本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
インプレスの発表によると電子書籍の市場は729億円である。2011年度はガラケーからスマートフォンへの移行がうまくいっていなくて金額が落ちたが、2012年度、2013年3月までのデータは15.9%伸びている。
一方、紙の出版市場は、書籍と雑誌を合わせると2兆円くらいあったのが徐々に下がっているとはいえ、まだ大きな数字になっている。周辺の広告費も5兆円くらいあり、広告に関しては2012年で3.2%伸びたという状況もある。
紙の出版市場の動きは、1996年、1997年を境にして右肩下がりになっていることは皆さんご存じのとおりである。この落ち込みをいかに食い止めるか、電子で補えるかということもテーマになっている。
紙の出版を考えるとき、必ず書店の数というものも議論になる。アルメディアの調査によると、2012年にはちょうど365店減った。「1日平均1店減ったのか」とフェイスブックでつぶやいたら、「違う」と文化通信の星野編集長から突っ込みが入った。
出店した数と閉店になった数の差し引きの図がある。それが365店ということなので、実は500近くの書店がなくなっている。大手の書店チェーンを含めて、結構出店もしているので、差し引きで減ったのが365ということで、実際は1日1店以上書店がなくなっている。
私の住んでいるところも書店がどんどんなくなっている。これもやはり出版業界を考えていく上で1つの指標になるのではないか。
これは電子出版の市場、電子書籍市場である。紙の出版の4%とか書籍市場の9.1%というような言い方をされていて、まだ1割にも満たないような市場だが、一応右肩上がりと言われている。また、2017年には2,390億円の市場になるというふうに、インプレスR&D、インプレスビジネスメディアを含めてそのように予測されている。
アメリカはどうなのかというと、米国出版社協会(AAP)と、BISGという団体が共同で出した数字では、2012年には既に30億4200万ドル(約2,950億円)あり、デジタルの比率は20%と出ている。
アメリカは再販売価格維持制度(再販制)がないので卸の金額である。日本の場合は、小売ベースでカウントしているので、これよりもさらに倍近く大きな数字なのではないか。そういうふうに見たほうが正しいのではないかと言われている。
特にアマゾンはKindleがあってデジタルも紙も両方売っているが、今95%くらいはデジタルとアナログが同時に出ているという。残り5%はもともとデジタルにしないものだ。プロモーションが非常に生きてくるため、デジタルとアナログを同時にやっていくというのがアメリカでの主流になっている。
日本の電子出版市場を考える上でエポックとなったのは、2012年10月25日に上陸したKindleだ。「Kindle Fire HD」というタブレットと、「Kindle Paperwhite」という電子書籍専用端末の2つが入ってきて、市場を牽引しているという状況がある。
電子書籍端末は大きく分けて、eペーパーのモノクロである電子書籍専用端末と、iPadやKindle Fire HDのような多機能端末に分かれる。
スマートフォン、タブレット、スマートテレビ、パソコンの4画面を指して「4スクリーン」という言い方をする。私は電子書籍のことをやっているので、この中で電子書籍専用端末というのはどういう位置づけなのかということを考えるようになった。
これは私が勝手に感じていることだが、4スクリーンはオンラインでいろいろなコンテンツを配信される「コンテンツとのマッチングプラットフォーム」、コンテンツとの出会いの場ではないか。そして、「じっくりオフラインで読む」のが電子書籍端末ではないかというふうに、私自身、使ってみて思った。
特に電子ペーパーの電子書籍端末は、もちろんオンラインで使うこともできるが、オフラインで、目も疲れずにじっくり自分の世界に入り込んで読むことができる。基本はオフランだろうということである。
