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富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社
技術本部 担当課長 小林 史和 氏
「印刷の乾燥促進を科学する」というタイトルの中で、「版材と湿し水について語れ」と言われているが、実は、これは非常に大変である。正直なところ、8割がた、印刷機で決まるからである。
流れとしては、印刷における課題、それからプレートに何ができるのか。湿し水はどういったところが大事なのか。そして実際に我々のいた研究所、あるいはお客様で実機でテストしていただいた結果について語っていく。
印刷における課題、印刷に求められることは、1にやはり品質である。汚れない、濃度が安定している、調子再現が良好。当然のことだが、汚れるのが怖いので、ついつい水目盛りを上げてしまうということがあると思う。
そこを、汚れるぎりぎりまで水を絞るというところが、乾燥には一番効く。それから、濃度の観点でも、後でデータを出すが、水を上げると濃度がガタ落ちする。水をできるだけ絞ったほうが、濃度が出る。
品質のところで、汚れが怖い。これをどこまで、スタートは汚してそこから戻してやるくらいの意気込みで取り組むというのが、乾燥促進という意味で言うと一番オーソドックスな取り組みだと私は考えている。
品質の次は生産性である。短納期、小ロットということで、昔なら500部といったら印刷しないというようなところも、500部、300部でもCTPで出して刷って採算が何とかというところになっている。生産性で大事なのは、刷りだしの色合わせである。見当合わせ、色合わせで損紙が出てしまえば、小ロット、例えば300部の仕事に、色合わせ、見当合わせで500使ったらばかげている。そういったところをどうやって減らしていくかという地道な部分こそが大事だと思う。
それから、今日の本題である乾燥時間の短縮。これはやはり納期、時間を縮める上で必須である。乾燥時間が早くなって短くなる時間だけではなく、棒積みしていると裏うつりしてしまうから、途中で板どりしていた、そういった作業の手間。あるいは裏うつりが怖いからパウダーをたくさん使うということによる画質の低下、こういったことが、乾燥性が良くなると、板どりも要らなくなるし、パウダー量も絞れて品質が良くなるという方向に変わっていく。
最後、これだけ特異だが、仕事として、絵柄はいろいろなものがある。ベタが多い、重たい絵柄のときもあれば、文字もので軽いとき、あるいは4色のうち1色だけはスポットカラーのようにほとんど絵がないとか、絵柄面積率とか画像の配置によっては非常に刷りにくいことがある。そういったところの調整は現場の対応である。絵柄にどうやって対応するか、これもまた乾燥促進に重要なカギとなる。
そして、品質と生産性の2つのところをきちんと考えると、コストダウンのネタが見つかる。一番減らすかということにおいて、乾燥促進されるという取り組みはそれ自身大きな効果があるし、乾燥だけに目を奪われることなく、色合わせとか濃度とか、そういうところも併せて気にしてもらいたいと思う。
敢えて汚れのサンプルを見てもらう。水を絞りすぎたときに、くわえ側に汚れが出ることがある。それから、お昼休みに印刷機を止めて、ご飯を食べて、刷りだしたら少し絡んでしまい、シャドウが詰まったり、文字の前に輪郭のにじみが出たりすることがあると思う。
こういった印刷汚れの原因は大きく3つある。1つは湿し水。水を単に絞りすぎた。これは、汚れないぎりぎりまで戻してやればいい。それから湿し水の種類。今はどんどんいい湿し水が出てきている。昔はIPAを入れなければ刷れなかったのが、今はほとんどIPAなしで出るようになってきている。そういった良い湿し水が出てきているのだから、そういうものをどんどん試していくというのは、これから述べる乾燥促進にも重要なファクターである。汚れで、よくあるのが、湿し水の濃度が足りない。入れているつもりが、入っていない。これが非常に多い。
