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富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社
技術本部 担当課長 小林 史和 氏
日本プリンティングアカデミー 学校長 濱 照彦 氏
質問:
我々の会社は選挙シーズンになると選挙ポスターとしてユポの印刷に携わることが多い。
ユポの乾燥についてだが、同じ機械で同じ条件で仕事をやっているわりには、ものによってすぐ乾いてみたり、何日もたっても乾かないというような事例が去年あたり結構あった。どういう原因があるのか、来年早々テスト刷りをやってみようとして、いろいろ機材屋さんなどに相談してこのようなやり方がいいのではないかというアドバイスはいただいたが、どこをどうしたらいいのか悩んでいるところである。
8月に新潟の吉田印刷に会社見学に行って、乾燥促進技術というのを一通りレクチャーしてもらい、吉田社長からアドバイスをもらって、9月から少しずつやり始めている。たしかに、他の紙ではかなり乾燥が早くなってきたのを実感しているが、まだユポに関してはそのような結果が出ていないので、どのような原因があるのかをお聞きしたい。
小林氏:油性インキということなので、スーパーユポだろう。
質問:そうである。
小林氏:選挙ポスターの紙は一番乾きにくい紙の1つで、スーパーユポは油性で刷れる限界の紙である。インキの種類はどういうものか。
質問:大日本インキのスーパーLETOTを使っている。
小林氏:インキのほうが、通常の紙に刷るインキに比べると乳化しやすい特性があるので、刷り順で、例えば朝一番の仕事はすぐ乾いたが2、3と続けていくと乾きが悪くなるとか、そういった順番の影響や、あるいは絵柄の影響が多分に出やすい。普通の用紙よりも数倍拡大する。
質問:刷る順番としては、ほとんど朝一のパターンが多いが、先ほどお話しを聞いて、用紙の温度で、触ってみて、「今日の紙は冷たいな」ということもあった。考えてみると、そういう紙でやるとあまり乾燥がよくないのかもしれない。
小林氏:本当を言えば、乳化の状態から言えば朝一が一番いいが、紙の温度ということで、冬場に刷るということに関して言うと、紙を置いておいて後にすることで、昼に一度中断した機で整備をかけてやることで、ある程度安定化させられないかと思う。
シーズンになったら、必要であれば訪問して見せていただきたい。現場を見ないとわからないことも多いので。
質問:紙屋さんがすぐ隣なので、すぐ持ってくることができるが、入ってきた紙が条件によってはすごく冷えている紙が来ることもある。
小林氏:一番疑っているのは紙の温度だ。紙の温度が、印刷機の温度に対して、冬場、13℃くらいは部屋の中ではエアコンがかかっていたりするとあり得る。そうすると乾燥が2倍以上必要になる。紙屋さんから直で来るのはいいことだが、紙屋さんの倉庫は温度管理されていないと思う。それをちょっと疑ったほうがいいのではないか。
質問:それならむしろ、朝一に印刷することにこだわらないで、むしろ昼とか午後に印刷したほうが早いということか。
小林氏:朝、紙を入れて、紙の温度が上がるのを待って、昼休みか何かの後に整備してやる。その前の仕事の影響を一度キャンセルするためにインキ洗浄をかけてからやるというと安定化するのではないかと思う。
濱氏:私は実際に今のような形でやった経験がないので、経験値では話さないが、例えば、パッケージ屋さんでも同じなのだろうと思う。コートの仕方によっては浸透性が悪い。そうすると温度と、それからインキである。
紙の状態と、あるいは被印刷体の状態とインキというのは非常に、そこは直接関係がある。取引上、1社しかできないということになると別だが、そうでなければインキメーカーをいろいろ当たったほうがいいかもしれない。
ただ、朝入れて昼まで置いて寒い日にユポの中まであったかくなるか、時間差でそこまで上がるとは思えない。パッケージでは、温度は、今はUVが出てきたからあまりIR乾燥は言わないが、IR乾燥は赤外線で乾いているのではなくて温度である。
今のタイプだと大雑把に言って乾燥は酸化重合のタイプなので、そうすると酸化重合をどうやって促進するか。紙の場合には浸透性があるので、浸透してセットしてその後酸化重合が進んでいくが、ユポの場合には、それでもだいぶ改良されて疑似浸透性みたいなものはあるが、何と言っても酸化重合に依存するので、そこである。
それをより積極的にサポートするために水の量を絞る。さっきのようなテストをやって、水がどこまで絞れているか。その水が絞れる状況というのは、基本的にユポとは関係ない。
