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本日の目的は大きく分けて2つある。1つは、「未来を破壊する」の概要を改めて理解していただく。もう1つは、実際に行動を起こして「未来を破壊する」ための一歩を踏み出す切っ掛けを見つけていただくことを目的としている。
「未来を破壊する」の概要であるが、アメリカで2010年に発行されて、著者はジョー・ウェブ博士という印刷関係のコンサルタントをされている方と、リチャード・ロマノ氏というマルチメディアを大学で専攻された方で、そういった視点から印刷とマルチメディアの関係に関する記事を書かれている。
このお二方の共著である。日本語版は2012 年の6月に発行された。
本の中に書かれている未来は、印刷会社の数は減少し続け、社員は路頭に迷い、より多くのオーナーが撤退するというもので、そういう未来はジョー・ウェブ博士によれば明確である。これを破壊しようということがこの本のもっとも基本的なスタンスになっている。この本の特徴として、印刷マーケティングプロバイダーというサービスをされている方がイントロを書かれている。
その中でこの本の読み方がいくつか書かれている。「あなたが外へ出て顧客の意思決定やコミュニケーションのプロセスに加わる方法を示すためにこの本を著した」。さらに、「外へ出る価値があるのか、あるいは状況が良くなるのを願いながら同じことを繰り返し続けるのか、本書の読後にあなたは決断しなければならい」。
要するに、非常に厳しい現状は分かった。では、それを変えていこう。実際に踏み出していこう。そのための方法が書かれているということが、この本の大きな特徴であり、意義である。
外へ出て顧客の意思決定やコミュニケーションのプロセスに加わる方法、未来を破壊する方法とは実際何か。それについては直接的にはジョー・ウェブ博士は書かれていない。
印刷会社が培ってきた旧来の慣習というものがあって、それを壊して、新しい常識を作り上げていこうということで、それが未来を破壊するための基本的な考え方、方向性になる。
例えば、マーケティングにおける印刷物の役割。旧来の慣習では絶対に必要。紙がないとマーケティングは成り立たない。これが新しい常識としては、数多くのメディアのひとつであり、紙を使わない場合も多々ある。この本の中でも紙を使わなくても成功したキャンペーンはいっぱいある、そういった常識を受け入れようということが、まず1つ。
2つ目は、成果を出すために必要なマーケティング手法というものが、アウトバウンド型からインバウンド型に。この表現は耳慣れない部分なので後でご説明したい。
人材活用に関しては、正社員を活性化するということがこれまでの考え方であるが、フリーの専門家のネットワークを構築して活用しようということである。
設備投資の際に考慮すべき設備の寿命として、これまでは機械寿命であった。何年使えるかということがポイントだったが、マーケティング寿命、何年サービスを提供できるのかというポイントに変わっていくのである。
そして、印刷会社の提供物、印刷物から印刷サービスへ。課金方法は単発ベース、ジョブベースから、継続ベース、成果ベースへ変えていく。
「本当に破壊すべきなのは、何十年にもわたって印刷業界を導いてきた「旧来の慣習」なのである。
コミュニケーションおよびメディアチャネルのツイスターマットとウェブ博士が呼んでいるものである。Marketing/Advertising Budget、マーケティングとか広告の予算というものが真ん中にあって、その周りを色々なメディアが取り囲んでいる。この中には紙を使った広告宣伝もあれば、インターネットを使ったもの。その中でもPCを使ったもの、モバイルを使ったもの。さまざまなものが取り巻いている。
これですら明らかに全体の一部である。接触するメディアがどんどん増えている。時間も増えているという話がある。
この本に書いてあるポイントしては、真ん中の黄色いマーケティングおよび広告の予算は、周りの小さいマルで取り合っているものである。紙はその中の1つであって、紙の中でもさらにDMとか新聞広告とか、屋外広告、ポスター、そういったものも含めてどんどん細かく分かれていくだけのものである。
広告予算をいっぱい取ろうと思ったら、周りのマルをカバーしましょう、それが分かりやすいです、ということがこの本のメッセージになっているのである。