スマホやタブレットで読んで、リアルタイムにソーシャルリーディングをやったりするのはオンラインで読む読書習慣だと思うが、小説を読む場合など、オフラインでじっくり自分でその作品の世界に入りたいとなると電子書籍端末が適している。
また、4スクリーンとなってくると、どう考えてもデバイスが融合してくるので、放送とか通信とか出版が融合するのは当然のことになってくる。クロスメディアというと「紙とデジタルのクロスメディア」という言い方をされた。
私もそういうイメージを持っていた。デジタルとアナログのクロスメディアという言い方をしたが、しかし、最近私が感じるのは、放送とか通信とか出版とか、そういうメディアがクロスしているのではないか。特に4スクリーンが融合してくると、クロスメディアという考え方も変わってくると思っている。
『メインストリーム』(フレデリックマルテル著、岩波書店)という本がある。この中にいろいろな新しいキーワードが出てきている。「ヴァージョニング」、メディアを越えてくる「グローバルメディア」、「メディア・フュージョン」などという言葉も出てきて、世界中で使われ出している。
こういった用語を押さえながら、どのようにメディアがクロスしていくのか、融合していくのかということもウォッチしながら、我々で言うと出版の、将来的にポジショニングを決めていかなければいけないと思っている。私は「出版コンテンツを核としたビジネス・サービスを志向」という考え方をしている
このヒントになったのは角川グループの角川会長である。出版に限らず映像等、いろいろビジネスをされているが、「コンテンツを取りまとめていくような核には、やはり出版のコンテンツがなる」というようなことを、フレーズとして新書で語っていた。それを読んだときに、私はこのようなイメージを持った。
出版が中心にあるとしたら、その周りにもちろん広告があり、出版コンテンツを核に物販、旅行、映像、飲食、イベントなどにつなげていけるのではないか。特に4スクリーンがどんどん生活の中に浸透していくと、こういったビジネスもできるのではないかと思っている。
出版コンテンツを紙と同じような束で考えるのではなく、もっとマイクロコンテンツ化して考えたりすると、さらにこういったことができるのではないか。もしかしたら雑誌の1文がイベントに誘導させる力になるかもしれないし、そういったものが旅行を誘発させる、旅行に行きたいと思わせたり、そういったビジネスの展開というのも業界横断的にやっていくべきではないかと思っているし、再編集したりリミックスしたりすることも今後いろいろ出てくるのではないか。
そんなに今ほど買えるコンテンツがなかったということもあるが、Kindleが日本で発売された途端、沢木耕太郎の『深夜特急』という30年以上も前の本が売れ筋上位になったことがある。それと、一見関係ないようだが、2012年の音楽ソフト市場が拡大した。原因は山下達郎とユーミンのベストアルバムが出たということだけのようだ。それで14年ぶりに売上が上がったということである。
これと、沢木耕太郎の『深夜特急』が売れたということを合わせると、日本の人口構成の7割弱はもう35歳以上なので、過去のコンテンツとかノスタルジーのようなビジネスも、紙以上に電子ではやりやすいということを非常に感じている。
さらに2013年の夏、松江市の教育委員会で閲覧制限された『はだしのゲン』の電子書籍が、前年の20倍売れた。『はだしのゲン』は、電子書店のeBookJapan では終戦記念日の前後になると非常に売れるという。ところが今年は閲覧制限があったタイミングが絶妙で、例年よりも非常に売れた。
電子書籍に限らず紙の書籍でも、あれだけ新聞に頻繁に取り上げられたので、売れ行きが3倍になった。20倍というのはeBookJapanでの数字だが、電子で一度に売れたということもある。
こういった過去のコンテンツに本屋に行かなくてもアクセスして購入できるというのも電子書籍の大きなポイントである。こういうところを押さえるのも大事だと思っている。
私は電子出版制作・流通協議会(以下、電流協)というところにいるので、そちらで何をやっているかという話をしたい。大日本印刷と凸版印刷、そして電通が発起人である。
