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鹿野氏:今日は基本的に6つのテーマでお話しする。デジタルカメラはどこまで使えるかということと、レンズをどう選択するか。菊池さんも言われたが、オーディオ、音声はどういうものなのか。そして編集ソフトの話、書き出し設定の話、色管理にLightroomを使ってしまおうという話も、時間があれば最後に交えていきたい。
郡司さんも言われていたが、我々に映画とかテレビのコマーシャルをいきなり撮れと言われても、撮れるわけは絶対ない。大がかりなチームを引き連れて何時間も撮影しなければいけない。テレビのコマーシャルなど、4、5日かけて撮影しているところもある。一体いくらかかっているのか。1,000万円、2,000万円ではきかないだろう。そんな大きなプロジェクトの中に我々が参入できるわけではない。
その代り、ニッチな市場で需要がたくさんあると思う。例えば、これは郡司さんからの受け売りだが、昔は美しい印刷ポスター、それよりもコルトン(電飾看板)のほうが訴求力がある。今は、コルトンよりもデジタルサイネージが受け入れられている。
デジタルサイネージの中で何か動いていると、もっと人が止まる。へたくそな動画でもいいから、ものすごく美しい印刷ポスターよりも、へたなおねえちゃんが撮った動画でいいから、何か動いていると人の足が止まるのだと。
そういう意味で、我々にもそういう仕事が来るのではないか。ただでさえ写真は印刷、供給過剰である。カメラマンが余っている。仕事はあるが、単価も低いし、競争相手も異様に多いので、なかなか新しい仕事がとれない。
うちの場合、今までワンカット2,500円もらえていた衣料品の撮影があった。折りたたんである服が送られてきて、広げてアイロンをかけて、中に仕込みをして撮影して、またきれいにたたみ戻して返して、そこまでやって1枚2,500円である。それでも安かったが、今うちはこれが1,750円まで叩かれている。ひょっとしたら、もっと叩かれるかもしれない。もう写真を撮らないほうがいいのではないかと思っている。
しかし2分から3分、あるいは10分程度の短い動画の需要はある。社内教育とか、それこそデジタルサイネージ、マニュアル、インターネット上の製品紹介、インタビュー、あと結構最近多いのが使用説明書である。テキストと写真だと、くどくどやらなければいけないものが、動画だとあっという間にわかってしまう。
使用説明書はみんななくしてしまうが、iPadの中に入っていたら、iPadをなくす人はあまりいないので、大体iPadの中に入れてしまう。iPadに限らず、他にもいろいろあるが、そのために動画が欲しいというリクエストが増えてきた。
ただ、これをプロダクションに頼むと、たった2分か3分の動画であっても、ビデオ部隊はカメラマン、カメラマンアシスタントが2人、音声、音声のアシスタント、照明、照明のアシスタントが2人、監督とADがいて、計10人がマイクロバスで来る。弁当代だけでも1万円を超える。
ところが、我々なら、私が監督でカメラマンで照明もする。私とアシスタントの2人だけで行って、弁当代2人分だから1,200円で済む。まずここだけで全然違う。
今まで、ポストプロに編集まで頼むと、大体200万から300万かかっていた。それが、私だと20万から30万で、そのリクエストされた動画ができる。そう言うと、意外と食いついてくる。100万出せないけれども動画は作りたい。
特にインターネット上のムービーでものすごく要求されているのは、滞在時間である。昔はページビューだったが、今は、このページで何分止まってくれたか。テキストはみんな読まない。見出しだけ読んでいる人ばかりである。動画だと、まず30秒くらいは見てくれる。2分くらいまでは、最後まで見てもらえる可能性が高い。
インターネット上はよほど面白いコンテンツでないと10分止めるのは無理だが、2分までの動画なら止められる。ページ滞在時間が2分というと、結構大きい。したがってインターネット接続会社でも、できるだけ動画にしたいと思っている。