次は、実際に印刷会社でソーシャルメディアをどれくらい活用しているかということである。アンケートは2009年のアメリカの状況なので、今の日本とはちょっと違うが、参考までに引用した。
日本でもプリントサービスプロバイダーからマーケティングサービスプロバイダーへの移行ということがあるが、これをインターネットの使い方という点で見ると、どういう違いがあるのか。それを比べたものがこちらのグラフである。
皆さんは、LinkedInをご存じだろか。ビジネス関連のつながり、自分はこういう仕事をしてきた、こういう仕事が得意だということを書いていくサービスである。これを使っている人が一番多い。あとはFacebookやtwitter。Bloggingはブログを使っているということである。
Plaxoを使われたことがある方はいるだろうか。ネットワークを利用してアドレスブックを常に最新の状況にしておく。メールアドレスが何で、この人はFacebookでどんなアカウントを持っていてtwitterのアカウントは何で、というように統合的な管理をできるサービスがPlaxoである。また、MySpaceはFacebookが出てくる前の最大のSNSだった。
このようにアンケート取っている。LinkedInが一番多いが、ここでのポイントは、下から2番目の「使っていない」というものが、印刷会社全体では4割、自社をマーケティングサービスプロバイダーだと考える会社では3割。非常に高いのである。
使い方は細かく書いていないが、右と左で大きな傾向の差はないということがポイントと思われる。要するに、先程のツイスターマットでカバーすべきSNS、インターネットを使ったサービスを実際に取り込もうとしている動きは行われていないということがこちらのアンケート結果から分かってくる。こういったこともちゃんと使いこなしていこうということもメッセージの1つになっている。
アウトバウンド型は「視聴者や読者、あるいはユーザーの行動を「中断」させ、メッセージに注意を払わせるもの」。テレビやラジオのCM、印刷された広告、バナー広告、ポップアップ広告。つまり、一般的に広告枠、広告のスペースを買って出す広告である。アメリカではこういうパターンの広告がどんどん効だと思うが、例えば、テレビのCMもハードディスクに録画する果をなくしているということがある。国内でもそうと飛ばすようになるし、バナーやポップアップもYouTubeを見ていて下の方に出てくる広告をご覧になったことがあると思うが、それを押される方はあまりいないと思う。アウトバウンド型はだんだん効果がなくってきている。
その一方でインバウンド型が伸びてきているということがウェブ博士の分析である。例えば、「オンラインおよびオフラインのさまざまな方法を活用することで、潜在顧客に企業のところに来てもらう手法」。方法としては、ブログを書いたり、ツイートのフォロワーを増やしたり、Facebookでファンや友達を増やす。
また、検索エンジンに対して最適化する。こういうことを通じて、「人々があなたまたはあなたの企業を見付けてそやってくるために、あなた自身を最適化することが求められる」ということである。
ポイントして、顧客に向けて一方的に話すのではなく、中断をさせるようなこともなく、常に顧客との対話を大切にし、育むべきである、それがインバウンド型である。
時代はアウトバウンド型からインバウンド型にシフトしている。これは印刷会社のお客様である印刷物発注者さんにも当てはまることだし、印刷会社自身にも当てはまるポイントになってくるので、印刷会社が売上、利益を伸ばすために、お客さんをどんどん新しく見付けるためにはインバウンド型のマーケティングやPR手法を取り込んでいくということがこの本に書かれている。
アウトバウンド型、インバウンド型についてこの本では別の言い方をしている。
Push型、Pull型という言葉を使っている。Push型、自分を押し出す、これがいわゆるアウトバウンド型である。Pull型がインバウンド型になる。
コンセプトとしては新しいが、実際の手法としては昔からある。1990年代以前ということで、PullとPushが書かれている。昔から口コミがあったり、フリーダイヤルやブランドなどがインバウンドとしてある。アウトバンドとしてはテレビ広告やダイレクトメールなどである。