話が変わって申し訳ないが、ユポとか網印刷というか、要するにフイルムベースに印刷している会社があって、「うちはドットゲインが多い、どうにかしてくれ」と言われて行った。
機長に聞いたら、「うちはフイルムに刷っているので、印圧、版圧をいつもより50%増している」というので、「それはおかしい。被印刷体があって、版からブランに行くところは関係ないだろう、そこは一定に保つべきだ」と話したことがある。
意外と「こういう紙だから、何か特別じゃないか」という感じがあるかもしれないが、基本はユポとは関係ない。しかし、水が多くなるとはけていかないので、特にシビアになる。その水の決め方と、ユポのタイプとインキの関係として、どれがベターか、そこはちょっと試験したほうがいいのではないか。あとは温度だと思う。
郡司:高精細印刷はインキを盛れない。だから結果的に乾燥がいいという話と同じで、表現が悪いかもしれないが、富士の版材のほうが溝の深い分、水持ちがいい分、乳化しやすいのではないかという気がしないでもない。その辺はどうなのか。
小林氏:よく受ける質問だが、砂目を深くというか、単に深くではなく、きめ細かくしたのは、水持ちを良くするためで、先ほどの青く染まる実験は、実は砂目の種類を何種類か変えてやったが、水目盛りを上げていくと転写するという度合はあまり変わらなかった。そういう意味で、砂目が水をたくさん持ちすぎて余計に水を渡してしまうということはない。
その反面、インキの中に水がどれくらい混ざるかという量を測ったときには、砂目をきめ細かくしていったほうが、インキの中に入る水の量は下がるというデータは取れた。ただ、下がるといっても1%程度である。それを有意差と見るかどうかだが、9%が8%になるというのは、私は有意差かなと思っている。
濱氏:砂目というのは、ただ細かいからどうということではない。平版の刷版で理想的な版材は石版である。なぜ石版がいいかというと、ものすごく細かい、細い管がずっと石の中まである。毛細管である。植物と同じである。その後出てきたコロタイプというのもそうである。そんなにしょっちゅう抜けてはいない。含んでいる。水を含んでいるということと、含んでいるのだから水が余るのではないかという話は別である。
そういう意味で、細かいということは水持ちというか、いわゆる保水性からいくと非常にいいことである。もしアルミの板の上に、植物の毛細管のように細かい管がずっと下まで彫られているとしたら、それが一番理想である。それは現実に無理だろうから、いろいろな砂目で各社工夫があるだろうと思う。
なんとなく水持ちがいいとか、水をたくさんやっても大丈夫だというと、水が余っているのではないかとか、その水が悪さをするのではないかというイメージがあるかもしれないが、そういうことではない。
郡司:もう1つUVの話を聞きたい。私は、UVのように少しお金がかかってもいいから楽なほうがいいと思ってしまうが、UVで水というのはどうしたらいいのか。
小林氏:UV印刷は乾くが、しっかりとやらないと乾かない。油性インキで「水をしっかり絞って刷ってください」という話をしたが、UVインキはインキの特性上、過乳化しやすい。乳化バランスが取りにくいので、水目盛りをちょっと上げるとすぐ過乳化して色が崩れたり濃度が落ちたりする。
光で固めるので、固まりはするが、水が多い目盛りで固めてしまうとどうなるだろうか。最悪、インキの中に水を閉じ込めて固まるということが起こって、断裁のときにインキがはがれるようなトラブルを起こすことがある。
UV印刷だからこそ水を絞らなければいけないというのは、UV印刷も水を絞らないと、きちんと乾かない、乾くけれども濃度が出ないというのが、これまでテストした結果である。
郡司:富士はいろいろなことを科学的にやっているので、昔、グランデックスというニス現像の補給システムがあって、それは水分を分けて全部補給しているという感じなので、プレートの現像のpH管理が-pHだけではないという話だが、そういうものを、成分を分けてもう少し微妙にコントロールできないか、もう少し水を微妙にコントロールできないかと思うが、そういうものを作って売ったりしないのか。
小林氏:湿し水については、いろいろな測定器の測定精度の問題があって、糖度計というのが便利だと言ったが、あれをオンラインで付ける形のものは、今はない。付けっぱなしにするという方法はあるが。
電導度は付けっぱなしで見られるからいいが、変に液を分けてしまうと、2液混ぜて使うというのが昔はあったが面倒くさいので、今1液タイプが主流になっている。そうすると定量補充、一定量を入れるというのが一番確実で、それを確実に一定量入っているかどうかを糖度計で見てもらうというのがかえって簡単ではないかということで、湿し水についてはそういうことにしている。
