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株式会社エルエービー 鹿野 宏 氏
当初、動画の仕事は極力引き受けないようにしていた。だが、2、3年後にふと気付くと、従来の静止画の仕事は固定されたクライアントのレギュラーの仕事のみになり、新しい依頼は入らず、断り続けている動画の仕事が増えている状態になっていた。
ちょうどその頃、今から4、5年前になるだろうか、電塾で「動画」が盛んに取り上げられ始め、キヤノンの「EOS 5D Mark II」発表後は、動画はデジタルカメラで撮影できるのではないか、という話をするようになった。
その後、もう1年自社事業の様子を見ることにしたが、状況は全く変わらなかった。つまり、つまり動画は新しい依頼があり、静止画には依頼が入らない。これではどうしようもないと腹を決め、動画ビジネスに取り組むことにした。
それまで主業務だった静止画の仕事は、仕事内容にもよるが、1日拘束されて撮影を行う際は、大体8万~12万円の見積を提示している。しかし、近年はこの見積が通らず、1カットの撮影費も5、6年前の半額以下になってしまった。以前は1日に20~30カット撮影すれば十分成り立っていたビジネスが、現在では1日に50カット以上撮影しないと成り立たない。
一方、動画の撮影は、1日拘束で12万円と言うと、「そんなに安いのか」と言われる。動画の撮影は、カメラマンだけでなく、アシスタントや照明、音声、アートディレクター(監督)など、8~10人のクルーで仕事をする場合が多い。人件費とお弁当代だけで、軽く10万円は超えてしまう。だが、カメラマンは自分で監督と照明が担当できるため、アシスタントを1人連れていくだけでいい。
誤解のないように言っておくが、我々が出来るのは、インターネット上の事例紹介やインタビューなど、これまで写真とテキストで取っていたものを動画にする仕事だ。間違っても、この体制で映画やテレビコマーシャルが撮れると言っているわけではない。
依頼主が自分たちのサービスを語る際、テキストで長く書くよりも、ポイントが2分程度にまとめられている動画のほうがユーザーにとっても便利で分かりやすい。また、PV数やクリック数だけでなく、サイトの滞在時間が優良サイトを判断する一つの基準になっていることもあり、動画の必要性が増してきたのだろう。
このようなコンテンツは、大体1カ月程度で更新されているものが多い。そのため、発注企業は1回の撮影に100万円もかけられない。しかし、彼らは「撮影12万、編集12万。打ち合わせ、撮影、編集、そして納品まで4日で行って30万円くらい」と言うと、「そんなに安くできるのか、OKだ」と言う。
編集についてはプロではないため素晴らしいことはできないが、見る側にストレスを感じさせないよう2分以内の尺で、トランジション前後をしっかりと合わせた動画を作っている。
2分程度の尺となると、こだわった構成も作れないとクライアントも分かっているため、我々の能力内で対応できるような編集しかリクエストされない。
当然、編集とはどういうものか、編集ソフトの使い方まで含めて、多少は新しく覚えるが、そこまでだ。
実際には、先述したように、インターネット上にあった製品紹介や使用説明書、マニュアルやインタビューなど、また社内教育用のマニュアルなど、テキストだったものを、分かりやすく伝わりやすくするために「動画」を製作している。
私のクライアントは、その動画をDVDに焼いて配布するのではなく、全てインターネットで配信している。各デバイスの仕様が変更になれば、そこだけ差し替えて新しく流せばよい。昔に比べてはるかに細かく対応しながらも、コストを抑えることが可能になり、「ここがよくわからない」など、ユーザーからの問い合わせも半数以下に減ったという。
動画ビジネスというと、映画やCM、テレビドラマを考える方も多いと思うが、私にとっての動画ビジネスは、自分の持つカメラや編集能力を使い、手の届く範囲で出来る仕事のことであり、その中心として、テキストと静止画を動画に代替していくものである。
私たちのようなカメラマンが使う最近のデジタルカメラには動画を撮影できるものが多く、そういった意味でも動画をビジネスにしない理由は無い。
ただ、何でもできるかというと、それは嘘である。たしかにこのデジタルカメラは、超高感度、つまりISO3200で動画を撮影できる。今までデジタルで動画を撮っているカメラマン、フイルムで動画を撮っているカメラマンにとって、ISO100以上で撮れるなんて信じられないことだ。
