なかなか難しい。アメリカでもビジネスメールや通知業務を扱っている第一種のものが91年を境にして下降線を辿っている。
アメリカ以上にカナダでは郵政事業が完全にだめになっていて、新しい住民には個別配送をしないとか、土日の配送をしないなど、合理化を追求するあまり、そんなことまでやっている。郵便事業はますます苦しい状況になるので、それに伴い、ものを郵便局で送るということが、情報を伝えることが難しい状況である。
もう1つ考えていく必要があるのは、印刷の本質とは何かということを問い直す時期がきている。90年代の後半までは一般消費者が接するメディアは非常に限られていた。2000年頃から急速にさまざまなメディアが出現して選択肢が多くなってきた。昔は新聞、雑誌、TV、ラジオ、映画、野外広告が主な状況であった。2000年を境に急にメディアの種類が増えたと共に、1週間に接する時間も極端に増えている。例えば2000年辺りは週に80時間の接触時間だったが、2020年までには1週間に100時間になり、寝ている以外はほとんど何かしらのメディアに接触するようになっている。印刷の状況は、ほぼ横ばいかどんどん衰退している。アナログTVやアナログラジオは使命が終わり、消滅している。
なぜ今まで印刷が選ばれてきたのか。大量に遠隔地に記録を残すことができる媒体としての印刷物である。同時性というところはTVとかマルチメディアにはかなわないが、それ以外のところでは非常に優位で、なおかつ非常に安価である。TVやマルチメディアに比べて、今までは非常に安価であった。こういうことが印刷物を情報の媒体として使っている主な理由である。
米国の印刷業界はこのような状況にどのように対応しているのか。2010年の米国の出版業界であるが、なぜ印刷はだめだったのか。「ウェブはサーフ、雑誌は泳ぐ」というキャンペーンを始めて、3年間に数百万ドルをかけるということをアメリカの印刷業界は謳っているが、こんなことをやっても効果がない。印刷は効果があったからこそ素晴らしいメディアであった。また過去において、消費者に非常に支持されていたから伸びていたのであって、決して印刷自身が伸びていたのではない。印刷自身が支持を受けていたわけではない。そこに載せる情報が、なおかつ情報の伝え方が安くて大量に、多くの人に記録を残すという媒体であったから、印刷業界は伸びていたのである。
こういったことを「Disrupting the Future」の中で私たちは訴えかけていきたいと思っている。
まず、顧客の困ったことをどう捉えて、それにどう対応していくのか。これが印刷業界の一番の姿ではないか。
ジュリア・ロバーツが主演した「愛がこわれるとき」という題名の映画がある。原題は「Sleeping with the Enemy」、日本語に訳すと「敵とともに寝る」。「Disrupting the Future」の中でも報告しているが、新しいメディアを取り入れるには、新しいメディアを知ることが必要である。敵と敵対することなく、一緒に再生の道具として使っていくべきであると主張されている。この辺も討議の材料として考えていきたい。
フォーム工連で毎年アンケート調査を行っている。この中で、新規事業を立ち上げるときはどういうことに関心を持っているか、会員の140社に回答を求めた。その内の70社から回答を得た結果がある。
人材の育成と社内の新組織の立ち上げ、この辺りが新規事業の立ち上げのときに取り組む事業であると会員の方々は回答している。短期的な対策には取り組んでいるが、合併とか買収、新しいことに一緒に技術提携するような長期的な戦略は弱いのである。
社内で新しい組織を立ち上げるのであれば、もっと企業家意識を高めて別会社にして立ち上げるとか、企業外で立ち上げるか、不退転の決意ではないが、社内で吸収して立ち上げるよりも新しい事業はまったく新しいものとして立ち上げていく必要があるのではないか。こういったことも今日の議題の1つにしたいと思う。
欧州も日本と同じように過剰設備の状況があり、需要が少ないにも関わらず供給量が非常に多い。欧州では2007年には1440億ドルあった市場が2009年には1220億ドルに減少している。アメリカも日本もヨーロッパもまったく同じような状況にあり、これに対して各印刷業界はどのように対応していこうか、EUの印刷業界も取り組みをしているのである。
こういったことも含めながら今日の話を進めたいと思う。この辺も今日の討議のときに話していきたいと思っている。
2012年8月27日T&G研究会「徹底討論!『未来を破壊する』とは何か」より(文責編集)