これはカメラマン側の話だが、今2日間でカメラマンとアシスタントで20万から30万稼げる仕事なんてめったにない。我々にとっては、20万から30万というのは結構大きな仕事である。さすがにプロダクションのほうも気が付いてきて、最近は小さなチームを編成し始めた。カメラマンを教育して、ライティングができるようにして、音声もつけずにカメラマンとアシスタントだけ飛ばしてくる。
ただ、それでも彼らは、そういう小さいチームを作って値段をダウンサイジングするが、所帯が大きいので、我々と同じようなところまでなかなか下げることができない。多分、今は私たちが参入しやすい最後のチャンスではないか。
これは昔カメラマン用に作ったスライドなので、「まだ写真の仕事が動いているならば」と書いてあるが、「まだ印刷の仕事が動いているならば」、余裕があるうちに動画というものをものにしてしまったほうの勝ちではないかというふうに思っている。
動画を使うメリットはたくさんあるが、まず我々が使っている35mmタイプのデジタルカメラ、なぜこの動画がここまで評価されるようになったのか。当然、イメージセンサーのサイズが全然違う。
今までデジタルカメラが「写真に追いつけ追い越せ」と言って頑張って頑張って、14年前はもう使い物にならなくて、かなり勉強しないときれいな印刷物に仕上げてもらえなかったデジタルカメラが、6年くらい前、D70とか、あのあたりから手放しで使えるようになった。写真に何とか追いついてきた。今では画素数とか感度とか精細化とか、そういったものでははるかに写真を追い抜き去っている。
そのカメラに「動画が付けられるんじゃないか」と、誰かが思いついて付けたのだろう。「動画をつけたら売れるぞ」なんて思っていない。「連写枚数を上げていけば動画になるのだからできるよね」といって付けた。付けたものを使ったのは特にハリウッド系だろう。向こうのカメラマンが「きれいにぼけるぞ」と。
そして一番驚いたのが、映画監督とか、テレビでも最後まで16mmのフイルムにこだわっていた人たちが、なんでビデオ使わなかったのか、なんでデジタルシネマを使わなかったのかというと「あんな汚い絵は使いたくない」と言っていた人たちが、最初EOSを使ったら、映画のような深みのある絵が撮れた。立体感のある絵が撮れた。
しかも、彼らが使っているこういうムービーは、安いもので400万とか500万、レンズ1本が150万というのが標準になっている。そんな値段である。お金のないプロダクションなどは、自分のところが持っているカメラは1台か2台で、あとは全部レンタルで済ませる
ところが、EOS 5D Mark IIだと30万か40万で買える。30万か40万くらいなら手が出る。特に、日本のコマーシャルで一番多く使われ出したのは、時間のない芸能人のコマーシャルを撮るときに拘束時間を短くするために、4台くらいの5D Mark IIを並べて同時に撮る。その中でいいものだけチョイスして編集していく。
このカメラを4台とか5台レンタルしてきたら、そこだけですごいお金になる。ところが、EOS 5D MarkIIだったら自分たちの予算の中で、1本作る予算の中で買え、それからずっと使える。そういうことで35mmのカメラの動画というものが評価され始めた。
その後、実は我々が動画を始めた。動画を始めた理由は、さっき述べたように、写真の仕事はもう増えないが、動画の仕事なら増える可能性があるということである。
それなら、何でもこれでいいのかというと、それは話が違う。いろいろな理由があるが、35mmタイプのデジタルカメラで動画が撮れる時間は、最長で30分あるいは最大2ギガバイトというふうに決められている。長回しとか、舞台などを撮るためにセンターにずっと置きっぱなしで頭から最後まで撮るというようなものには、まず向いていない。
そして、ピントを滑らかに動かすというのが、オートフォーカスになってからは絶対できない仕掛けである。写真はピントを合わせた後にシャッターを切るというのがルールなので、ピントを合わせている最中などどうでもいい。オートフォーカスの速度を上げるために、全部ギア方式というか、段階(クリック)方式で、なめらかに絶対動かないようにできている。したがって、写真のためには素晴らしいレンズだが、動画に使うとちょっと問題がある。