2つ目は材料によるもの。プレート、印刷版が汚れっぽかった。今は各メーカーが印刷版を改良してきているので、ここはいいとして、次の2つが厄介である。紙とインキ。特に紙である。再生紙が昔よりも古紙の混入比率が上がっているとか、変なものが混ざっているとか、見た目白く見せるために添加剤を増やしているとかいうことで、汚れやすかったり、そういったことに影響する紙がある。あるいは刷りにくい紙というのもある。インキも同じである。普通の4色のインキは完成度が高いのでいいと思うが、特色インキとか、普段使い慣れていないインキを使うときは、水幅がいくつぐらいだったかという感触も慣れていないために、汚れを出しやすい。例えば金インキとか銀インキのようにメタルを練り込んだインキは汚れが起こりやすい。それに対して、カバーすべきは湿し水をきちんとしてやることと印刷機である。印刷機の調整不良で汚れるというのが一番多い。
今日の本題であるインキの乾燥だが、インキの乾燥性が悪いと裏うつりを起こす。そのため、板どりを入れるとか、パウダーを打つことになる。
それから、刷ったところではOKでも、加工のところで断裁したら、断裁の圧力で貼りつきを起こすこともある。それを防ぐために、棒積み枚数に制約をかけたり、待ち時間を延ばしたり、後加工の待ち時間を延ばしたりということで対応することになるが、これを防ぎたいということである。
裏うつりを防ぐという意味で言うと、パウダーを使えば防げる。インキの膜厚は紙の上で大体1μから1.5μ。400%ベタでやっても、せいぜい5μである。それに対して、皆さんが使うパウダーは20μとか30μである。パウダーの直径はインキの厚さよりもはるかに高いので、パウダーが均一にふかれていれば、裏づきは防げる。要は、かなり絞ることが必要である。
紙の種類で、乾燥性も全然変わる。こんなふうな紙だと、普通紙のように吸い込んでくれないので、全然乾かない。それから、フイルムの上に刷ろうとすると、例えばクリアファイルのようなものに刷ろうとしたら、やはりUVインキの出番になってしまう。毎回、印刷するものが何であるかによって、頑張って早く乾くものと、頑張ってもできないものがある。
インキの種類によっては乾きの悪いものもある。極端に変な絵柄で、ものすごく重いと、やはり乾くのに時間がかかる。油性インキの乾燥は2段階ある。各インキメーカーに確認した。厳密にはもっと細かいそうだが、大雑把に2段階ある。最初に紙の上にインキが付いて、そこから中の溶剤が紙にしみ込む。手で触ってべたつかなくなる。これがセット。これが3分くらいである。そこでひっくり返して刷るくらいはできるが、芯まで乾いているわけではない。その後に乾燥と書いた後ろの行程、これは酸化重合という化学プロセスである。空気中の酸素によってインキ中の樹脂が化学的に結合してかちこちに固まってくれるプロセスで、どうしても1時間以上かかる。
水を絞って、いい条件でやっているところで、1時間とか45分で断裁まで持って行けるお客さんもあるが、2時間で後加工に持っていければ、十分いい条件で刷られていると思う。
ただ、水が多ければ、当然ここに空気が入って固まっていくときにも水が邪魔をして時間が両方とも伸びていく。皆さんが普段刷っていて、ひっくり返して刷るくらいのセット、あるいは棒積みして裏つかないセット時間が3分という時間よりも早く済むか、5分、6分かかるかで大きな差が出る。
アート紙とかコート紙、表面にきれいにコートされる紙は、早く乾く。セット時間が2分とか3分で、乾燥が1時間とか2時間で済む。しかし、マット紙になると、セットが4分くらい、乾燥が3時間くらい。上厚紙になると、セットが6分、7分、乾燥は6時間というふうに、紙の種類によって変わる。したがって、使う紙をきちんと理解することが重要になる。
また、温度には絶対気を付けてもらいたい。冬場に外部倉庫にあったような紙を持ってきて刷ると、紙が冷たいので、これは化学反応なので温度が低ければ遅くなる。溶剤の浸透も酸素との反応も、温度が低ければ遅くなるので、紙の温度が冷たい条件だけは絶対避けてもらいたい。
あとは絵柄で、例えば片側に大きなベタがあって、反対側はちょっと文字があるだけといった、パッケージにあるようなアンバランスな絵柄を刷ると、右と左で水バランスが取りにくくなる。
