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株式会社シーティーイー
新規事業推進プロデューサー 鎌田 幸雄 氏
シーティーイーは43年の歴史があるDTP制作会社であるが、開発グループも持っている。私の得意なスクリプトも書けば、いろいろなツールを作ったり、外部に指示を出してプラグインなどを作らせることをしている。
実はモリサワのMCBookの開発にも携わっていた。InDesignのプラグイン開発を、シーティーイーが担当している。モリサワ自体は制作はしないが、出版社側から「こんなものを作りたいのでどこか紹介してほしい」と声がかかり、紹介していただいたのが最初である。
2012年の3~4月くらいにプラグイン開発が終わり、シーティーイーも電子書籍部門を持っていたので、何か作ろうといろいろ試みた。たまたま紹介してもらった会社からMCBookとEPUBを両方同時に納品してほしいという要望があり、それで作り始めたのがきっかけである。
作業しているうちにある日突然、何月までに50冊欲しいというリクエストがあった。そのときはKoboが始まることを知らなかったが、その出版社はKoboを見据えてEPUBを考えていたようだ。
シーティーイーはDTP制作がメインで、Webの知識は全然ない。CSSを扱えるとか、Webサイト制作をしたとか、そういう経験がない。MCBookはInDesginを取り込めるので、スタイルもきちんと取り込む。CSSを知らないDTP制作会社にとっては大変やりやすいツールだと考えている。したがって、それを使ってワークフロー構築を行った。
我々だけではできないので、協力会社にも参加していただいたり、中国にある自前の制作会社でEPUB作成のレクチャーをして、月産50冊くらいで一緒に始めた。現在も50冊くらいの制作体制はある。
緊デジに対しては、ちょうどそのタイミングでサンプル選定として「.book」を作った。だが、緊デジの制作会社としての選定からは外れた。価格を高めに見積もったせいもあるが、正直いって、.bookとMCBookの両方を並行してやることはできないので、MCBookからのEPUB書き出しを中心に制作した。
現在、EPUB3ほぼオンリーでやっている。大体作るのもWordからいったんテキストにしてスタイルのタグを付けたり、PDFからテキストを書き出ししてスタイルタグを付けて、MCBookに取り込み、何とかする形にしている。
出版社との作成方針については事前に共有が必要だと思う。特に画像とかキャプション、表については、実際単価が安いので、作リ易い方法をお願いしている。まとめて表も画像で回り込みはしないで、改ページも行間の周りで配置する。異体字に関しては、MCBook自体は画像化する機能があるので、あまり気にしなくていい。
実際にDTPデータからの変換がほとんどだが、出版社からいただくデータは複数のDTP会社に出しているので、InDesignの作られ方も千差万別である。非常にきれいにスタイルを当てて作っているデータもあるし、「こんなところで改行して」とか、「見出しのテキストボックスを本文の上に重ねて全然つながらない」とか、そんなものまでさまざまである。
したがって、MCBookに流し込む前に整理する。なるべくすんなり取り込めるように、ボックスが離れていてもそれが意識できるように、オペレーターに理解させるために流し込み用のInDesignを作るようにしている。
画像やキャプションも、いったんPDFにしてからEPS吐き出しして、InDesignに貼っている。それをMCBookに読み込むと、画像とキャプションがきれいに画像化して書き出される。
MCBookに流し込んで、その時点でEPUBに書き出してしまう。Calibre(キャリバー)からテキストを書き出して、それを0校として保存しておく。そしてMCBookで制作する。電子書籍には明朝、ゴシック、その太字という大体4種類くらいフォントがあるので、そこで調整していく。
MCBookの基本的な機能では少し不足するところがあって、マクロが組めない。それで、秀丸でMCBookプラグインが販売されている。それを利用して、MCBookから秀丸で開き、それを使って点検作業はほとんどマクロ化している。オペレーターにも、流し込んだ後にはマクロチェックをする形で、作業手順として決めている。
そうした中で修正後に、作業者レベルOKのEPUBができる。最終的に、またテキスト書き出しして、他のフリーウェアソフトで比較している。テキストの抜け漏れはそこで発見する。とにかく抜け漏れだけはしないという意識でやっている。
その後EPUBにするが、最終的なチェックは私がやっている。EPUBを解凍して、アマゾン用に再タグ付けするか、iBooks用にメタ情報やネームスペースを追加したりしている。1つのEPUBでiBooks、Kobo、アマゾンと使えるような形にしている。行頭の字下げなど微妙なところでは差が出るが、今後そこは出版社に理解してもらい、別で納品するのであれば制作の費用をいただけないかというきっかけになるかと思う。