具体的な活動内容は、電子出版制作に関連する情報共有のほか、規格・仕様に関して協議している。
流通の部分でも、例えば、以前凸版印刷系だったビットウェイと大日本印刷系のモバイルブック・ジェーピーでは、同じコンテンツを扱うのに全く違うIDを振っていた。メタデータ、書誌情報の付け方もばらばらだった。それを統一しようということで電流協の流通委員会では流通規格の協議にも取り組んでいる。
このように、協調領域をしっかり整備して、水平分業型の日本型ビジネスモデルを確立させようということを狙って、日々、活動している。
技術委員会と流通委員会が中心になっていて、制作規格部会、別名EPUB研究会が1つの柱になっている。また電子書籍の制作マニュアルをの制作も予定しており、2013年度内に市販のマニュアルを作ろうと活動中である。
オンデマンド制作流通研究部会というのもある。PODというとプリントオンデマンドをイメージするが、最近特にアメリカではパブリッシュオンデマンドをPODと言っている。紙に出力するからPではなくてパブリッシュのPだというような言い方もされている。そういった意味で、電子書籍という文脈の中でオンデマンドというのをどういうふうに捉えたらいいのか。
もちろんプリンターメーカーの会員もいるので、三省堂の神保町本店にあるエスプレッソブックマシンのようなことも取り上げていくが、オンデマンドというキーワードでどういったビジネスモデルが考えられるかということも取り組んでいる。
また、デジタル絵本というのも1つ切り出して、部会としてできると思って取り組んでいる。これも非常に各社の取り組みが盛んになっていて、電子書籍的な形で絵本を見せていくというのもあるが、アップルに代表されるようなアプリケーションで絵本を表現していくとか、また絵本というのはわりとワードが少ないこともあって翻訳が海外に出ていけるということもある。電子書籍市場をグローバルに展開するという意味でもキーになるジャンルだと思って立ち上げている。
ビジネスモデル研究部会は特にアメリカのアマゾンやアップルを中心にしたビジネスモデルの最先端を研究する部会である。公共ビジネス部会というのは、主に今電子図書館を中心にやっているが、デジタル教科書等もここで入れていこうと思っている。
それから新世代コンテンツメディア研究会というのは、これもかなり電流協の会員の枠組みを越えて展開しているが、特に学者とか役人とか一般企業の方も含めて、とにかく新しいコンテンツ、メディアについて語ろうというような研究会になっている。
流通規格部会はメタデータを研究する部会で、書誌情報、メタデータに関して60項目を作り実証実験をしている。これで過不足なくいくのか、足りないとか、こういう課題が出るぞという検証をしている最中である(講演時)。
60項目では少なすぎる、流通の面ではもっと必要だ、といったいろいろな意見も収集している。このようなメタデータが揃うことによって、コンテンツの二次利用や新たなビジネスの展開にもつながっていく。メタデータというのはただ流通に使うというよりも新たなコンテンツを見つけ出すフックにもなるため非常に重要だと認識している。
さらに特別委員会では電子書籍にとって非常に必要性の高いアクセシビリティもテーマとして扱っている。アクセシビリティについては、紙だけに印刷されていると、例えば外出できないと本を買いに行けないし、テキストをデジタル化することによって、それを音声データに変えられるというのが非常に大きなポイントである。目の不自由な方は当然だが、例えば運転している最中にも本を耳で読めるというような、そういったライフスタイルを新たに提案することもできる。
いろいろなアクセシビリティ、それは社会的な福祉という面でももちろん重要だが、それ以上に市場を大きくするという意味でも非常にキーワードとして面白いのではないかと思っている。
出版コンテンツがデジタル化されることによって、文字を拡大することができるし、読み上げということもよく言うが、そういったいろいろなコンテンツの表示の仕方が開かれていくというのも大きなテーマになっていて、これは2010年からずっと取り組んでいるが、継続的なテーマとして現在も取り組んでいる。
