本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
(司会)
電子書籍制作は受注価格に対して採算がとれない状況という話が出たが、実際はどんな感じなのか。
(鎌田氏)
最初にコスト計算して、オペレーター1人で1日から1日半で作業を終えないと合わないだろうと考えた。
やってみた感じだと、1日で終わるものもあるが、ものによっては3日、4日かかってしまう。これをどうにか短縮しないと、どうにもならないと今は考えている。何かツールを作るなりして、対処できないかとを検討している。
(野知氏)
うちは制作だけを受託するというのは基本的にあまりやっていない。自分で制作して自分で売ることメインとしている。電子書籍と出会ってのめり込み始めたのは、要するに「自分で作って自分で売る」ということを目指してきたからだ。
(田島氏)
もともと自社で印刷物を作っているので、得意先に対してのアフターサービス的な意味合いがあって、安くやらなければいけないと考えていた。
難しいものが多いので、迂闊に他社に任せられないということもある。
(石倉氏)
我々の場合もなかなかコストが合わないと思っている。大体作業的に200~300ページくらいの書籍で、タグ付けプラス画像処理、外字の処理、そういうことを含めて1日から1日半かかるというところで、そこでコスト的に合わない。
1つは条件が違う印刷会社からデータを預かったものがそういう作業になっていて、自社で作ったInDesignのデータ、そこにいろいろな仕掛けを仕込んで、それでツールを使って作成するとどうかなというところは、今後研究していきたいと思っている。
(鎌田氏)
我々は大体EPUB制作自体には8時間くらい、検版の作業が入るので、検版員には「行頭の文字だけ、行頭行末だけチェックしてください」のようにして時間短縮を図っているが、やはり昔ながらの検版の方はじっくり読んでしまって1日かけたり、そういったところで時間がかかっている。
(野知氏)
皆さん、InDesignで受け取るデータが一番多かったのか。そのときに、出版社側の担当のほうで、そこからテキストを抜き出して最終原稿としてスクリーニングまでという事例はあったのか。要するに、DTPデータを渡すからあとはよろしく、で終わりか。
(他パネラー)
そうである。
(野知氏)
安いのか高いのかというのは、原稿、画像データがしっかり管理されて、きちんとしていれば、そんなに手間暇かかるものではない。4~5本作れば「大体このパターンはこのやり方で、あそことあそこを修正しておけばいいかな」というくらいで流れていくものだと思う。しかし、意外とちゃんとしたテキストデータというのがないようだ。今回、すごくそれが大変で、そこさえ何とかなっていたら話はまるっきり違ったかなという気がする。
(鎌田氏)
我々の場合は社内での作成がほとんどだったが、社外からいくらかいただいたものがあって、それはMC-B2のデータだが、社内の作り方と全然違ったりした。また、InDesignでいただいたものに、全く段落スタイルが振られていないというのもあった。緊デジではないが、見出しが全部アウトライン化されているという事例もあった。
印刷物を見ただけでは分からない、データを開けてみて解析するしかないということで、今後どうにか合理化できないかと思ってちょっと頭が痛い。
(石倉氏)
我々は去年の9月くらいからいろいろお話をいただいて、現場の人間がいろいろEPUBの仕様についても調査したが、なかなか情報が集まらないために非常に困った。皆さんはどの辺から情報収集されたのか。どういうものを参考にされたのかをお聞きしたい。
ちなみに、我々は電書魂を非常に利用させていただいた。
(田島氏)
イーストの高瀬氏とか、JEPAが中心にやっているEPUBカフェというコミュニティがあり、Webサイトやフェイスブックもあるので、濃い情報を発信されている。そこから情報をいただいた。
また、高瀬氏やイメージドライブというサイトがあって、EPUBの仕様書を全文翻訳して、公開されている。それを確認したりして進めていた。口コミ情報というのは、断片的だが、非常に貴重な情報が流れてきたりというのがあって、ばかにはできないと思っている。
(野知氏)
ツイッターを始めた理由が、電子書籍の情報をいかに効率的に集めるかということが目的だった。とりあえず出版社なり電子書籍制作会社、印刷会社で、それに関するようなことを呟いていそうな人をかたっぱしからフォローするところからやった。ツイッターでの情報収集活動は難しいが、その中でこの人とこの人は押さえなければいけないという人はフェイスブックでもつながりを維持している。