2000年代になり状況が変わり、オンラインというものが出てきたのである。ひとつは横軸の方で、90年代まではオフラインだけだったがオンラインが出てきて、Pull型としてはWebサイトがあったり、また、スポンサード検索はお金を払って順位を上げるが、自分の努力で検索順位をあげるオーガニック検索というものもある。
Push型では電子メールのキャンペーンやウェビナー。また縦軸の方でCollaborative、「共同の」というものが入ってくる。口コミというものがお互いに情報の提供をし合うことで、オンライでもe-コマースサイトに感想を書き込むということが出てきたり、オフラインでも業界団体とかユーザーグループで情報交換を通じて共同の作業をしていくという流れが出てきたのである。
日本でPCのインターネットを普通の人が使い始めたのは何年頃か覚えているだろうか。2005年である。そのときに何が起きたかというと、ホリエモンと電車男とブログというものが3つ重なり、普通の人たちがインターネットを使うようになったのである。日本国内でインターネットを使い始めてまだ7、8年なのである。そういう意味で、アメリカの方が進んでいるのでこの辺りのタイムラグが生じているところはあるが、2000年代に入り、オンラインが出てきて共同作業型が出てきたという流れとしてはほぼ同じ動きである。
そして2010年。Push型、アウトバンド型が効果がなくなっているということで、そこを彼は弾いて、その代りに横軸にモバイルをくっつけた。モバイルのPushと共同型を加えることでマーケティングの形は変わっていくだろうという分析をしている。
これに1つ加えると、ステルスマーケティングをご存じだろうか。食べログで話題になったやらせ 問題であるが、これがCollaborative型で問題になっているところで、口コミというものが本当にその人が思ってやっているのか、お金を払ってやってもらっているのか。その辺りが見えなくなっている部分があり、見えないマーケティングという意味でstealth marketingという言葉が使われている。
そういったところも含めて2010年代にこの形がどうなっていくのか。改めて言うとこの本が書かれたのは2009年なので、ちょっとずれが出てきても不思議はないが、いずれにしてもマーケティングの形はどんどん変わってきている。この中で紙がどういう役割を果たせるのか、あるいは果たせないのか。印刷会社さんはどういうところに事業機会を見付けていくのか。
そのためにこういった流れはきっちりと理解しておかないといけない、とウェブ博士はこの本の中で書かれている。
「あなたの会社で最も必要なスキルは何か」ということを2009年12月にアンケートとったところ、ダントツに多かったのが、営業の担当者。そのあとはそれほど大きな差は出ておらず、非常に営業が多い。
2009年12月は皆様もこの頃は大変だったと思うが、リーマン・ショックが起こって非常に状況が大変だった。だから営業が必要という流れになったということはあるが、ウェブ博士とロマノ氏は、「これを不適当だと考える」。
彼らの考える適当な人材やスキルは、この本の中に「スキル」という項目があるが、IT、データベース管理、Webおよび新しいメディアのデザインおよび開発、マーケティングコミュニケーション、グラフィックデザイン、こういったスキルや人材が必要だということである。
その理由を次のページ抜き出した。「印刷会社にとって重要なのは「新たな商材を開発する」ことであり、「新たな商材を販売する適切な人材」を捜すことだと、我々は非常に強く感じているのだ。」
この対局になるのが「今あるものを売る人」を強化するということがあって、ウェブ博士の分析は、先程のセールスが多いその理由はなぜかというと、新しい商材を開発して売るための人材ではなくて、今あるものを売りたいのだろうと。
あなた方が考えているのは今あるものを売りたいのだろう。でもそれは間違っている、ということがポイントになる。
2つ目に書いたが、ではその従業員をどうやって確保するのか。それは、フルタイムで雇用する必要はない。むしろ、フルタイムのスタッフのスキルによって、提供する印刷サービスが限定されてしまう。
例えば今あるスキル持った人が必要でも、その人が2年後、3年後に本当に必要なのか。市場環境がどんどん変わっていく中で、スキルの寿命がどれくらいなのかはよく分からない。そういった中でフルタイムで雇用するのは適切ではない。
3番目のポイントとして、その代りに「戦略的に重要なのは、外部の専門家との幅広いネットワークを構築することである」と。「こうしたネットワークは、印刷会社が提供するサービスの柔軟性を保つのに役立つ」ということである。