インキのほうはインキキーで左右をちゃんと調整できるからいいが、水は左右で違うと、例えばここでは絵柄の軽いところのシャドウは抜けているが、ベタの中に入れたシャドウの網はつぶれてしまうというように、ここは水が足りなくて汚れる、あるいは軽いところの抜き文字は抜けるが、ベタの中に入れた抜き文字は抜けないというふうに、回りの影響も受けている。こういったところは印刷版のほうで何とかカバーしてあげたい状態である。
今言ったような印刷の品質の課題は、基本は印刷機の状態である。ローラーの状態とかニップ圧とか、そういうところがしっかりしていれば、いい印刷に絶対つながる。
印刷機のほうで1点だけ言っておくと、やはり印刷機はメンテナンスが大事である。インキローラーに水が付いてしまうような因子は省く。水ローラーにインキ成分が付いてしまうような状態は避ける。インキローラーの上に親水性のものがくっついていたら、必ず取る。グレーズが重要である。それから給水ローラーの上に油膜が張っていたら、それを除去して親水化処理しておく。こういったこと、基本に立ち返って、これが前提になる。
オフセット印刷は、アルミ版の上に感光層が乗っていて、レーザーで露光されて現像されると画像ができる。画像の上にインキが乗って、画像でないところには水がくっついて印刷される。この非画像部に水が張り付いてくれるおかげで、版への汚れを防ぎ、またインキの余分なドットゲインを防いでいる。この砂目がちゃんと水を保持してくれるという、砂目というのが印刷の上で非常に重要なことである。
オフセット印刷でアルミ版が使われている理由は、その寸法精度、取り扱い性とともに、表面の親水化力というところである。ここの表面処理というのが各印刷版のメーカーが頑張っているところである。
20年くらい昔は、普通に刷る分には十分きれいに刷れたが、お昼休みに止めたりすると汚れる。あるいは、3万、4万と刷り込んでいくとだんだん汚れてくる。そういった分析があった。そこで、問題が起きたときの版を回収して解析したところ、インキが付いているということがわかった。谷になっている部分に比べて、山になった部分は、保水量が足りなくてインキが付くのではないかという仮説のもとに、できるだけ砂目をきめ細かくして、滑らかに、引っかからないようにた。新しい技術を入れて、これまでよりも10倍細かくし、長年の悩みであった停止汚れをほぼ改良することに成功した。
技術としては、砂目の波長のいろいろある中に、非常に細かい波を加えることによって、表面で保水力を高めた。私が研究してきてやった砂目は、なめらかにきめ細かくすることによりインキのひっかかりを防止し、水の保持力、再スタートでの汚れを防止することに成功した。改良前と改良後で、刷りだし汚れたものが汚れないようになる、こういう効果になって出ている。富士フイルムはこういう観点で今も砂目の研究を続けている。
保水性がいいということなので、スタートさえ水を与えてやれば、あとは水を絞れる。ただ、スタートのプレダンプニングのところの設定としては、スタート1枚目、2枚目はちょっと汚れっぽいということが起こる。適正な印刷機であれば、砂目が深くて細かいからといって、水目盛りを上げる必要はない。
汚れの中でも、停止汚れが怖いのは、温度がいったん落ちると、水をあげても払えない。くわえ部分の汚れは水をあげれば払えるが、停止汚れは水をあげても払えないので、クリーナーか版を交換する。停止するときは念のためにガムで拭いておくと、こういったトラブルは防げる。
湿し水は、いろいろなメーカーからいろいろな種類が出ている。インキメーカーに言わせると、いいものから悪いものまでいろいろある。例えば、インキの中に水を練ってやって、印刷機で半日5万枚刷るような想定モデル実験をすると、例えばある湿し水はどんどん水が混ざり込んでいく。これは乳化がどんどん進んでしまうということである。別のものは乳化しなくていいが、スタートの濃度調整に苦労する。また、別のものは、最初に刷ったら、わりと維持してくれる。こういう水が、インキメーカーにとっては使いやすく、現場においても濃度が安定する湿し水と言える。