(鎌田氏)
私はあまりツイッターとかやらないし、フェイスブックからも情報を得ていない。Kindleのホームページで探していくと、仕様書がちゃんと公開されていたり、アップルもやはりそうだった。そのうち翻訳が出るが、意外と出版社がちゃんと翻訳を持っている。あるいは、出版社がiBooksや楽天と契約すると、そのときにちゃんと仕様書をもらっている。「鎌田さん、こんな仕様書があるんだけど」というので、それをもらって、それで詳しく読んでいったというのが実情である。
もちろん、JEPAとかEPUBカフェからも情報は収集しているが、まずアマゾンの書き方とかそういうものを集めるところから始めた。
私が聞きたいのは、まともなビュアーはどうかということである。リーディアムが早くそうなってくれればそれに越したことはないと思うが、開発情報などは全くわからない。ある日突然公開されたりとかで、期待していいものやら悪いものやらよくわからない。今名前は出ていないけれども他のところからすばらしいビュアーが出る可能性もある。
その辺のデバイスの部分、リーダーの部分が見えないと、EPUB3には手を出しづらい。作るたびに細かい修正をしていったり、バージョンアップしていったりすると、いつまでたっても編集が本物のデータにならないので、その辺が気になっている。
(田島氏)
緊デジの電書協仕様がある程度安全マージンになっていると思うので、これに期待している。実際、緊デジを作ったときには、ビュアーとしては、その当時正規に出すことがわかっていた書店が楽天Koboと紀伊國屋だったので、そこでのチェックはきっちりした。リーディアムももちろん活用したが、Kobo Touchがリンクがちゃんと働かなかったりというのがあったので、その部分を確認してもらうとか、そういう形で活用していた。
今後はリーディアムにももちろん期待しているが、結構、各書店のビュアーがかなりちゃんとしてきたと思うので、あと1年くらいでほぼメインの部分は均されてくれるといいと思っている。
(石倉氏)
実際、作業が終わったのが2月、3月くらいだったので、現状にはそぐわないが、その当時はリーディアムとKoboで検証した。その後いろいろ紀伊國屋とか、そういうビュアー、ブラウザも良くはなってきていると思うが、いろいろな検証をしなければいけないとなると、これまたコストの問題がある。我々が今後受けるとすると、もうビュアーを決定していただくとか、そういう形でやっていかないとちょっと厳しいかなと思っている。
ただ、EPUBが今後どうなるかということについては、お客さんである印刷会社の話では結局それに対応できなければもう印刷物自体の発注ができるところに流れていくというような、そういう話を聞いたりしていて、EPUB3というのが今後多数出てくるのではないかというふうに思っているので、ブラウザはもう外部環境に任せて対応していくしかないのではないかと思っている。
(田島氏)
やはりKobo、Kindle FireとiBooks、iPadでやっている。経験上、KindleとKoboは大体同じような表現なので、今は大体Kindle FireとiBooksの2つでやっている。
ただ、本当につい先日だが、KindleプレビューやKindleの実機で縦中横が全然問題なく収まったが、KDPに投げて出版したら180°曲がっていた。タグを見たら、縦中横タグが二重になっていた。そういうことがあったので、本当に上がってみないとわからないというのが正直なところである。
(司会)
文字校正はどういう形でやっているのか。
(田島氏)
当社は独立した校正部門があるわけではなく、普段DTP組版をしている社内メンバーが、学術書のように厳密に校正できるので、そういう方々に時間が空いたところで校正してもらっている。
ただ、XHTMLとかEPUBの仕様については全くわからないので、彼らがわかる形にプリントするとか、まだどういう形が最適なのかは模索中だが、ここ何回かはデバイスに入れてデバイスで見てもらって、「底本の何行目のこれがおかしい」という形で返してもらう。
これもおそらく、底本がどこなのかを探すのがすごく大変だと思う。この辺がどうにかならないかと思って、まだ決定的な答えはない。
(鎌田氏)