ときどきに応じた新たな商材を開発し販売する。その際に外部のスキルを上手く活用しながらやっていく。その際の核となるコンセプトはIT、データベース、Webデザイン、マーケティングコミュニケーション、グラフィックデザインなどを使うということが1つポイントになっている。
機械寿命とは「物理的にどの程度使えるかという期間を示す」、単純に壊れるまでの期間である。マーケティング寿命は「市場のニーズを満たすものどの程度の期間生産できるかを示す」、機械寿命よりも短いということがポイントになっている。
「印刷会社には、マーケティング的な観点から生産的ではない高価な設備に対して支払いを続けなければならない状況を避けることが求められる」ということになる。1回、高い機械を買ってしまうとそれを回し続けなければならない。回すことが、自社のマーケティング的にもそうだし、発注者さんのマーケティング視点からも意味があればいいが、実際には必ずしもそうなっていないという現状があるのではないか。
その流れの中で、機械寿命とマーケティング寿命のバランスを取りながら機械の選択をする。先々どこまで使えるのか分からない場合は、それについてリスクをヘッジする方法を考えた方法がいいのではないか。そのために、マーケティング寿命というコンセプトを入れてみてはいかがだろうかということがこの本の中で提案されているのである。
今は2012年の真ん中を過ぎて2015年はすぐだという気がするが、この本が書かれた2010年の段階で5年先である。今から5年先はなかなか分からないと思う。
その中で、ウェブ博士が作りあげたコンセプトの1つ、左側の絵にあるCommunication Logistics。こういったものを提供することが2015年の印刷ビジネスの形になるのではないかということで紹介している。
左斜め上の水色のところはcreationと書いてある。クリエティブを作ったり企画をすることだと思う。coordinationは、マルチメディアのサービスを前提としていているので、さまざまなメディアを組み合わせるコーディネイト。また、右斜め上のロケットが飛んでいるものがdeployment。実行のフェーズである。右下のmeasurementが測定。左下がmanagement、全体を上手く管理運営していくこと。
こういった流れを回していくCommunication Logisticsが1つの形になると考えている。それをもう少し具体的に言うと右側のポイントになる。
「戦略ベース」の印刷ビジネス。その反対にくるのがタスクベース、作業ベース。こういう印刷物を作って欲しいというのがタスクベース、作業ベースであり、戦略ベースはこういう方向でこういうメディアを使ってこういうメッセージを出していこうという印刷サービスをやるのが戦略ベースになる。
そして、継続的なサービスの提供。これの反対は単発的である。3ヶ月とか半年とか、1年とか数年といった継続的な期間、サービスを組めるビジネスモデルを組むということである。
3つ目は、全てのメディアについてその複雑さを理解し、メディアの使い方を顧客に示すこと。これは、Facebookやtwitterという言葉自体はよく使われているが、どう上手く使えば皆さんのお客様である印刷物発注社さんの役に立つのか、それをきちんと理解して示せている印刷会社さんはほとんどいないと思うのである。お客様も理解されていない。まず、自社で理解して上手く示すということが、継続的なサービスの提供につながったり、戦略ベースのビジネスにつながったりするのである。
それからお金のところについては、今はどうしても価格競争になってきている。その中で利益を高めるためにはどうすればいいのか。ウェブ博士は、成果に対して顧客に請求することを挙げる。例としては、顧客の他のコストの削減。例えば、印刷物の制作コストだけではなくて印刷物の保管や廃棄にかかるコストなどを削減できれば、ちゃんと価格に転換しませんかと提案する。
また、お客の売上高。戦略的なところまで踏み込んだという前提だが、顧客の売上が伸びたら成果報酬型の課金体系を作っていくのはどうだろうか、と。こういうことを通じて、Communication Logisticsを実現していくことが考えられるというのである。
今のような話は「新しいルール」ということで本の後ろにまとめてある。その一部を抜粋したのがこのページである。
