本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
株式会社レゾロジック
代表取締役 池野 弘明 氏
店舗単位でチラシやパンフレット、DMなどの印刷物を定期的に発注する企業で、Web to printを採用する動きが増えている。Web to printとは、専用のDTPソフトを使わず、Web上でレイアウトを指定して印刷物を発注する仕組みである。複数の拠点から小ロットの印刷を発注することに適しており、事実上はデジタル印刷ワークフローに不可欠のシステムとなっている。約10年前からWeb to Printを開発し、提供しているレゾロジック代表取締役の池野弘明氏に話を伺った。
レゾロジックは2000年に設立し、2004年頃からWeb to Printのライブラリを開発してきた。大手の複写機販売会社や広告代理店、大手印刷会社等を経由して、主にB to Bの業務を手掛けてきた。エンドユーザーは、ほとんどが上場企業クラスである。近年、アマゾンWebサービス(AWS)などの低価格クラウドサービスが普及してきて、移行が進んでいる。
2003年頃に、全国的規模のスポーツクラブ向けに各店舗のチラシをカスタマイズするサイトを構築したが、いまだに使用されている。チラシを作る知識もスキルもないスポーツクラブの店長が、店舗のチラシをレイアウトして発注するサイトである。新聞に折り込むので、ミスは許されない。
実際の操作は、与えられたパーツ素材から各店舗の事情に合ったものを選択することと店舗固有の情報を入力するだけである。パーツ素材は事前にデザイナーが制作したもので、タイトル部分にはあらかじめ書体やスタイルが設定されており、それらが反映される。店舗のパソコンは、特別なソフトもフォントも入っていない。サーバー側に入れてあるソフトが動作し、フォントが表示される仕組みである。
発注のための申請や決裁のワークフローは、会社によってさまざまなルールがある。これらもWeb上の操作で完結できるようになっている。
Web to Printなので、内部に編集・組版のエンジンを持っている。ただし、エンドユーザーのお客様が必要とするレベルは色々である。例えば、プロのデザイナーが操作する場合は、Illustrator並の機能が必要だが、一般社員が扱うなら余計な操作はできない方が良い。また、編集箇所が20ヵ所あったら、1ヵ所でも忘れないような仕組みが必要である。誰が操作するかに応じて、ノンプログラミングでユーザー・インターフェイスを変更することができる。
印刷通販大手のグラフィック向けに2種類のWebデザインツールを提供している。テンプレートを利用して簡易レイアウトをおこなうものとやや上級者向けのデザインツールがある。また、郵便会社向けのデザインサイトを提供しており、企業ユーザーが大量の年賀状を出す用途などに使われている。
この仕組みは自動組版のプラットフォームとしても利用できる。韓国の有名な化粧品販売会社は、ソウルに800店舗ある。各店舗では、「いつからいつまで何%引き、定価はいくらで今ならいくら、これが写真」という内容の製品POPを掲示して販売する。
以前は、このPOPを印刷会社に発注していた。現在は、各店舗で簡単なCSVデータを作るだけで、あとはこのシステムで自動的にレイアウトできてしまう。テンプレートにしたがって、画像の配置や文字の長さによって改行するなどの微調整も自動で対応している。
また、シアトル系と呼ばれるカフェチェーン店では、新規開店などの際にキャンペーンチラシを配布している。先方から「カフェの店長なのでグラフィック編集はできない。地下鉄の券売機ぐらいの簡単な操作でチラシを作らせたい」という話があった。
ウィザードになっていて、ログインすると「○○店ですね」という確認画面が出てくるので、それをOKする。次にキャンペーン期間を聞いてくるので、カレンダー上で指定する。クーポンは、数種類のクーポンから選択するように促される。シナリオにしたがって、選択画面と確認画面が表示され、OKしないと次に進めない。つまり、店舗名やキャンペーン期間、クーポン内容が正しいかどうか、セルフチェックしてもらう。このようなウィザードを自動生成する仕組みがあり、ノンプログラミングでテンプレートに付加することができる。
DMなどのバリアブル処理は、何10万件となることもある。しかし、イベントの時には何10万件も処理をおこなうが、イベントが終わったら必要なくなる。そういう場合、AWSというクラウド環境が適している。このサービスは1時間単位で契約でき、データがたくさん入ると勝手に契約して、仕事を終わると撤収するという仕組みになっている。したがって膨大なデータがあるとか、気にする必要はない。
ある事例では、みなとみらいで開催する展示会のために6社合同で共通のDMを送付することになった。各社がデザインしたパーツのPDFを持ち寄って、最終レイアウトをおこない、DMを出す。CSVの顧客データを読み込んで、内容に応じて印刷データを自動生成する仕組みである。
男女のフラグを見て、男の子向けや女の子向けのブランドやデザインになる。顧客のランクに応じてクーポン内容が変わり、個人を識別するための2次元バーコードと宛名を入れる。ノンプログラミングで設定でき、開発には時間がかからない。導入が決定してから納品するまで2週間くらいでバリアブルにも対応できる。
2Dの絵柄デザインを3D空間に展開するFlex3Dというライブラリを開発した。指定したデザインを印刷したギフト用の特別パッケージの完成形をシミュレーションして、3Dの状態でプレビューすることができる。裏側なども回転して見ることができる。また、ラッピングシールをバスやトラックに貼り付けた結果をプレビューすることもできる。表面の段差なども反映させることができる。パッケージをやっている会社などで使われている。
Web to Printを通じて製品マニュアルやパンフレット、カタログの制作に関わってきた縁で、販促資材のサプライマネジメントに取り組んだ。
先方の要望は、複数の配送拠点やサプライヤーを一括管理したい。在庫管理機能を充実させ、在庫切れの解消と在庫低減を実現したい。N種類の販促資材をNカ所に配送する際の手配を簡素化したい。レゾロジックのEdition PriBizは、販促資材の発注・在庫・発送を一元管理するシステムである。
例えば、モバイル機器メーカーで導入した事例がある。先方の要求としては、印刷物の在庫を減らしたいというのが第一である。しかし、小ロットで早く持ってこいと言われても限界がある。そのため、どの製品のどの資材が使われていて、どの資材が使われていないのかすぐ分るようにしている。この資材は役に立ったとか、社内評価をコメントすることができる。「この資材を発注した担当者は、この資材も発注している」というアマゾンのレコメンドみたいなメッセージも表示される。
N個のものをN箇所に送りたいというとき、例えば100種類の資材を100ヵ所に送りたいときの操作は、Excelの表に入れるようなものが簡単である。
発送指示の際には、同梱品を指定できるようになっている。
そのほかに大手製薬会社でも採用されている。Web上での受発注ワークフロー管理システムであり、ローコスト、短期間で導入することができる。
2013年10月22日テキスト&グラフィックス研究会「Web to Printの最前線」より(文責編集)