我々は印刷会社からの請負ということでやっていて、全文はなかなかできないので、少なくとも体裁的なところと文章の段落の先頭と終わり、まず抜けがないことを重点的にやって、お客様である印刷会社のほうで校正をしてもらうという段取りでやっていた。
(司会)
それぞれの方に、今後特にどのような分野で電子書籍化が進んでいくのか、考えをお伺いしたい。
(野知氏)
基本的には学術系、エデュケーションマーケット、教育市場向けは一番重要ではないか。ここがしっかりすることによって景色ががらっと変わると思う。EPUBとTeXが組めるようになるので、これは世界観が変わってくると思う。
商業出版で言う文芸書というのは、紙だろうが電子だろうが私はあまり気にしていない。KDPについては、出せるのは素晴らしいが、売れなければしょうがないのではないか。今は電子雑誌みたいなものかWebサイトでもう一度、原点回帰ではないが、中心にやるしかないのではないか。
要するに読者接点を作りたい。読者とつながらない限り、本は幸せになれないと思う。
地元で元気な雑誌社があって、そこが若者向けのストリートマガジンを、実売で、公称でいうと7万部くらい毎月出している雑誌があるが、ここと組んで電子雑誌をやってみようというので今ちょっと相談中である。それはキラーコンテンツを動画にしようと思っている。
テキストももちろんあるが、せっかくなので動画ベース、動画をキラーに入れ込んで、九州の美少女関係のすばらしいデータベースを持っているので、そういうふうなコンテンツをしていき、それをベースに、基本的に無料配布をやりながら、電子雑誌の広告モデルを作れないかと考えているところである。パッケージにして売るのに、今はそんなにお金を期待していない。
(鎌田氏)
なかなか難しい質問だと思う。1つは一般の書籍、販売系の書籍というのはなかなか、印刷するところまでの費用内でやるというところが出てくると、我々制作会社としてはちょっと難しいと思う。単純にEPUBだけでご飯を食べていくというのは難しいと思っている。
どういうところが対象となるのか、いろいろ考えてはいるが、1つは先ほどおっしゃられた学術系というのはあると思う。加えて言うと、取説とか、メーカーのマニュアルとか、そういったところも対象になってくるだろうと考えている。
ただ、そういったところが本当にEPUBがいいのかどうか。PDFでもいいじゃないかというところもあるのではないか。そこは見る端末であるとか、スマホなのかタブレットなのかとか、トータル面でEPUBのほうがいいと言えるような提案をしていかなければいけないのではないか。
(田島氏)
私は雑誌かなというような感じがしている。ニューススタンドのようなもので、作るだけでなく契約して売れた数に応じて制作社にも収入が入ってくるというような仕組みがいいのではないかと思っている。
作るのも本当に単純な画像をめくるだけ、拡大できるだけ、作るのも簡単という、雑誌なので使い捨てになるが、それでニューススタンドで販売数に応じて出版社と制作社がお金が入ってくるというようなのがいいのではと思う。
もちろん、インタラクティブ的な要素もどこかに入れ込んでおくというのもありだと思うが、まず費用単価でいくとなるべく簡単に作りたい。そういうところで雑誌。ただ雑誌になると、DTP制作会社、印刷会社だけでなく、競争相手にWeb制作会社というのも入ってくる。そこら辺でまたぐっと競争相手が増えるのではないかと思っている。
(野知氏)
基本的には、技術的にはHTML5とかCSS3とか、そういったものはWebと非常に相性がいいはずだが、それをパッケージにしてしまっている。技術的なことをそんなに突っ込んで詳しくはないが、例えばブラウザで.epubというファイルで開くようになるのか。Webコンテンツの1つとして.epubファイルというのがブラウザで開けられるようになるのなら、また話は変わる。特にネット、Webの世界と本がちゃんとつながっていかない限り、いくら書店、ストアの中にタイトルがあったところでだめだと思う。
そこのところが一番悩ましいのではないか。みんな今は様子を見ているが、売れさえすればやりたいというところはたくさんあると思う。「じゃあどうやったら売れるの」というところが、意外とEPUB周りとか電子書籍周りはちゃんと議論されていない。作ってちゃんと表示できた、良かった良かったで大体終わる。
(会場)