今のようなCommunication Logisticsを、印刷会社はアウトソースとして全部受けるコミュニケーションプロバイダーになることを目指そう。顧客のコミュニケーション全体のROI、費用対効果Return on Investment、特に印刷物と関係のない取組みに集中すること。印刷物はROIがよく分からない部分があるので、特にネットの部分はすぐに取れるということもあるので、そういったところを含めて、顧客のコミュニケーション全体のROIを追っていく仕組みをつくり追っていくということがあるのである。
3つ目は面白い提案だと思うが、ベストな見込み客は「コミュニケーションのコーチ」を必要とする中小規模の企業であること。先程の「全てのメディアについてその複雑さを理解しメディアの使い方を顧客に示すこと」とつながっていくが、その際に一部上場の大きな会社さんだと自社で専門のスタッフを持ってしまうこともある。そこで、新しいSNSを追っていきながらその効果というものを自社内に持つことがでない中小規模の発注者さんをターゲットにして、コミュニケーションのコーチという形のサービスを提供することも1つの新しいルールになる。
その次も面白い視点だが、自社のために新しいメディアを活用することで、顧客から信用を得ること。最初の部分はこれに随分ページが割かれているので、読まれた方はピンとくるかと思う。Facebookやtwitterをお客様が使いたいというときに、まず自分で使っていないとそれがどういうものでどういうメリットがあってどういうデメリットがあって、どうすると効果が大きくなるのか、それがよく分からない。
またお客様も、提案された皆さんのFacebookのサイトがどうなっているのかを確認すると思う。
自分のショーウィンドみたいな形で、私はこういうふうに上手く使っています、こんな感じで使ってみてはいかがですかと示すことで顧客から信用を得ることも新しいルールになる。
また、クライアントの先を行くこと、競合は無視すること、とあるが、とにかく一番大事になのはお客様である。ソーシャルネットワークを使ったサービスは競合も上手くできているところはないので、競合を意識するよりもお客様の先を行って、コミュニケーションのコーチになれるくらいにそれを使いこなしていくということがポイントになる。
そして、一番下のポイントが、先程柔軟性ということでお話したが、市場が要求するサービスを提供できる設備や人材を揃えることである。こういったことを揃えることが新しいルールになるのである。これ以外にも面白いルールがたくさん書かれているので是非読んでいただきたい。
先程、山口さんのプレゼンテーションの中にあったが、「愛がこわれるとき」という日本語ではきれいな題だったが、直訳すると「敵と寝ること」。
ここまでの議論は何かというと、「我々のビジネスのやり方を変えなければならないことを純粋にそしてシンプルに示している」ということである。
新しいルールもそうだが、とにかくやり方を変えよう。やり方を変えるとはどういう意味かと言えば、「旧来の慣習に対して疑問を呈することなのである。旧来の慣習はカビ臭い過去のものとなっているのだ」ということである。
もう1つ別の言い方をすると、山口さんのお話しの中にあったがメディアの選択を「敵と寝る」ことで理解して、それを提供していくことがポイントになる。
ジョー・ウェブ博士がWhat They Thinkのサイトで5月に載せた、「混乱に向かって走れというのが適切なアドバイスや助言である」というような記事がある。
それを勝手に訳したものであるが、「ある業界に混乱が見られるとき、顧客のニーズと競合企業の先に行くために、混乱に向かって走るべきであると私は常に考えてきた。これは自分を廃業させ得るものに投資する戦略とも呼ぶこともできる。これは拙著「未来を破壊する」のテーマである」ということである。
自分を廃業させ得るものに投資する、これが「敵と寝ること」と同じ意味で、「ピンチはチャンス」という言葉を実現するためにこういった戦略を取ると考えると非常に分かりやすい。
また、この文章とは別に、「混乱の周りで歩き回るよりも混乱の中に入って解決策を示すということが重要である」と書いてある。
敵対するのではなくてそれを上手く取り込んでいくことで自社のビジネスをどんどん大きくしていく。これが「未来を破壊する」の別の言い方でのテーマである。