乾燥促進という観点でどのくらい効果があるかを調べるために、実際の印刷機の上で水分量とかインキ量を測る機械を取り付けて測定実験を行った。印刷中に版面あるいはインキローラー面をダイレクトに赤外線センサーで観測することによって、水とインキを測る。
これがその結果である。先ほどの想定的なモデル実験、湿し水とインキを混ぜてぐるぐる練って何%混ざったかというので、すごくたくさん混ざった水と、混ざらずにある程度のところで止まって乳化が安定する水の2種類があった場合に、印刷機の上ではどのくらい差が出るのか。
これを印刷機のインキローラーの上に付いているインキをセンサーで調べて、その中に何%水が入っているかを見たのがこれである。こちらのどんどん水が混ざっていく青いものは上で、ある程度途中で飽和してくれる赤のほうは下である。
これは三菱ダイヤのかなり古い機械で、状態がよくないので、水目盛り40から50で刷るが、50のところで言うと、こちらが10、こちらが7.5。60でいくと11に対して8。2%、インキ中に入っている湿し水の量が少ない。湿し水の水目盛りが一緒でも、湿し水の種類が変わると、インキに入る水の量は2%の違いが出てしまう。
これはどちらも刷るときに大体この辺で刷れたので、水が2%余分に入っているのが乾燥性に対してどうかというと、おそらく悪かったと思う。ただ、この実験では乾燥を測っていない。ここで大事なのは、湿し水が変わるとインキの中に混ざる水の量がこれだけ変わるという事実である。
富士フイルムも、そういうことで湿し水を、乳化を防ぐという観点でラインナップしてきている。それに負けないように、各メーカーも今湿し水をずいぶん改良してきている。今日はUVインキの話ではないが、高感度UVインキの乳化が安定しなくて困るという声が多くて、それに対しても湿し水メーカーがより良いものということで今研究している。
富士フイルムの場合だとS-H1とかS-U1というのは高感度UVインキにも対応するように改良して、乳化を抑えるという観点で作った湿し水がこの2つ。全部そうだが、特にこの2つは取り組んでいる。
最初に濃度が薄くて汚れるという話をしたが、実際にお客さんのところへ行って50ccほど湿し水を取らせてもらい、持ち帰って分析装置にかけて成分解析した結果がこれである。
今、大体半年に3,000件くらい、そういった診断をしている。一番上が狙い2.8で使いたいというところで2.3%なので、ちょっと低いがまあまあである。2件目、2%で使いたいが1.4だった。このとき注目してほしいのは、2で使いたいのに設定値を3.5にしている。機械として低めに入るということが現場はわかっている。それで実際1.4だったので、この後設定を5.2くらいに上げることで2%濃度にして今使っている。機械は劣化していくので、そういったことも気づくことが大事である。
この上2つの例はアルコールを入れていないので、この後述べる方法で自主管理が簡単にできるが、下2つの事例はアルコールを併用している。3つ目の例だと、IPAを5%マックス、湿し水も5%入れていて、濃度としてはきちんと入っているが、いまどきIPA5%入れて、しかもエッチ液も5%入れるというと、特別の仕事がどうもあるようだが、ここまで入れるとやはり過乳化してインキがずるずるになってしまったり、紙の成分が湿し水を経由してインキローラーに付着してグレージング、インキローラーにインキが付かないローラーストリップという現象を起こすので、むやみに湿し水を入れてはだめである。
一番下の事例は、もうトラブルで呼ばれていた。そのときの水を調べたら、狙い値が2%でIPA5%入れているつもりが、エッチ液のほうが1%でIPAは入っていない。IPAの補充系にトラブルがあって、IPAが入っていないのを知らないまま使い続けていた。IPAが入っていれば、上が1でも多分刷れたと思うが、IPAが減ったために、多分上はずっと低かったのだと思う。このように、濃度が低くなったことで刷れなくなった。