ズームレバーも同じである。カメラマンで、たまに直進ズームでズームしながら写真を撮る人がいるが、普通はしない。ズーミングして必要な構図まで持っていってからシャッターを切る。ズームしている最中など、実はどうでもいい。
ところが、動画の場合は、ズーミングしながら寄っていくとか、ズーミングしながら引いていくとか、そういったことも要求される。それをこれでやろうと思ったら、いろいろな装置を付けて、高いレンズを買ってやらなければいけない。なんでもかんでも35mmのデジタルカメラがいいというわけではない。
動画用のカメラというのは、もともとそのためにデザインされているので、そういう作業がしやすいように作られている。なんでもかんでもこのカメラを使えばいいというわけではないが、このカメラの良さをうまく引き出してあげれば、絵の美しさでは彼らに勝てる。
特に、動画の場合は広いところを人間が行ったり来たりする、その全てに対してきっちり照明が当たるような像にまず作り上げてから撮影を始める。しかし、映画や何かではなくて、我々がやっているような動画なら、そんなにあちこち走り回らない。例えばインタビューだったら、相手は大体座っている。だから、そこはポートレートライティングできちんとライティングすればいい。
今までの動画の人たちは、それでもパンをしたいので、パンしたときにどこまで行っても明るさが一定になるようにきちっと照度を測って、明るいスペースを、写っていなくても作ってしまう。それは多分、我々には要らない。
これが、私が初めてデジタルカメラを買ってきて撮影した動画である。雪景色である。写真のようだが、ここを見ると三沢空港を飛び立った飛行機が飛んでいる。リクエストが雪景色だった。しかし、この雪は、実は新潟で撮ってきたもので、風景は三沢の風景である。三沢にある蕎麦屋の風景である。
なかなかいいだろう。私はこの辺まで雪に埋まってカメラを回した。つまり、全然パンもしてなければズーミングもしていない。ただ、こういった設定があって音楽が付いたら動画である。全然写真と違うものに見えると思う。
次の風景は、合浦公園である。ここも、この辺まで雪に埋まりながら撮っている。よく見ると、梢とか、今カラスが飛んだので動画なのがわかる。写真だったらつまらないが、動画になって音楽が乗って、この辺は別のところで撮った雪を合成している。全然動いていない、カメラはフィックスだが、16:9という長い画面のおかげで、これだけで何かいい映画を見ているような感じになってしまう。
これが多分、我々がやる動画なのだと思う。つまり、無理やりレンズを振り回さない。下手なズーミングやズームアウトはしない。アウトフォーカスは簡単だからいいが、インフォーカスは結構大変である。そういったものはなるべく避けて通る。これが35mmタイプのデジタルカメラを使うコツだと思う。
先ほど菊池さんも言っていた8mmの超広角レンズである。私の知り合いの動画のスタッフに見せたら、「なんでこんな絵が撮れるの」と言っていた。彼らは小さいイメージセンサーを使っているので、超広角というのはありえない。
しかも感度が6400で撮っている。現場では足元が見えないくらい暗いが、撮っているファインダーの中はこういうふうに見えている。同行していた記者が、「なんでこんなふうに撮れているのか」と驚いていた。動画でこんなふうに撮れるはずがない。この風景は本物である。手前と奥の雪の降るスピードが違う。偽物と本物の差というのはこういうことである。
ただし、動画の場合は、30分の1秒よりも下のシャッタースピードは存在しないので、暗いところに、これは標準レンズのF5.6くらいのズームレンズだが、これ以上明るくできない。これ以上感度を上げてもざらつくだけである。それを感度2.8のレンズに取り換えると、ここまできれいにできる。
つまり、写真は暗かったらシャッタースピードを落とせばいいが、動画は低いシャッター速度はありえないので、明るいレンズがどうしても必須になる。多分この辺を人が通る。今通った。私が撮っているときは、それが全然見えなかった。自分には見えないがカメラにはそこまで記録されたということである。
いわゆる古い単体レンズの明るいレンズ、フォーカスが滑らかな、そういったものを見つけたら、ぜひ動画用として買ってほしい。非常に使いやすいと思う。