電流協では「読書困難者」という概念を作って、デジタル技術によって社会的意義+市場創出できるのではないかと思っている。
例えば目の見えない方は読書困難者であるという言い方をされるし、目が見える健常者と言われている人間も、満員電車の中で開きたくても本が開けないというのは一時的に読書困難者である。音声で読み上げることができたら、耳にヘッドフォンを入れるだけでぱっと出版コンテンツにアクセスすることができるということになれば、これは1つのアクセシビリティになると考えている。
「目が疲れてきたから途中から耳で聞く」というのも、本当の意味でのクロスメディアだと思う。文字が小さくて読みにくければピンチイン機能で拡大することもできる。操作性についても、モーションで認識するとか音声入力とか、デバイスの進化と共に非常に便利になってきているので、さらに開けていくのではないか。
耳で読む方法はTTS(Text To Speech)とオーディオブックの2種類がある。TTSというのは、技術的に機械が読み上げるような技術である。アップルのiPadやiPhoneにはvoice overという機能が入っている。KindleにはRead to meというのがもともとあったが、今年日本に入ってきたPaperwhiteには残念ながら入っていない。これはいろいろな背景がある。
オーディオブックというのは、声優さんなどが読み上げるようなもので、アメリカではとてつもなく市場がある。特に車社会なので、車を運転しながら「耳で読む」というような習慣がそもそもあるし、アメリカのグラミー賞には「オーディオブック部門」がちゃんとある。そのくらい文化が浸透しているということがある。
日本は昔から「新潮カセットブック」というのがあったが、市場が全然小さい。こういうものも、電子書籍が入って来ることによって、もっともっと大きくしていくことができるのではないか。特に日本は民話とか落語とか、音の文化というのも非常に盛んなので、もっと市場が大きくなるのではないかと思っている。
電子書籍だからこそ、どういうふうに売ったらいいかという事例がたくさん出てくる。特に『フリー』(NHK出版)が出てからいろいろな方法が出てきた。
『親鸞』(五木寛之著)では、上下巻あるうちの上巻だけを期間限定で無料公開したところ、上下巻ともに書店での売上が25%伸びた。もっと若い人に読んでもらいたいと著者の五木氏は思ったらしいが、どんぴしゃりで当たったらしい。電子であれば期間限定で無料にすることも容易にできる。
最近では、マンガ『ブラックジャックによろしく』の全13巻が無料で配信された。13巻無料で読んだら、やはり続きを読みたくなってしまう。『新ブラックジャックによろしく』は1巻170円で配信しているが、これも非常に儲かっているようだ。
またNHK出版から『シェア』という本も出た。これはまさに内容が、「所有」でなく「シェア」することを推奨している。私も紙で買ったが、ダイヤモンド社のリーディングソフトであるDリーダーでソーシャルリーディングというのを生まれて初めて経験した。
「シェアする」というボタンを押すとツイッターに飛んで、そこで自分の感想を言ったりすることができる。全く新しい読書体験を経験できて、自分と同じところに線を引いていたり、微妙に違う感想があったり、自分とは全く違うところに気に入った人がいて、それがリアルタイムで体験できて、非常に面白かった。
ソーシャルリーディングとか、映像コンテンツならソーシャルビューイングとか、ソーシャルリスニングとか、そういったものもいろいろできてくるのだろうと感じた。これもデジタルならではだと思う。
前述の4スクリーン戦略の話もしたが、映像、通信、出版コンテンツもごっちゃにあると、どうやって見つけてもらうのかというのがテーマになってくると思う。私は今のところ、フェイスブックとかツイッターとか、やはりソーシャルメディアがカギになるのではないかと、現状では思っている。
食べログのように、見ず知らずの人が「うまい」と言っても、本当に言ってるのかどうか、やらせ事件もあったし、アマゾンのリコメンドで、「これを買った人はあれも買っている」とか、ああいうのはあまり刺さってこない。そうではなくて、自分と本当の仲のいい友達が勧めているもの、面白いと言っているもの、そのほうが刺さるかなというふうに私自身は思っている。