また、普通のムービーカメラを購入するとなると、やはり100万円近くかかってしまうが、私が持っているこのデジタルカメラはボディが約10万円、レンズとセットで購入しても20万円以下なので、とにかく安い。複数台揃えても、1台買うよりもはるかに安く済むというのが、一眼レフ動画を使うときの最大のメリット、理由である。
しかし、大きな弱点もある。それは、長時間撮影ができないという点だ。MPEG-4という規格で撮影するときは最大30分、あるいは4GBという壁があり、そこで一度区切らなければいけない。
実は、30分以上動画が撮れるデジタルカメラは、ヨーロッパではムービーカメラと見なして税金をかけるというEUのルールがある。そのために、本当はもっと長く撮影できるが、大概のメーカーは30分でいったんシャッターが切れるようになっている。これは、弱みといえば弱みである。
また、ズーミングやピント合わせが静止画用にデザインされている点も弱点の1つだ。動画の場合、絶対的に滑らかなズーミングやピント移動が要求されるが、デジタルカメラでは難しい。
その他にも、デジタルカメラは元々、200万画素以上でデザインされているが、動画は、フルハイビジョンであっても必要なのは200万画素程度なので、大きく撮ったものをカメラ内部で縮小して動画に繋ぐという、無駄なことをやっている。そのため、特に斜めまっすぐな線だと、カタカタとジャギーが発生してしまう。
あとは、動画を撮影する際に、カメラで撮った画像をスキャンする速度よりも早い速度で被写体が動いていると、画像がゆがんで見える「ローリングシャッター現象」などがある。これらも、デジタルカメラの弱点だろう。
「ビットレート」「フレームレート」「フレームサイズ」の3つだと考えている。特に「ビットレート」(情報量を規定する単位)と「フレームサイズ」(解像度)について押さえていただきたい。これを理解しないと、動画は先に進めない。
初期のニコンD7000くらいまではビットレートが非常に低く、編集するとすぐに画像が破たんしていた。しかし、キヤノンは当時から30~40、大きいものは50Mbps程度のデジタルカメラを作っていたため、腰の強い動画が撮影できた。その後、キヤノンが動画撮影をする際のデジタルカメラとして選ばれた最大の理由は、この辺りではないかと考えている。動画製作には必ず編集作業がついてくるため、編集に対して耐性を持っているかどうかとは、実は大きな問題点だ。
2,3年前から皆もその点を理解してきて、高いビットレートで動画を記録するようになってきた。最近のカメラはビットレートが比較的高くなっているが、その中でも特にずば抜けて高いのが、パナソニックのGH3である。
一見するとコンシューマカメラに見えるが、ボディは約10万円、レンズがそれぞれ10万円弱なので、全部合わせると40万円くらいかかる。もし、今後動画も撮影できるカメラ、ロケで使えるカメラを購入したいと考えているなら、ぜひGH3を覚えて帰ってもらいたい。
デジタルカメラをロケなどでも使っているが、手持ち撮影は得意ではない。また、移動しながら振動を抑えて撮影するステディカムというのがあるが、あれにも技術が必要なため、極力使わない。
そのほかにも、クレーンやレールを敷いてレールの上を移動して移動撮影をする、綺麗にパンニングする、ズーミングやピントのフォローなど、色々な手法があるが、これらは一切行わない。きちんとやるためには、それらが出来るカメラを用意しなければならないからだ。
それで、私は打ち合わせ時に、そういうことはなるべくしないと断りを入れる。これまでお見せした動画を見ても分かるように、カメラは定点で撮影しており、ズームもパンもせず、都度、都度でシーンを切り替えている。「もし、そういったことまでやろうとすれば金がかかる」と脅かして、「できる範囲でいいのなら、私1人でやって、今手持ちの機材でできるだけでやるなら、これができる」と言うと、大体クライアントは納得するのだ。
多分、今後はそれらも覚えていく必要があると思うが、今デジタルサイネージを撮ろうと縦位置にカメラを切り替え、いわゆる昔の大きいムービーカメラなどをすぐ横位置にできるかというと、不可能だ。逆に言うと、軽くてシンプルなカメラのほうが、この動きはしやすいのだ。
動画に取り組むとなると、皆さん大概三脚にこだわる。動画用三脚の購入を考えると思うが、やめたほうがいい。