我々はすぐ好感度にすればいいと思って感度を上げるが、動画のこういうざらつきは結構うるさい。したがって、動画は感度を上げすぎるのは非常に難しい。その代り、ノイズにはノイズを。これは新潟駅の雪だが、雪がノイズの役目をして、後ろのざらつきが全然わからなくなっている。
このときのテーマは全部雪景色だったので、こういうふうな処理をしたが、実際は合成したのはこのときである。デジタルカメラで動画を撮るということは、多分こういうことなのではないかと思っている。
デメリットは先ほどお話ししたが、そのデメリットをうまく逃げて写真を作ればいい。その後に初めて作った動画を1本見てもらう。これはあるセミナーのために初めて作ったものである。テイちゃんという中国人がモデルである。
よく見ると、カメラは全部フィックスで、立て位置になっているが、下手なフォローは一切しない。モデルが動いてくれればいい。モデルは、行ってしまっても帰ってくればいいので、完全にポートレートライティングである。
こんなこともできる、あんなこともできるとやりたいために、周りにいろいろ付けたりしているが、結構きれいだろう。カメラマンが普通にモデルをロケで撮るとしたら、こんなライティングで撮るというのでライティングしている。
デジタルサイネージなので、こういうところに値段を入れたらいいだろうという話だったが、こういうことで購買意欲をそそろう、そういうテーマで作ったらどうかというのでこれを作った。その後、これをクライアントに見せたら、早速1本仕事をもらった。
今までのムービーカメラではできなかった色再現性、グラデーション、ダイナミックレンジ、それを全部使える。ただし、やってはいけないのがオートフォーカスである。今、彼女にピントを合わせた。鳩が飛んできた。鳩が足元くらいに来たら、彼女が前に歩き出す。オートフォーカスのままにしてある。歩き出すと、フォーカスが一生懸命合わせようと思って行ったり来たりしている。
写真の場合は行ったり来たりしても止まった瞬間に撮ればいいが、動画はずっと撮り続けているので、きちんとピントをフォローして撮るためには、大概、映画の場合はカメラマンの隣に、レンズの横にフォーカスマンというのがいて、歩いている距離を測りながらフォーカスフォローする。ズーミングがなくても、カメラマンが構えているだけでズーミングするのは、やはり隣にいるアシスタントがズーミングしている。
我々が使っているズームレンズは、ズーミングするとピントがずれる。ピントが合っていたはずなのに、ズーミングすると誤差でずれる。しかし彼らが動画の世界で使っているズームレンズは、100万とか200万とかするが、それがないように設定されている。だから、それをやりたければそっちのほうに行ってくださいということになる。
ちょっとレンズの話をしておきたい。私が動画を作るときに使っているレンズ群はこれである。コシナというところが作っているレンズで、40mm、20mm、52mm、90mmとあり、みんな復刻版である。昔のツァイスのレンズとかトッポンのレンズの復刻版で、ほとんどがF2.8あるいは1.4という明るいレンズである。
今まで静止画の世界で使われているレンズでいいレンズというのは、デジタルカメラはどんどん画素数が増えたので、解像感が高くて、画面中央と周辺の解像力が均一で、なおかつ明るさも周辺光量が落ちないレンズがいいレンズだと言われている。
しかし、こういう印象的な写真を撮りたいとき、これは40mmのレンズをAPCに付けているのでかなり被写界深度は普通は深いはずである。しかしこのレンズはピントが合ったところだけがピーキーで、ちょっとでも外れるとぼけてしまう。
さっき菊池さんが、「手作業でも何とかピントは合う」と言われたが、こういうピーキーなレンズだと、「ここでピントが合った」というのが本当にわかる。
それが50mmとなるともっと極端である。F1.4開放だが、ここしか合っていない。他は全部ぼけている。ここまでぼかして撮る必要はないが、こういうピーキーな特性を持っているレンズだと、無理やり露出を開けなくても、結構やわらかくて、見せたいところにピントがあった写真というのを作りやすい。