起業家精神ということで「究極的に必要なことは印刷会社のオーナーが起業家精神を再度持つことである」、「「再度持つこと」と言ったが、印刷会社はかつて、今よりもずっと起業家精神が旺盛であった。しかし今では、印刷産業は起業家精神を失っている」と書かれている。
「起業家とは、他の誰も持っていないアイデアを持ち、それに従って行動する人々のことである。彼らは市場の中に他の人には見えないビジネスやサービス、製品を見ることができる。起業家は人が考えるようにリスクを取る人々ではない。実際にはリスクを最小化しているのだ。目を大きく開けて状況に入り込み、自分が失敗を犯す危険に充分注意を払っている」
起業家精神を失っているというのである。では、どういう気持ちを失っているのかということについても書かれている。
このような形で他の人には見えないビジネスやサービス、製品を見ることができる。その一方、リスクを最小化して自分が失敗を犯す危険に充分注意を払う。これが企業家なのだ、と。今、マルチメディア、クロスメディアが出てきて、それに対して新規サービスという話があったが、そういった取り組みをしていかなければならない。その際にどういうビジネスやサービス、製品があるのか。
ポイントは、他の人には見えないということだと私は思っている。印刷会社は成功事例ということをよく聞かれるが、要するに他の人がやったことではない、自分にしか見えないものを立ち上げる気概が非常に大事である。
その際に、自分が失敗を犯す危険に対して充分注意を払って、リスクを最小化する。そういった部分も持ち合わせて行動を起こすことが大事であるということを説明されている。
小ロットのジョブや端物の仕事は儲からないということが、これまでの通説だったが、これをひっくり返すような事例がいっぱい出てきている。
グラフィックは大体年商100億弱。プリントパックが100数十億と言われている。Vistaprintは2011年の段階で10億ドル。100円計算だと1000億で、グラフィックの10倍になる。今、為替の関係で800億円。
グラフィックやプリントパックの8倍くらいになっている。ジョブの数でもグラフィックやプリントパックは1000件とか、それくらいだと何年か前に聞いている。単価が数万円でそのくらい集めれば年商100億のビジネスになる。
東京名刺センターはアオキ・オフィスサービスという東京板橋区に本社がある名刺専門のWeb to Printの会社である。年間生産量が90万箱。単価が出ていないので本当かどうかは分からないが、1000円で計算して年商9億円くらい。社員数90人で年商9億、名刺だけでやっている。
挨拶状ドットコム。この会社をご存じの方はいらっしゃるだろうか。B to B、 B to Cを両方やっている。2003年の設立で2004年10月にサービスを開始した会社である。2011年度のジョブの数、出荷実績というものが何を示しているかは分からないが7万2000件ということで、ある記事やテレビ番組によると、年商が8億円くらい。挨拶状だけである。社員数は、又聞きなので正確ではないが20~30人くらい。年商8億のビジネスをやっている。
pixartprintingはイタリアの印刷通販の会社だが、ヨーロッパをターゲットにしていて、本社はベネチアの近くにあり、非常にきれいなところらしい。ここが1日平均2800件くらいのジョブがある。グラフィックやプリントパックの3倍くらい。単価がどうなのか、よく分からないがジョブ当りの単価が同じなら300億くらい。数100億円くらいの売上があるのではないか。
Flyer alarmは、ハイデルの機械を使っているドイツの印刷通販の会社である。ジョブが1日1万件以上あるようである。
moo.comはイギリスのロンドンに本社を置いて、アメリカにも支店のある名刺専門の会社である。タオルなどもやっている。実は私もここの名刺を使っていて、指輪が入っているような可愛らしい箱に入って送られてくる。単価が100枚で22ポンド、3000円弱である。100枚で3000円弱。名刺1枚30円。箱があるのでちょっと安いと思う。moo.comはジョブの数や売上は分からないが、今社員数は100名くらいいる。もともとデザイナーが社長をやっていらして、デザイン性の高い名刺、単価の高い名刺というものを売り物にして、世界中から受注を受けている。こういった小ロットのジョブとか端物は、1日当り1000件とか3000件とか、1万件とか集めれば充分に儲かる。こういう時代が来ているということ、どんどん成功事例が出てきているということがあるのである。