動画の人たちは、三脚の脚の長さを変更することはほとんどない。三脚を広げてただ置く。カメラの高さを下げるなら、デビーという小さい三脚を持ってきて置いている。ここで水平を取ることも一切せず、とにかくガンと置いて、撮影する。移動するときは肩に担ぎ、高いところに行くときはイントレを組み、イントレの上にカメラを上げて撮影する。
ところが、我々カメラマンは、実際に撮りたい高さより少し下にセットする。その後、センターポールを使って高さを微調整し、ポートレートならポートレートにベストの位置にカメラを設置して撮影する。
繰り返すが、動画の人たちはカメラをガンと置き、水平を取るための機械を付けるので、高は上下しない。そこで、私は水平を取ってロックでき、これまで使用していた三脚の上に付けられる雲台を購入した。欲しい高さ、ベストの高さを持ち込めるほうが、はるかに価値がある。
ビデオの世界で最高峰の三脚メーカーに「ザハトラー」というものがあるが、当初は私もそれを購入しなければと中野のフジヤカメラに行くと、「ザハトラーね、150万です」と言われて驚いた。「中古はありますか」、「中古なら80万です」というので、やはり買えないと思った。
せっかくなので、カメラを設置させてもらったが、ザハトラーは雲台自体が非常に大きくて、持ち込んだ小さいカメラを乗せると全く動かず、固くて回らなかった。
それからあちこち探しまわったが、雲台が小さくて動きのいいものが、実はあまりないのだ。
その翌月頃、マンフロット「701HDV」を見つけたが、すごく楽である。マンフロット商品の小さい中では、一番いい。これはきちんとオイルフロイドが効いていて、しかもパンなどが一番滑らかである。
我々は今までストロボという素晴らしい光源を使ってきた。個人的には、ストロボのおかげでいい写真が撮れたのではないか、とさえ思っているが、動画ではストロボは使えない。定常光が必要なのだ。
これまではタングステンランプを使っていたが、動画はタングステンでは難しいため、ハロゲンランプを使い、静止画を撮影する時と同様、レフ板を1個置いて、動画も撮影している。そのため、もともとストロボ用のヘッドだったものを改造して発光部を外し、中にライトだけ仕込み、ファンを外したものを使っている。また、最近では、これまで言われてきた様々な問題点を克服したLEDランプを使い始めている。
音に関してはおそらく、我々は一から学ばないといけない。それは、これまで音を商売として扱うことはなかったからだ。少なくとも現場で録音しなければならないことも多いため、マイクの使い方については学ぶ必要があるだろう。
私が使用しているマイクは優秀だが、これは指向性の強いマイク2本、周辺の音を拾うためのマイクも左右に付いている。つまり、現場で取材する際、相手が「で、あそこにある商品が」と言って振り返った時、指向性の強いマイクを使用していると、説明が続いていても音が入らなくなるが、このマイクだと、しっかり音を拾ってくれる。だがその代り、周辺のノイズも拾ってしまう。
つまり、マイクもレンズと同様に、使い方なのだ。どんな良いマイクを使っても、きちんと目的に合っていなければいけない。話す人に1人ずつピンマイクを付けるというのが、多分正解なのだろう。そして環境音は環境音で別に拾う。
私は最近、カメラを3台置き、1台は集音マイク、1台はICレコーダーとして使っている。この前オーケストラをこのカメラで撮ったら、びっくりするくらい音が良かった。私の場合、ほとんど音はこれを使っている。
この音をビデオ画像と同期させるのが、今までは非常に大変だった。しかし、音声同期にFinal Cut Pro Xを使うようになってから、作業が楽になった。それは、Final Cut Pro Xが音声波形を見ながら、音声波形だけを中心にして画像をはぎ合わせるという能力を持っているためだ。
この機能があるので、環境音を録っているカメラ、望遠系のマイクを使ってターゲットの音だけ拾っているカメラ、そして近いところにさっきの録音機を1個置いておく。それを全てFinal Cut Pro で、同一時間軸上に配置して、あとは編集だけすればいいという、とても便利なことができるようになった。
いずれ、Premiereもバージョンアップして同一機能を付けてくるのではないかと思うが、現時点では、使いやすさという意味ではFinal Cut Pro が一番だと思う。
PremiereもEDIUSも素晴らしい映像編集のソフトだが、あれはプロが使うものである。これから、一から覚えるのなら、私はFinal Cut Proをお勧めする。
2013年5月14日TG研究会「動画コンテンツの活用とビジネス」より(文責編集)