これが90mmである。これも多分この辺しかピントが合っていない。その前後は全部ぼけている。それだけにちょっと扱いは大変だが、このレンズは銅鏡をしっかり作っている。ピントリングは普通、高速にピントを合わせるために、このくらいで至近距離から無限遠まで広がるが、このレンズの場合はこのくらいまで回して無限遠と近接まで動くので、ピントが結構合わせやすい。
復刻版だが、元のレンズは銅鏡ががたがただったが、コシナがこれを作るときに、どれが欲しいかと言われたとき、「とにかくスムーズにズームが回るものが欲しい」と言ったら、本当にそういうものを作ってくれた。今の他のメーカーだと考えらえないが、私はこれなら十分フォローフォーカスできるのではないかと思っている。
同じようなもので、カラースコッパーの20mm。とても癖のいいレンズである。きれいに周辺が落ちている。これが動画で広角系をやったとき、端から端まで全部合ってしまうと見えすぎて結構つらい。動画の場合は中心になるものだけが見えてほしい。
特に4:3の昔のテレビのフォーマットだったときには主要な人物を中にちょうど入れられたが、今は16:9で横が長いので要らないものを引っ張る。これを何とかしたくて、中心を浮かせたい、周りをぼかしたいという要求がだんだん増えてきた。
すべてのレンズがとてもきれいな円形絞りに近くなっている。このレンズは、非常に褒めまくったが、1本32,000円とか、高くて40,000円くらいである。十分投資する価値はあると思っている。
次は光の話である。デジタルカメラはすごく良くなって、いい絵が撮れる。ただ、今まで我々が得意だったライティングに使っているストロボが一切使えなくなった。動画は定常光でないと撮影できない。定常光で何が一番いいかというと、太陽光である。
太陽光の次に何がいいかというと、タングステン光である。欠点は、赤い。青の情報はあまり持っていない。もう1つは熱い。冬場はいいが、夏場、タングステンで照明すると非常に嫌がられる。しかし私はずっとタングステンを使ってきた。
これはストロボのモデリングランプで使っているものである。こちらがいわゆるクリアワールド???これは十分拡散させないと、そのまま使えない。普通はモデリングランプで、本来はストロボで撮るので、これでもいいとよく言っているが、こういうふうにフロスト加工すると光が拡散しやすくなる。フィラメントの影が出るが、これだと影が出にくい。
先ほど菊池さんはプレミアプロで話してくれたが、私の場合は、ここでお勧めするとしたらプレミアプロではなくて悪名高いファイナルカットプロ10である。アップルは当然ファイナルカット7の後にファイナルカット8、ファイナルカット9という道を作っていたはずである。なぜそこをすっ飛ばしていきなり10だったのか。64ビット化しようとしたときに、多分アップルはこういうものの存在を脅威に感じたのだと思う。
ファイナルカットプロ10、プレミアプロ、その前のアビット、そのルーツは何かというと、オペレーションの技術者の、腕のいいやつのためのアプリケーションである。
ここに監督か何かがいて、撮ってきた映像をどんどん並べて、監督の言うままに、「ここ何秒、ここ何秒、ここ頭から最後まで5秒で、最後はコマーシャルだったら1分48秒のところでテロップが入っておしまいだからそこが終わり」と言われて、タイムコードをチェックしながら引っ張ってきて仕上げていく、そのために便利なソフトである。
私もファイナルカットプロ7から始まって、64ビット化したのでプレミアプロに移行した。ファイナルカットはしなかったので。それで、その2つのややこしいアプリケーションを覚えるためにすごい苦労をした。これからそれをやるなら、それはプロのオペレーターに任せたほうがいい。
私がなぜファイナルカットプロ10を勧めるかというと、作りが非常に単純だからである。ファイナルカットプロ10は、最初に画像を放り込んだ途端に、その画像のコーデックを読んで、そのフォーマットでシークネスを作るので、何も考える必要がない。出力も非常にシンプルにできている。ややこしいことを考えなくてもそこそこのことができるように作られている。
菊池さんも言われていたが、ここがプロジェクトと呼ばれている。逆である。こちらがイベントである。素材が入っている場所がイベントで、こちらがプロジェクトというふうに言われている。
郡司:私が言ったファイナルカットというのは7である。それは128,000円だった。