かつては、総合印刷会社を目指すべしということがあったと思う。特にバブルの頃はあったと思う。実際に社員が10人くらい、あるいは10人弱なのに「総合印刷会社です」というところも多々ある。
しかし、これも変わってきているのではないか。
ちなみに下のカーブ、スマイルカーブというのだが、経営学の本を見ると出ているが、縦軸に売上高利益率、横軸に普通は企業の規模を取る。企業の規模がある一定の量を超えると利益率はどんどん高くなるというときに使われる図である。
ちょっと見方を変えて、提供する印刷サービスの種類というものを横軸に取ると、印刷会社の場合は当てはまるのではないか。要するに、名刺専門や挨拶状専門のようなサービスをある程度絞ったところは、提供する印刷サービスの種類は限られていて、利益率が高い。
名刺専門の印刷通販をやっていらっしゃるところで、粗利が6割というところもある。単印みたいになると利益率が高くなるのではないか。
グラフィックやプリントパックがすごいと思うのは商材の数である。それがある規模を超えると利益が出始める。超えるまでは非常に低いのではないかということが1つある。つまり、総合印刷会社を目指すのであれば、印刷通販でいうところのグラフィックさんやプリントパックさんのレベルまでいく必要があるのではないか。それ以外の印刷会社という点では大凸くらいを追いかけるしかないのではないか。
それ以外なら、削っていくという方法も売上利益を伸ばす方法としてはあるのではないかということも考えられる。
前半部分でご説明したクロスメディア、ネットを使ったサービスとの関係という点でいくと、クロスメディアのサービスを提供することで、利益率を全体的に高めることができる。
ある程度の規模を持った印刷会社さんが利益率を高めるためにはクロスメディアのサービスに積極的に取り組まなければならないと思っている。
もう1つは、商材を絞っていって生き残る道を示す。さらにもう1つの方法は、ご紹介した名刺とか挨拶状やカードなど単品を並行して立ち上げる、それでプラスαを作っていく方向性もあるのでないか。今までの総合印刷会社のように、何でもやります、どんな仕事でも受けますというところから脱却していくことが1つの方向性。そこに上手くネットを使って売上利益を高めていくこともあるのではないかと思っているのである。
先程、山口さんのお話しの中に合併とか提携ということがあったが、これはジョー・ウェブ博士が6月になって書かれたまた別の記事から見付けたものである。本質的には利益率の推移に関しての記事であるが、その中に合併の話が出ていたので抜粋した。
未来を破壊できる合併というのは私の言葉だが、単独では追求できない新たな事業機会の開発を可能にする合併、それからコストのみが集約されて戦略が変更されて防御的な合併という2つの例が出ている。
今回、drupaのあとに取材させていただく印刷会社さんを探した。その中で合併に成功した会社さんをいくつか候補として挙げた。新たな事業機会を見付けるために合併した。例えばマーケティングサービスを始めたというところが実例としてあるので、この方向性は間違っていないと思う。
実はこの本はまとめがない。改めて私なりにまとめたものがこの図である。大きく分けて3つのポイントがある。
1つは印刷サービスを提供する仕組みの進化。ここには人材があったり設備があり、設備の中にはハイブリッド印刷、オフセットとデジタルの組み合わせがあったり、Webを使うものがあったり。仕組みをどんどん柔軟なものを作っていく。
もう1つは印刷サービス内容や料金体系の進化。クロスメディアサービスに取り組んでいく。継続的に成功報酬型で料金を請求する。印刷物ベースではなくてサービスベースで課金する。そういったものを実現していく。実際にここではお金をどうやって生んでいくのか。
もう1つは情報発信力の強化。お客様自体の情報発信力を高めるということもあるが、印刷会社さん自体の情報発信力を高めていくことで、新しいお客様を見付けてくることもそうであるし、サービス内容や料金体系およびそれを提供する仕組みを実現していく。そして、その際にパートナーと一緒に取り組むこと。実際にパートナーと一緒に回していくことで未来を破壊することを実現していただければと思っている。
2012年8月27日T&G研究会「徹底討論!『未来を破壊する』とは何か」より(文責編集)