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株式会社デンショク
石倉 章晴 氏
デンショクは株式会社モトヤの関連企業で、電算写植時代にモトヤ書体の普及のために設立された。会社設立以来、独自のデータベースと組版ソフトを使った自動組版をビジネスにしている。主に用語集とか辞典、名鑑、各種名簿作成などを受注している。現在、InDesignスクリプトによる自動組版にも取り組んでいる。また、本と連動してWeb、スマホ、タブレット向けのアプリの開発運用もおこなっている。
電子書籍に取り組んだきっかけは、新規開拓先からホームページ用の.book作成依頼というのと、緊デジ用EPUBの制作と指導をしてほしいという依頼があり、営業的要素と電子書籍研究のために、受注を決定した。
取り組んだ社内スタッフは主担当が1名である。DTPやプログラム知識に加え、Webデザイン、HTMLとCSSの知識もある。今回の役割は仕様分析とワークフローを考案すること、あとは実務指導。その他、タグ付けでDTPのオペレーター1人、開発系でタグ置き換えとか見出し自動化、相互リンク付き目次作成という開発を担当した。
元データの種類は、写研データ、InDesign、モトヤのmarkⅡなどであった。納品実績としては、全部で60点以上を納めさせていただいた。
使用したツールは、.bookの場合はT-Timeなどを使用した。EPUB3の場合、markⅡのタグ付けの場合とInDesignデータの場合と少し手法が違う。markⅡデータの場合は完全に手作業で、Dreamweaverをテキストエディターとして使用した。当初、FUSEeのβ版を使っていたが、途中でDreamweaverに変更した。
InDesignデータの場合は、InDesignのCS5からXMLに変換して、XHTML変換ツール。これは田嶋氏のツールを利用させていただいた。レイアウトの修正とリンクの作成等はDreamweaver、外字、画像の作成とファイルの分割は田嶋氏作成のツールを使わせていただいた。OTFのファイルの作成も田嶋氏のツールを利用させていただいた。
また、EPUBチェックはEPUBチェック、検証はリーディアムとKoboとiBooksの3種類で検証した。結果として、田嶋氏のツールのやり方が、オペレーターいわく、一番やりやすかったという報告を受けている。
制作で苦労した点は、仕様に関して、緊デジ仕様の対応であるとか、非緊デジ仕様、出版社独自仕様への対応というのが非常に苦労した。データ作成に関して、支給データのスタイル設定、外字の作成、目次や注釈のリンク設定、あとは細かいことだが、確認したい箇所を底本から探す手間というのが非常に時間がかかった。
検証に関しては、検証ごとの、ビュアーごとの検証が、何種類もあるので、これも結構大変だった。その他に、対応不可能な修正がある場合、裏付けの調査も情報が不足していた。社内にしてもネットにしても、情報が不足していたということである。
取り組んだ感想だが、制作的には電子書籍を研究するのにとてもいい機会であった。1冊目の制作段階では自分の行っている作業がいいのかどうか不安を抱えていたが、実際のお客さんに納品して承認を得たことで自信となった。この経験が今後の会社の業績や、業界の発展につながる手助けになればいいと思う。
制作側としてはそういう感想だが、営業から見ると、今後必要となる電子書籍に関する技術の研究とか、習得したのは強みになった。実際、Webの制作会社も進出して、電子書籍ファイルの作成自体、もう値崩れが始まっているという話も聞いている。効率を良くして人件費を落としても利益が出せないのではないかと、ちょっと不安もある。
今後の課題として、制作側から見るとEPUBの仕様やビュアーの仕様への理解をさらに深めたい。より効率的な作業フローやツールの多さも必要だろう。また、デンショク独自のツールも、今研究開発中である。あとはHTMLとかCSSの勉強。文字コード、異体字についての研究も必要であろうということである。
営業サイドから言うと、会社における電子書籍の位置づけを明確にしなければいけないのではないか。電子書籍技術を含めたビジネスモデルの開発ということも必要になってくるかと思う
今後の展望ということだが、EPUB3、端末、ビュアーなどの機能が向上することで、あらゆる印刷物が電子書籍の対象となるのではないか。また、セルフパブリッシングに見られるように、電子書籍版から逆に印刷版への流れも出始めてきている。
もう1つは、いつまでEPUB3が続くのか。次はHTML5になるのかどうか。この辺の電子書籍に関する動向に注目しつつも、やはり印刷物と電子書籍が効率的に作成できるワークフローの準備が必要ではないかと思っている。そのワークフローというのはやはりデータベース指向、そちらのほうに向かっていくべきではないかと考えている。
これは今我々が取り組んでいるビジネスモデル例だが、一般販売系印刷物だけではなく、非販売系印刷物の電子書籍化も対象となっていくであろうと考えている。サーバにデータを置いて、そのデータベースから本を作ったりWebを検索閲覧したり、あるいはモバイルで検索したりして、その中で電子書籍、現在で言うところのEPUB3がこちらで見られる形というのも必要になってくるのではないか。
電子書籍、EPUB3も情報配信ツールの1つではないかとデンショクでは位置づけて、ビジネスモデルとして今後EPUBというものを活用していきたいと思っている。
2013年6月17日TG研究会「EPUB制作現場の実態と今後の課題」より(文責編集)