鹿野氏:それでも安かったが。
郡司:それでも安かったが、それはどちらかというとプロ用である。10と言っているのは、昔iMovieと言っていた、その流れを汲んでいるものなので、ちょっと別物という感じだが、あえて、アンチテーゼで鹿野さんはそれをお勧めしている。それは一理も二理もあると思う。
鹿野氏:例えば、サコスという会社の防音システムのプロモーションビデオで、こういう素材を使って中身はこうだと。ズームできないので、次にアップで撮った画像を置く。その後さらにアップで撮っておいた画像を重ねる。
これをリゾルブでつないでなめらかにつながるようにして見せれば、十分アップでうるさい発電機をこうやって囲っていくと、徐々に音が小さくなっていく。
ここに次のシーンを入れようというと、次はこの兄貴分の大きな発電機、コンプレッサーとかを入れる。次にそれを組み上げている写真を入れる。どんどんくっついてくるが、自分でくっつけているわけではなくて、次に置きたいとなると自動的にくっつくので非常に楽である。
これで全体の構成を作っておいて、その後、さっきやったようにアップの部分とか、騒音計でいろいろ測定しているので、ここはどのくらいだったというのを切り抜いてこの辺に置いたり、こういう作業をして言って、テキストも組み上げていって、料理番組ではないが、これができたものである。
私はずるいので、まずこれで見せた。騒音が出るので、ちょっとおとなしい音楽を選んだ。そうしたら「いやだよね、これ」と言われて、実は隠してある。結果的にはこれに決まって、このために編集3時間しか使っていない。撮影3時間、編集3時間、クライアントに1時間報告に行ってチェックしてもらって、直しを入れてもらって、直しは多分30分か40分。時間は1日かかっていない。8時間弱で最後まで仕上げた。
したがって、むちゃくちゃそんなにいい出来かというと、そうではないが、でも20万でこれができるなら十分だろう。それ以上のことをやりたければ、それはその道のプロに行ってもらいたい。私もそのうちうまくなってできるようになるかもしれないが、今はこれでお客様とつながっている。私の場合はお客様とつながっているおかげで今でも静止画の仕事をある程度いただけたりしている。
最後に、来週、東京文化会館でやる、背景が千住博の絵で、井上八千代先生と花柳壽輔先生、2人の人間国宝がセットで舞うという、2万円とか3万円とかするチケットが既に完売しているそうだが、それの背景を見てもらう。
これは私が撮影している千住博の絵で、最初はずっとこれが映っている。「牧神の午後」をテーマに日本舞踊を踊るというもので、フルオーケストラである。最初は気が付くか気が付かないかくらいにしているが、徐々に滝がちらちらと落ち始めて、今、右のほうの滝がふわっと落ちた。もちろんこれは本物ではなくCGで作っている滝である。
私が動画をやっているというだけで来た仕事である。結構きれいだろう。動画をやっていれば、静止画の仕事もつながるし、動画の仕事がさらに広がる可能性も、いくらでもある。
郡司:同じことが印刷会社にも絶対言える。
鹿野氏:特に、我々は仕事をもらわないとコンテンツがないが、印刷会社は自分のところにそういうコンテンツをたくさん持っているし、獲得できる場所にいるのだから、動画ができるからやるのではなくて、動画をやらなければ仕事が広がらない。新しい仕事を引っ張ってくるきっかけは動画なのではないか。
もちろんタイムラプスであったりクイックタイム全集VRとか、いろいろな写真としてのものが広がっている。しかし、昔、銀塩の時代にはそこまで行けなかったのが、デジタルになったおかげで、我々もそこまで行けるようになった。
もう1つ、なぜ私が編集までやろうとしてこだわっているかというと、撮影だけだと全体の値段が下がらないからである。編集だけ編集プロダクションに行ってしまうと、私が10万円で向こうは100万円である。それなら両方取ってしまえというのが一番だった。
印刷会社というのは完成品を作るのだから、動画をやるのなら動画のコンテンツを撮るだけでなく、ぜひ編集のほうまでやっていただきたいと思う。
2012年11月27日TG研究会「印刷会社のための動画ビジネスの基礎」より(文責編集)