郡司:現状、測定器は糖度計が一番簡便で正確なのか。
小林氏:そうである。2万円であの精度であれば。非常に多くのお客様に使っていただいている。うちが扱っているわけではないが、お勧めしている。
濱氏:硬水度との関係はどうか。
小林氏:水の問題は、富士フイルムで今回出した本にも少し書いてあるが、やはり硬水、ある度数を超えた場合は、配慮しないといけなくなる。刷れないということはないが、先ほど言ったブレーディング、紙から大体カルシウムが入ってくるが、カルシウムが100ppmを超えるような石灰水のようなところの井戸から取った水だと、それによってブレーディングが加速されて、普通のお客様よりそこだけ一週間でたまってしまう、そんな事例がある。
あとは水で、水道水は塩素殺菌されているからいいが、井戸水を使っていると殺菌されていないので、循環している間に腐ってしまう。腐って出てくる雑菌の腐敗物は印刷汚れの元になる。それから湿し水の精度も食い散らかして濃度も落ちてしまう。そういう意味で、井戸水を使う場合は菌が発生していないかを見ることが夏場は必要である。
もう1点は、海岸等で井戸水を使っていたり、あるいは東日本大震災のときに東北地方の海岸であったが、海水が地下水を逆流して地下水の塩素濃度が高くなった。そういう状態で湿し水を使うと、特徴ある汚れが付きやすくなる。一般の水道水で問題になるところは日本で何ヵ所かあるが、カルシウムと塩素の数値が特別でなければ、水道水であれば大丈夫である。井戸水は確認したほうが無難である。
濱氏:一応、水の硬水度は知っておいたほうがいい。それによって「あちらの会社でいい湿し水だと聞いたからうちも」といって、それがいいかどうかわからない。それは電導度でわかるので調べてもらいたい。
小林氏:水道水に関しては、各地域の役場のホームページ等を調べると公表しているところが多い。
濱氏:ヨーロッパは硬水なので、ちょっとした企業だとイオン交換樹脂で全部中性化して湿し水として使うところが一般的である。日本はわりあい水がいい国だが、一応調べたほうがいい。
郡司:ヨーロッパはかなりやっているのではないか。水をそのまま使うなんていうことはやっていないだろう。
小林氏:ヨーロッパもアメリカもそうである。簡単な処理で。日本でも水道水で、これをこのまま使われると嫌だというエリアが全国で10ヵ所くらいある。そういったエリアのお客様には注意を促している。
郡司:大阪はどうか。
小林氏:大阪は大丈夫である。何々市のどこどこのあれという、水道水の1個の配管、ここだけとか、そういう感じでぽつぽつとある。
郡司:水は関西でいろいろ言うが、関西でも吉野水系のところと、奈良でも南側と北側では全然違う。
小林氏:関東でも栃木県あたりだと、大谷石の採石場がある。あのあたりになってくるとカルシウムの量が多いところがある。どこで水を取っているかによる。川から取っているか、地下水かによって、水道であっても影響が出ることはある。
質問:うちの会社はまだ機長の目視による印刷をしているが、今の話を伺うと、水とか温度が重要だと思った。目視の限界はあるのか。
小林氏:限界はある。最低限、きちんと濃度管理をしていないとできない。
濱氏:数字がすべてではないが、できるところはやったほうがいい。どうしてかというと、標準とか安定化が大事である。皆さんの健康も、ドックに行って「みんないいよ」と言われて絶対安心ではないが、癒しになる。できるものはやって、なおかつ残るところはどうするか勘案しながらやっていかないと、検証もできない。
郡司:私はわりあい色に関しては自信がある。結構、自分の目にも自信があるが、全く信じていない。自信はあるけれども信じていないというか、それほど人間の目はいい加減である。「これとこれが違う」というのはすぐわかる。人よりもはるかにわかるが、絶対値に関しては無理である。それは絶対、測定器を買ったほうがいい。さっきの糖度計というのがそんなに効くのか、一度チェックしてみようと思う。
やはり、湿し水を科学するというのは大きい。湿し水は、どことは言わないが、結構いい加減なものも多い。適当に処方を変えて、当たったらそれを売るとか、そんなものが結構ある。
今回は「乾燥を科学する」ということで2回目だったが、今後も3回、4回と、JAGATは科学するということで、目でなく数値で管理していきたいというベクトルでやっていくので、どんどん参加してもらいたい。みんなで考えていきたいと思っている。
2013年11月25日TG研究会「オフセット印刷の乾燥促進を科学する」より(文責編集)