本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
ティアオは、福岡で電子書籍をやっている会社である。電子書籍自体は2001年から関わっており、もう12年くらいやっている。
最初に作った電子書籍はライトノベルであった。メディアワークスの電撃文庫の話があり、「来月発売の新刊の立ち読み版を(電子書籍化して)ブラウザで見せられる」という提案をしたら、「縦書きやルビもできるのか」と言われたので、「できます」と安請け合いをしてしまった。
ボイジャーがその技術を持っているのは知っていたので、ボイジャーの萩野氏に会いに行って、「こういうことになったので使わせてください」とお願いして、スタートした。2年間、毎月100冊分を作ってきたので、かなりの点数である。
せっかくこういう技術があるのなら、他のものでもブラウザで見せたい。その頃、Web制作にも関わっていた。ディズニーにブエナビスタというDVD販売会社がある。夏休みにディズニー映画を見た子供たちに感想文を書いてもらうという企画があり、あるレベル以上の応募作品をおしゃれに掲載したいという話があって、提案したら決まってしまった。2003年頃の話である。
福岡に「シティ情報ふくおか」というタウン情報誌の草分けのような古い会社がある。秀巧社印刷の子会社であるプランニング秀巧社が、結構早い時点からぴあと組んで、九州の街を元気にするためのタウン情報誌を作った。
そこが中心になって、九州各県の拠点を使って、何か新企画をやりたいという話があった。2002年にぴあストーリー大賞という賞を作って、九州を舞台にした小説を公募し、そこから生まれた作品を電子書籍で売ろうという提案をした。1年くらい返事がなかったが、「あれ、やることになったから」というので、「やるからには1年で辞めてもらっては困る。最低でも3年から5年やってもらいたい」とお願いして始めたが、翌年、タウン情報誌の経営がみんな厳しくなって打ち切りになってしまった。
その後、自前で本屋サイトを作ってみたり、2005年にはボイジャーの理想書店でも販売を始めた。パソコン向けの電子書籍はなかなか軌道に乗らない状態だったが、携帯の電子書籍市場が急激に台頭してきた。2007年に、ドワンゴの女性向け官能小説という新たなレーベル作りに関わったが、ドワンゴの書店の登録ユーザー数も思ったほど増えなかった。
その後、アップルがiPhoneやiPadを発売し、スマホへの動きが急速に進んだ。「これからはEPUB3だ」という話が起きてきて、それに我々も対応しようというところにきている。
緊デジの話が出てきた頃、趣旨から見て、東京と関係ない九州の出版社や制作会社が応募しても無理だろうと考えていた。直接電話してみたら、「今は内部的にいろいろあるが、状況が変わるかもしれないので、そうなったらまた連絡する」というようなことを言われた。
そして、出版社側が指定すれば、どこの制作会社でも参加できると聞き、九州の出版社に掛け合ってみた。福岡市で一番大きいのは西日本新聞の出版部で、その次は海鳥社である。社員は10人いるかいないかである。海鳥社の社長が「やると決めた」と言われたのが8月か9月だった。ようやく話が進んだのが12月の暮れで、そこで初めて16タイトルに取り組むことになった。その時点で、EPUB3が採用されたことは知ってはいたが、.bookなら、データさえあれば1日3コンテンツくらいはいけると思っていた。
海鳥社の出版物のデータは、平戸、福建省、台湾あたりをまたにかけて、地名とか登場物が中国人と中国語の漢字の世界である。見た瞬間に頭が痛くなるようなもので、それが500ページあった。
それから届き始めたのが「九州戦国の武将たち」「九州のキリシタン大名」「九州戦国合戦記」「筑前戦国史」「筑後戦国史」「九州戦国の女たち」というものである。
海鳥社が使っていたDTPソフトはEdicolorの古いバージョンで、印刷会社からEdicolorのタグが入ったデータを受け取った。1ページにルビが20~30あって、それを500ページと言われると、手作業のレベルではない。Edicolorのタグを置換して、試行錯誤しながら.bookを作る方法をやってみた。それで完璧ではないが、一応全部チェックした。
今回の制作で一番困ったのは、.bookはシフトJISで、最初からEPUB3でやるつもりなら、そっちをやっておけばよかったのだが、走り出してしまったので.bookで仕上げるしかないということになり、シフトJISにない外字を全部作字して組み込むという対応になってしまった。その手間が結構大きかった。
それと、「福岡の戦争遺跡」とか「九州の戦争遺跡」というようなタイトルの本が送られてきて、素晴らしい本だが、写真の点数が多すぎる。350くらいある。350をどうやって組むのかと言ったら「そこは考えてください」と言われ、印刷本のレイアウトとは全然違うが、ルールを決めて、遺跡の写真は冒頭の章頭に持ってきて、30~40%、縦長画像なので見栄えを調整して、地図データは一番最後に配置するというルールを作って、編集と付け合せながら、間違いがないようにということをやっていった。
なんとか2月の頭くらいになったとき、終わりがやっと見えてきたような感じになり、最後にデータが届いたのが12月の第2週である。2月28日が締め切りというか納品期限というふうに聞いていたので、何とかぎりぎり滑り込んで、.book版ができたと思ったところ、3月18日に出版社から「せっかくだからEPUB3も作りたい」という話があった。一応試作はしていたが、できるのかできないのか、分からない。 完璧ではないかもしれないが、とりあえず1つ作ってみようという話になった。
当初は、ルビさえ何とかなれば、あとは何とかなるだろうと考えていた。しかし、大きな壁にぶち当たったのが、EPUB3はUTF-8だということで、.bookであれだけ苦労したシフトJISの外字も元に戻さなければいけない。
今後については、EPUBがこんなに半年ちょっとで一気に広がっていくとは正直想像していなかった。そうすると、やってくれという出版社がたくさん出てくるだろう。
2013年6月17日TG研究会「EPUB制作現場の実態と今後の課題」より(文責編集)