最近、大手の講談社などが週刊の漫画雑誌を本よりも安い価格で電子書籍化するという動きを始めている。こういう取り組みから次第に電子書籍が浸透していくのではないか。緊デジのことも、電子書籍が浸透していく1つのきっかけになっていくと思う。
電子書籍の登場によって、制作会社と出版社の関係はどのように変化していくのか、どのような関係であるべきなのか、意見を聞きたい。
(鎌田氏)
先ほど、紙と電子の同時出版という話をしたが、そうなるとデータの作り方も影響してくる。2日くらいでぱっと作れるデータの作り方をしているのか、本当にこの作り方でやると時間がかかるというのもある。もしそういったことを出版社がお望みであれば、各出版社のDTPデータ作り方ルールを再構築していただく必要があるのではないか。
また、出版社の中でデジタル部門をきちんと管轄するような部署が必要ではないか。私の取引先にも1社そういうところがあるが、データに対する意識も違っている。
(石倉氏)
我々の場合は印刷会社との取引なので、出版社との関係は、お付き合いしている印刷会社との話の中でしか答えられない。1つは、EPUBにも対応できないと、印刷発注自体が他社に流れていく。印刷会社としても電子書籍に対応していかないと、今後は厳しいという感覚のようだ。
もう1つは、出版社側も今回の緊デジに参加して、気づいた点が多々あるのではないか。例えば正字の表現を、緊デジの場合は画像で置き換えという形にしていたが、ビュアー上で正字の画像を見るのもどうかということで、新字に置き換えるというような話もある。出版社側も変わってきているのかなという感覚もある。
(田島氏)
我々は、直接紙で取引のあった出版社からも依頼されたが、もともと印刷のときから技術面はこちらでやっていたようなところがあって、感覚としては変わっていないように思う。
ただ、先方の担当者も電子で何ができるのかというところを把握できていないため、今のところはこちらで「これならできる、これはできない」という形で切り分けしている。将来的には出版社が対応してくれることを期待している。
(野知氏)
最終的にWebにするか電子書籍にするかで、どこまで求めるのかというのは結構大きいと思う。紙の紙面をそのまま再現して、画像として持って行くことを求めるのか、あるいはもっとWeb的にフレキシブルに形を変えて出すのかといった話になってきて、そこまでやるのであればXMLで上流に戻すとか、そういう話まで持って行かないとだめなのかなと思う。
それはそれぞれの出版社の中でしっかり決めることだと思うので、そのあたりはこれから順次やられる会社が出るのだろう。
福岡はDTPが普及するのが日本でも一番早かった地域なので、InDesignにしろEdicolorにしろ、何でも自分でDTPソフトを使って、自分で校正して、最終版まで1人で担当するというのを、ずいぶん前からやられている。
東京の大手のように、そういうものを全部外部の制作会社に流したり、印刷会社のほうで「これやっといて」みたいな、そんなことをやっていたら到底食えない。初版の出版部数も1,500~2,000部ぐらいが多い。そのくらいで出した本を、1年から1年半かけて丁寧に売っていく。
そのような出版の現場にいる人たちに「電子書籍をやるか」と話したとき、相当リアリティをもって話さないと動いてくれない。現実にどうなのかというリアリティある実績をもって話をしないと、彼らはまず動かないと思う。ただ興味は持っているので、いろいろな情報は取っているが、まだ自分たちがやる世界ではない、そんな感じである。
(会場)
緊デジに関わったものである。緊デジでは制作会社の皆さんに本当にお世話になって、一言お礼を申し上げる。
緊デジの主な制作物は、実際には固定レイアウト型である。それが7割、8割を占めている。リフロー型は、実は少数派で手間もかかるし、緊デジの中で特殊なものという扱いになる。実際数をたくさんこなして、すごく大変な思いをしたのは、どちらかというと固定型のほうで、特に東北のあまり経験のなかった会社の方や、凸版、大日本の関係の方である。コストの話でも、リフロー型の非常に難しいものは、無理を聞いていただいた形になっていて、そこは心苦しい面もある。
今回こうやって皆さんが、出版社も制作会社も含めていろいろ経験をして、タイミング的にもちょうど切り替わりですごく難しい時期だったが、何とかある程度数を増やしてできたというのは、日本の電子書籍のビジネスをうまく回していく1つのきっかけになると思う。
2013年6月17日TG研究会「EPUB制作現場の実態と今後の課題」より(文責編集)