私の場合、出版コンテンツをフェイスブックで知って買うことが多いが、アメリカではGoodreadsというソーシャルな本の推薦サイトが非常に成長してうまくいっている。本を買う動機づけとして、「Goodreadsで紹介されたから買った」という人が非常に多いということである。
2013年3月には、アマゾンがGoodreadsを買収した。アマゾンは自分の役目がちゃんとわかっているなと思ってびっくりした。アマゾンがgoodreadsを買収して、どういう形でこれから本をレコメンドしてくるのかというのは非常に注目しているし、日本にもそれが浸透してくるのも時間の問題ではないかと思っている。
それから、2年くらい前だと思うが、「紙の本を買った人に電子をおまけに付ける」というビジネスモデルはどうだろうと、よく議論になったが、それもアマゾンは実現してしまった。Kindle matchbookというサービスで、アメリカ限定でのサービス開始だが、驚くのは1995年以降に紙の本を買ったものが対象という点である。価格も2.99ドルまで設定で非常に安い。もしくは無料である。1万冊強が対象で、そこのリストに入っている紙の本を買った人が、無料もしくは安価で電子書籍が買える。これが浸透すると、電子書籍が紙とどういう連携をしていくかということも注目すべきと思っている。
また、「イーシングル」という売り方がある。アメリカでは、アマゾンによる「キンドル・シングル」、アップルによる「クイック・リード」というコーナーがある。バーンズ&ノーブルでは「スナップス(短編集)」という、1ドルか3ドルくらいで短時間で読めるコンテンツが非常に市場を形成している。
Slicebooksという、紙の1冊の本をスライスして、デジタル化してリミックスして出版社向けに販売するというサービスがある。「無限大の作品制作が可能だ」と言っている。
日本でもやってみればいいのにと思っていたら、2012年の11月30日にまず朝日新聞が始めた。「マイクロ電子書籍」という言い方で、新聞のコンテンツを105円~300円で販売している。朝日新聞は新聞の特集記事だけでなく、『週刊朝日』と『アエラ』のコンテンツもやっている。この間、同社の担当者が週刊誌はすごく売れ行きがいいといっていた。コンテンツの二次利用という意味では非常に面白い。
「週刊ダイヤモンド特集BOOKS」では、『週刊ダイヤモンド』の特集記事を100円~300円くらいで販売する。一番最初は「誰が音楽を殺したか」という音楽業界の特集を100円で販売した。それを佐々木俊尚氏や津田大介氏がツイッターでリツイートしたことで1日で万単位売れたと聞く。100円でも万単位で売れたらすごい売上になる。私が言う立場ではないが、紙代、印刷代なしで何百万という売上が上がるのだから、コンテンツの二次利用という意味でも非常に面白い取り組みだと思っている。
新たに短い電子書籍を売ろう、新たにコンテンツを作ろうとしているのが角川グループである。ミニッツブックという言い方をしているが、これも結構なヒット作が出ている。特にモーリー・ロバートソン氏のコンテンツは非常に売れていると聞く。
アマゾンでもある日突然「マイクロコンテンツ特集」が出た。PHP研究所、東洋経済、コンデナスト・ジャパン、インプレスなど、各社載っている。呼び方は、マイクロコンテンツと呼んだりイーシングルと呼んだりしている。
東洋経済とダイヤモンドはライバルだが、「ここに他社が参入することはウエルカムだ」と言っている。「各社が参入してきて、イーシングルという市場ができて競争し合ったほうがいい」と皆さん言っているので、自然とそういう流れになると思っている。
また、電子書籍の1つの流れとしてセルフパブリッシングは無視できない。昔は自費出版と呼び、個人で出版する場合はお金がかかっていた。ところがアマゾンが提供するKindle Direct Publishing(以下KDP)というのを使えば、ほぼ無料で出版活動ができてしまうというのが、非常に大きな流れになっている。