こういう例が実際に何十件とある。湿し水をいかに管理していくかというのは、乾燥促進だけではなくて、いい印刷をするためには必須だと思う。
今お勧めしているのは、屈折率計(糖度計)による管理である。アタゴのPALシリーズは2万円くらいとお手頃で、使い方も、平に置いて、銀のお皿に湿し水を垂らして、ここのボタンを押すと測定値が出るということで、非常に簡単な機械である。
最初にエッチ液の濃度を1%、2%、4%と塗って、値がいくつ出るかということで検量線を作っておけば、数字が今日は23と出たら1.3%だとか、30と出たら1.8%だというふうにわかる。
ただ、これは糖度計で、果物などの甘さを測る機械である。あれは水の中に溶けている糖分の量によって屈折率が変わるから使える。湿し水も同じである。水の中に、エッチ液の中に入った溶剤とか高分子の樹脂とか界面活性剤とか、それによって屈折率が変わる。だから、安い糖度計で湿し水の管理ができる。
これのいいところは、どんなに濁ってきても、pHや電導度がずれてきても、そういった溶剤とか樹脂の量だけを純粋に見ることができる。一方で、pHと電導度は別の意味で重要である。pH、電導度を一定に使うことは絶対できない。紙とかインキから、カルシウムやら何やらどんどん湿し水に混ざってくるので、pHも電導度もどんどん上がる。
今、日本国内で使われている湿し水のpHは、4から5の間である。ほとんど4から5の間だが、これが6を超える値になってきたら、大体汚れ出す。6.5を超えたら絶対汚れる。水が腐ったときも同じようにpHが上がって、そういう汚れを起こす。
もう1つは電導度である。最初は水にほとんど樹脂とかそんなものしか入れていないので低い数字だが、紙とかインキから電解質が入って来るので、どんどん数字が上がっていく。単位は電導度計によっていろいろなので数字で言えないが、最初の値に対して2倍の値になったら、かなり汚れてきたなと、3倍になったらもうだめかなというような感じで、電導度とpHを追いかけると湿し水の汚れ具合がわかって要らぬトラブルを防げる。
乾燥促進をしっかりやるためには、湿し水をしっかり管理して、きちんと汚れない状況を作ってやる。水が劣化していたら絶対汚れる。今日の私の話の中で、湿し水の管理というのは一番重要なポイントの1つだと思う。光陽化学も同じことを推薦している。私だけではない。
実際に、水目盛りをどこまでやったら汚れるかという実験を行った。印刷版で差があるかどうか。本当は富士のほうがいいという結果を出したかったが、そんなことはなくて大差ない。印刷機の状態で、ほとんど同じであった。
先ほどがコモリでこれはハイデルだが、コモリの場合10より下くらいの数字で管理されていて、ハイデルの機械は30くらいが中心になる。これも2、3の数字は刷った順番等で変わるので、ほぼ同じだと思っていい。
むしろ印刷機によって目盛りの値が全然違う。しかし、目盛りの値は目盛りの値であって、版面に行っている水の量とかインキの中に入っている水の量は、実は一緒である。コモリだと数字が低いが、それなら水が少ないかというと、そんなことはない。版面に直接水を与えているので、水はたくさんある。
ハイデルでブリッジをかけていたら、インキローラー側に水が回り込んでいるから、その分たくさん水を上げないとバランスが取れないから数字が高いというだけなので、ブリッジのオンオフとか、印刷機の種類によって、水目盛りの値は変わる。
それから、ローラーの劣化とかインキの種類によっても変わるので、そういった機械的な要因のほうが水目盛りということについて言えば圧倒的に大きい。
この写真をよく見てもらいたい。きちんと水を絞って印刷したときが右側、水汚れがちょっと余分なときが左側である。これは刷ったものを抜き出したときに、そのまま顕微鏡写真を撮ったものなので、現場で印刷している方が抜き取ってルーペで見た瞬間というのはこういう世界が目に入るということである。
このとき、ベタ部にミミズがのたくったように白っぽい線がある。これは水が多い。こういうときは網点部を見ると、全部ではないが、ところどころ網点の形が崩れたようなものが残る。こういうふうな網点が崩れたり、ベタ部に素抜けが起きるというのは、水が多いという証明である。水を絞ってやれば素抜けはなくなるし、網点もきれいになる。
