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一見大きく乖離しているように見えるITの大きなうねりが、印刷業界とどのようにつながっていくか、それを検討していくのが今後のメディアビジネスの眼目である。
ビッグデータ分析ベンチャーのデータセクション株式会社、取締役会長でデジタルハリウッド大学教授の橋本大也氏が、最新のIT業界のトレンドや海外の最前線事例を豊富に紹介。「イノベーション発想とマーケティング思考」と題し、ITを利用したマーケティングなど、メディアビジネスの現在と近い将来について語った。
この中で橋本氏はIT業界で2013年そして2014年起こりつつあることを具体的に話してくれた。
データセクションは、ビッグデータの解析ソリューションを行っている会社であり、1日1億件のネットの書き込みを分析する。Facebook、Twitter、LINEなどユーザーが書き込むことができる情報を自動収集して統計処理や言語処理などを行い、消費者が一体何を考えているのか、特定のクラスター解析を行っている。
消費者の行動パターンや口コミ情報の解析などから発言した人物を推測することもできる。同社では、広告代理店と共同でソーシャルメディア分析を行い、CMでだれを起用するのか、そのベースになる情報提供などもしている。
ソーシャルメディアに限らず、主権が生活者に移っている以上、メディアビジネスの主戦場もパーソナルユース向けになっている。
LINEは、2013年11月25日に全世界の利用者が3億人を超えた。2億人を超えてからわずか127日で1億人が増えている。ほかにも「WeChat」「カカオトーク」といったLINEに似たようなサービス、そして海外のソーシャルメディアの最新情報を紹介した。
1日4億スナップショットが投稿される「Snapchat」では、Facebookからの30億ドルの買収提案を却下した。創業者はまだ23歳であり、そのユニークさが受けて爆発的な広がりをみせている。ユーザーがソーシャルメディアで共有・運用されやすい面白ネタを出版するというコンセプトの「BuzzFeed」。今までのマスメディアではいい記事を書いた結果として、出版されることがあったが、これはもともと狙った記事だけを書く。つまりユーザーが共有したくなるように最初から編集されている。極めてバイラル性が高いコンテンツである。ほかにも最大6秒間の超短編ネタ動画を作成してTwitterへ投稿する「Vine」、だれでも無料でライブ配信できる「TwitCasting(ツイキャス)」などのサービスを紹介した。
2000年頃の情報の流れは、ブログやWeb、メールマガジンなど数百文字から数千文字といった長文テキストメッセージが多かった。2007年くらいには、Twitterの影響で、140字メッセージが主流となってきた。そしていまやメッセージツールは、だんだん言葉がなくなってきている。
ハイコンテクスト(バックグラウンドを共有)でインタラクティブ(双方向の交流)なものに変化している。個人の交友関係の中でしか通用しない特徴的なLINEのスタンプなどリアルタイムな「記号的メッセージ」になってきている。ビジュアライズされた感性的なコミュニケーションが主流になってきているのである。「絵柄からどのような情報を読み取るかは、人それぞれ異なるのに、それが機能しているのが、現在の感性コミュニケーションの形だ。SNS時代の個人にとってのメディアは、ハイコンテクストの感性コミュニケーションが主流になる」ということである。
さらに「The Visual Web」に代表されるように映像中心に移ってきている。グローバルコミュニケーションでは文字なら翻訳が必要になるが、絵柄や映像ならそれだけでコミュニケーションが取れる。そこで映像を使ったコミュニケーションがトレンドになってきている。
デジタル化されることは、収集・蓄積が可能なデータの種類と量が急激に増大することを意味する。つまりビッグデータが得られるのである。そこで、ビッグデータの分析を行う「データサイエンティスト」が注目されている。データサイエンティストとは、統計学の博士号を持ってビジネスも分かるスーパー人材だという人もいれば、マーケティングが分かるハッカーやプログラマーのことだという人もいる。
データサイエンティストは創造的な提案ができる人材であり、21世紀の新産業の中心的な人材として位置づけられるはずだ。「統計とIT」「ビジネスの問題を発見・解決」「創造的な提案」の3つの能力がバランス良く備わった人物が必要とされる。
ネットショッピングでもユーザーのログが取れる時代になってきている。言葉を分析するツールも充実して、テキストマイニングなど言葉のパターンを分析することも可能になった。
レコメンド機能を最適化することで、クリック率で2倍程度差が出る。資料請求などの最終的な目的達成をみるコンバージョン率では5倍程度の差が生まれるとのことである。また検索画面の大きさが広告売り上げを左右する。例えばYahoo!では、検索窓の高さを6ピクセル拡大することによって、検索連動型広告の売上率が年間0.64%アップし、金額に換算すると4億8000万円増加したという。
ツールの進化により複雑な統計処理も簡単にできるようになってきて、統計学だけでなく、ビジネスが分かることが要求されてきている。目的に沿ったストーリーを見出し、展開することのできるデータサイエンティストの重要性が今後はますます高まるだろう。ビッグデータは消費者の個人情報を扱うにもかかわらず、これまでは扱い方が粗雑だったためにいろいろな問題が起きていた。ニーズに見合った感動するサービスを提供することができれば、社会的にも必要とされていく存在になる。
『印刷白書2013』でも紹介したバチカン市国のローマ法王選出時の写真撮影では、2005年にはカメラだったが、2013年ではスマホやタブレットで撮影している。新たなデバイスがユーザーの生活やメディア体験とコンテンツを変え、ビジネスが変わっていく。
デジタルコンテンツ市場を変えていくポストスマートフォンについて、「個人的には、スマホもそろそろ終わりではないかと感じている。その兆候が感じられるサービスにスマートグラス、スマートウォッチ、セカンドスクリーンがある」と語った。GoogleGlassは、透過型のメガネ液晶に情報を表示するもので、目の前にいる人のプロフィールや、店の概要、付近の地図が見えるなど拡張現実も魅力的である。日本の起業家も似たようなサービス「Telepathy」を開発、2014年には販売予定である。また腕時計型のiWatchなど、ウェアラブルコンピューティングの新商品も盛んである。
クレディスイス社は2013年5月に公開したエクイティリサーチというレポートの中で、ウェアラブルデバイスを"the next big thing" と呼び、今後3~5年間で現在の10倍の500億ドル(約5兆円)の市場に成長するという予測を発表している。
2014年のWebイノベーションのキーワードは、"The Visual web""Data scientist""Wearable Computer"である。
デジタル化が進むと業界や産業の垣根を飛び越えて情報が横串にされ一気通貫したものになる。ITトレンドは以上のようなものだが、印刷・出版業界でこれをどう利用していくか、ビジネスチャンスとして捉えることが可能なのか、今後の課題になってくる。IT業界とのアライアンスなども視野に入れていくことで新たなヒントを見つけていきたい。
2013年11月29日(金)TG研究会「デジタルメディアのビジネス展望2014」より
(文責 JAGAT 研究調査部 上野寿)