そのトップランナーは藤井太洋氏である。藤井氏ははじめKDPの自己出版から始めて、『ジーン・マッパー』という小説が非常に評価された。今ではもう仕事を100%辞めてプロの作家になっている。こういうような流れも出てきた。さらに彼は、制作方法や流通チャネル設定、ソーシャルネットワークを使ったプロモーション等にものすごいノウハウを持っていて、そういうノウハウを全部自分のブログで公開している。
例えばツイッターで自分の作品をプロモーションするなら、1日3回やっても大丈夫。3時間くらいで情報は流れるので、自分の中ではフェイスブックを1日1回、ツイッターで1日3回とか、そういうノウハウも公開している。
ほか電子だからこそできるものとして、定額読み放題もあると思う。有斐閣と日本ユニシスが取り組んでいる定額制電子書籍選集閲覧サービス「YDC1000」では、有斐閣の古典と言われているコンテンツを、これも1つ1つ古本屋で探すのはすごい手間だが、パッケージになって読み放題というものだ。これもデジタルだからこそできる1つのポイントだと思う。
手塚プロダクションが2年前から取り組んでいる、TEZUKA SPOTというWi-Fiを使ったサービスがある。そこのWi-Fiに入ると、手塚作品全400巻が読み放題である。公共図書館やくら寿司チェーンなど約500ヵ所で導入されている。これもデジタルならではの1つの流れだと思っている。
公共図書館では、まだ1,300館中20館くらいしか電子書籍に対応されてないが、いろいろな動きが出てきている。特に札幌市の中央図書館、秋田県立図書館などで事例がある。香川県のまんのう町では楽天のKoboタッチを100台貸し出すというサービスをしている。
私は佐賀県武雄市の図書館に2年くらい前からよく行っている。ここは電子では非常に先進的で、iPadごと貸すということを初めてやったところである。ここは指定管理者制度を使ってカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)が運営している。スターバックスや本屋が併設している。
特に公共図書館だと、ベストセラーの本が貸出待ちになっていることがあるが、「貸出待ち100人」となっていても、隣で売っているので、飛ぶように売れるらしい。それから、武雄市には書店があと4つある。他の書店は売上は減っているのかと聞いてみたら、スーパーに入っている書店は売上が伸びているということである。「この本は武雄図書館では売っていません」という売り方をしているようで、相乗効果で売上が伸びているということである。
すごいと思うのは、100誌は公共図書館で扱っている本だが、500誌の雑誌は販売している。500誌が売っている書店は東京でもなかなかないと思う。さらにCCCは「この雑誌はバックナンバーが売れる」というノウハウがあるので、『dancyu』『CREA』といった雑誌はバックナンバーを豊富に揃えている。長崎や福岡から、わざわざバックナンバー目当てに来る人もいるそうだ。
今はツタヤがアナログにこだわってやっているが、ノウハウ、売り方という意味ではデジタルと一緒だと思う。いかに人の目に触れて、コンテンツを知ってもらわないと買ってもらえないので、この1部だけ買いたいと言ったら買うこともできるのではないかということで、非常に電子書籍、出版コンテンツを考える上で参考になった。
電子書籍の特性を主体的に体得することによって、ビジネスモデルがいろいろ見えてくる。また「紙とデジタル」のクロスメディアから、「放送・通信・出版」という視点でクロスメディアを考えていかなければいけない。
印刷会社は、フリーミアム、シェア、KDPといった新しいビジネスモデルを貪欲に吸収することによって、得意先のビジネスモデルの先を提案できるのではないか。あとは、指定管理制度なども含めて、公共図書館など、これまであまり印刷会社として取り組んでこなかったところにもアンテナを伸ばすというようなことが必要になってくるのではないかと考えている。
2013年10月8日TG研究会「電子書籍の最新事情とEPUB制作環境の進展」より(文責編集)