これは同じインキ量で刷っているが、右と左を比べると、こちらのほうが薄く見えると思う。インキが付いているところの色は同じなのに、素抜けているので、平均値として薄く見える。そうすると濃度計も同じように濃度が薄いと出す。
我々が砂目にこだわった理由は、絵柄の左右バランス等で部分的に水が余るようなことがある。そういうときに濃度低下とか網点の崩れが起きるのを、砂目のほうでカバーすることで影響を軽減できるのではないかと考えて開発してきている。
これは東洋インキからデータをいただいた。インキの乳化状態を見ると、インキと水が練られて渾然一体となっている状態から、水目盛りが過多になると完全に水余り、表面に水滴が分離してくるような状態になる。この状態で刷ってしまうと全然乾かない。
実際、水目盛りを変えてやると、セット性の試験、触ってべたつきを見るところの実験で、普通の倍くらい遅くなるということがわかっているので、やはり水をきっちり絞らないといけない。
メカニズムはとても簡単である。これはさっき見たベタである。水が多いと素抜けが起きる。素抜けが起きると、見た目薄く見えるし、濃度計も薄く測る。合わせてやろうと思ったら、インキを盛ることになる。当然、インキ膜厚が厚くなるので、乾きが遅くなるし、間に水がたくさん入っているから乾きが遅くなるということで、二重に遅いというのがこの悪循環の構図である。
水をしっかり絞れて、素抜けが出ないように刷っていれば、濃度はきちんと出るので、インキを盛る必要はない。インキ膜厚は適正でいいし、中に入っている水の量も少ないので、左に比べたら2つの要因で乾きが早くなる。実際セット時間にして7分から4分とか、6分から3分くらいの誤差はある。
また、水目盛りとパウダーの関係だが、パウダーをぎりぎり絞ってきているところから、さらに絞っていたら当然裏うつりを起こした。水目盛りを限界まで絞ってもらって、パウダーをこのままで裏うつりしないところを探してやると、本当にぎりぎりのところだが、両立点を見つけることができた。水が多いとパウダーが余計に要るし、水が少なければパウダーはその分減らせるという1つのデータである。
これは裏うつりを400%ベタで見ているので、普通の仕事であればもっとパウダーが少ないところに設定できると思う。パウダーの目盛り自体も印刷機メーカーによって数値の定義が異なっているので、値だけを言うことは意味がない。
あとは、アンバランスな絵柄とか、非常に黒い背景に人がいるようなポスターとか、カタログとか、いくつかのお客様で実際に目に下が、こういうものは乾きも当然悪いし、そもそも刷りにくい。
富士フイルムが一生懸命砂目を研究してきた背景には、こういう絵柄の少ない部分と多い部分できちんと抜き文字や網点が再現するように、画像のアンバランスをある程度版材でカバーするという発想で砂目を研究してきている。
これは砂目の保水性が高い場合と低い場合、砂目立ての精度を変えて、水目盛りを変えたときに、ベタ濃度がどう変わるか。本来、このときは40くらいで刷るのに対して、保水性の高い版材だと、ある程度水目盛りを上げても濃度を維持する。ただ、この先は落ちる。保水性が低い砂目のほうが、先に濃度が落ち始める。
いずれにしても、こんなほうまで水目盛りを上げること自体が問題なので、こちらに持って行きたいが、版材側の技術、砂目の技術としてできることは、濃度低下の落ちを少しもたせるということでは貢献する。
これは、水目盛りを変えたときに濃度がどれくらい動くかということで、XP-Fは比較的少ないようだ。(当然、これより上げ過ぎれば落ちるが。)
ここに青と白の絵があるが、これは群青色の湿し水を調液してマゼンタインキで印刷した刷りものである。水目盛りが低いところでは、普通にマゼンタで刷れている。水目盛りを上げていくと、インキの中に群青色の湿し水が混ざることで赤が青っぽくずれていくという問題があるが、非画像部が水で染まってくる。