当初epubpack(イーパブパック)というフリーウェアを使用していたが、ファイルを選ぶのにダイアログが出て、繰り返しやっていると面倒くさい。そこで、ドラッグ&ドロップで圧縮できるPython (パイソン)のスクリプトでツールを作ったりしている。またEPUBの構造チェックも自社でチェックツールを作って、ドラッグ&ドロップでチェックできるようにしている。
とにかく時間が足りない。開いてダイアログ表示して選ぶのも繰り返しになるとかなり時間を食う。納期が迫っているときはなるべく時間を節約している。
EPUBの検版については、アドビのデジタルエディションでプリントし、シーティーイーの検版部門でチェックしていた。
ただ、検版員はデジタルの経験がなく、例えば書体が少し違うとか、送りが違うとか、非常に細かいところを見てしまう。最初は「こういうところは見ないでください」と言っていたが、もう今はKindleの端末を渡している。そうすると、年配者ばかりだが、「電子書籍はこんなものか、端末で字が大きく小さくできるってこういうことか」と、実際にわかってもらうと検版も簡潔になる。
この1年で300冊くらいのEPUB3を作っている。あとは緊デジで中間ファイルみたいなものを作って、.bookに制作した構造のチェックも300冊くらいやってきた。
ただ、社内の体制は、私と制作者の2人だけである。あとは中国で作っている。マクロとかプログラムを書けるのは私だけなので、社内的にはかなり厳しい。この1年は端末のバージョンもMCBookのバージョンも上がるし、iBooksも3月に突然変わったし、仕様を見ながら、変更点やワークフローなど試行錯誤を繰り返してきた。
最近は出版社が紙と同時に電子書籍を販売したいので、最初に確定してから電子書籍にするまで実際は4日くらいしかない。だから最終データが入ってきたら、即日に電子書籍としてEPUB化している。
あとは出版社の理解をいただいて大変助かっているが、やはり校正は3回くらいやりとりしている。多いものだと、ここが直ったけれどもあそこが直っていないとか、Koboではどうだ、Kindleではどうだといって、6回くらいある。なるべく、この値段だったら3校くらいで収まるようにとお願いしている。
また、出版社と直接話をできるのもいいことだと思う。知らない制作会社の営業の方などが入ってしまうと、希望がなかなか反映できない。こちらからいろいろ説明してご理解いただいたので、よかったと思う。
やってみて驚いたのは、出版社側はデータの管理ができていない。制作者側のオペレーターが、「底本と違う」というのはしょっちゅうで、問い合わせると「新しいデータが実はあった」とか「もうこのデータしかないので、とりあえずやってください」とか、そういったところで出戻りの修正もかなり発生することがあった。
今後、同時出版などを出版社が考えると、やはりDTPの作り方をこちらからお願いしたい。どこまでやっていただくか、あるいはこちらがリードするか、そこまでやっていけるとスムーズな流れができるのではないかと感じる。むしろそれがないと、データ制作者としてはなかなか厳しいと思う。
MCBookは、クローズドの世界で、せっかくタグ付けしたテキストがコピーできなくて、二次利用ができない。
電書協フォーマットの5.1が出たが、それも少しテストしたらバグが出て、ゴシックのスタイルが書き出されないことがあった。この間5.2が出て、やっと電書協フォーマットの不具合が解消して、書き出せるようになった。最新バージョンであれば問題なく使えるのではないか。ただ、MCBookだけに依存するのもどうかと思っていて、IDMLからEPUB化ツールももくろんで制作しているところである。
制作については、価格がとにかく安いことが大きな課題だと思う。やはり緊デジの単価が出たので、それがベースになってしまったのではないか。
実際はどんな作り方をしているかわからないDTPデータで展開していくのは、本によってはかなり時間がかかる。その辺をわかっていただける出版社ならいいが、やはり緊デジの価格がベースになっている。この価格で利益を出すのは難しいという気もしている。
ただ、先行投資あるいは研究開発では、やっていかなければいけない。今後、電子書籍化の流れは当然で、そこで、いかに安くするか。プログラムか、安い人件費で作るといった模索をしていく。
シーティーイーは、KDPとiBooksでも出版代行をトライし始めたところである。そういったところで、電子書籍化についていろいろな課題に対応していきたいと思っている。
2013年6月17日TG研究会「EPUB制作現場の実態と今後の課題」より(文責編集)