適正な水目盛りであれば、版の上に付いたインキだけがブランケットに転写されて紙に転写されるが、過多に水を供給していると、ブランケットの正面が湿ってしまって、水を持っていって紙に転写させてしまうという事実をこれは表わしている。当然のことながら、紙全体が湿るので、紙のび、見当合わせという面で非常に問題を起こす。
これは実際にお客様で、「富士の板はトンボズレが悪い」と指摘されたものである。「他社と比べて富士のものが悪い」というお叱りをいただいて調べたところ、オペレーターによって水目盛りを上げめの人と下げめの人がいて、上げめの人のときにトンボズレが多いという事実がわかった。版の差ではなく富士の版に問題ないことが確認できた。
こういうトンボズレの観点からも、水目盛りを絞る。乾燥促進というのは、時間短縮もそうだが、水をきちんと絞ると、このようにいろいろなところで品質が上がる。
いったんここでまとめると、やはり乾燥促進のためには印刷機のメンテナンスとチェックが必須で、水目盛りを絞った印刷が大事である。版材から何ができるかということで言うと、砂目を一生懸命努力してきた。一方で湿し水は結構効果があって、過乳化を防ぐという観点の湿し水が役立つ。それから、湿し水を定期的に診断することが絶対必要である。
ちなみに、高精細スクリーンの場合は、乾燥促進が有効である。これは印刷物上のインキの量を測定した図だが、赤のインキが厚い、青が薄いということで、並べると、175線、300線、FMと来るにしたがってインキが薄くなっていることがわかる。インキが薄いということは、当然乾きが早いということである。
乾燥促進という観点で高精細印刷を上手に使っているお客様もいるが、当然、その分メンテナンスはシビアになる。ブランケットがちょっとでも傷んだらFMは刷れない。
高精細スクリーンというのは、乾燥促進という観点で、先ほどのような薄紙印刷とか特別な用途においては効果を発揮するものだと思う。そういう意味で、版材に何ができるかというと、高精細に対応しているほうが、こういう方法もできるのではないかと思っている。
補足だが、グレージング。これはインキが弾いている図である。インキローラーの上のインキをぷっぷっと弾いている。これは紙の上に必ずカルシウムとか何か塗工成分がある。これがブランケットから湿し水に混ざってきて、これがインキローラー上にたまって、それが表面に摘出した固まりのことをグレーズと言う。
これが付いてしまうと、カルシウムも無機分なので、ちょっと親水的になって、インキローラーなのにインキが付かない、ローラーハゲの原因になる。したがってこれは定期的に掃除する必要がある。
日々の、毎日の掃除できれいに落ちればいいが、週に1回とか月に1回、専用の洗浄剤を用いて、ちょっとインキが弾いているようなところに塗って除去する。これは富士フイルムの商品だが、大体グレージングを除去する薬剤は、塗ってすぐ落とすのではなく、塗って少し待ってから、富士フイルムの薬品はぐるぐる回して塗ってから10分間待って、それから洗い落とすとさっと落ちるような形のものになっている。こういった形で、インキローラーの上に親水化物を付けないことが必要である。
一方で水回りは、コモリの機械だと、ここのクロムと調量ローラーが非常に汚れやすい。ここの汚れを防ぐことが必須である。ハイデルの機械だと、クロムとここの保水ローラーが、気づかないうちに汚れがたまっていたりする。こういうところの汚れを落としてやることでも、水目盛りが絞れるようになって、乾燥促進へとつながる。
要は、水回りのローラーにインキをべたっと巻いていればだめだが、そうでなくてもインキの色が付いていればわかるからインキを拭けばいい。インキ系の脂分だけが付いていて、見た目、色は付いていないが水上りが悪いというときは、斜めに見て虹色に輝いているような部分があったら、そこに油が付いているので、水の通りが悪くなっていて汚れの原因になる。
そういうことを防ぐためには、水、特にクロムローラーについては表面がつるつるなので、少しでも油が付くと保水力がなくなってしまうので、それを取り除く保水処理剤で処理していただくことが、いい印刷につながると思う。
2013年11月25日TG研究会「オフセット印刷の乾燥促進を科学する」より(文責編集)