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テクニカルライター 柴田 進 氏
3Dプリンターを簡単に説明すると、樹脂や石膏、特殊インクなどの材料を薄い板状にして積み上げることで物体を作る機械である。幾つかの方式があるが、材料を積み上げていくという原理的なものは同じといえる。
最近では、3Dプリンターもコンシューマー向け製品が出ており、おもちゃのような感覚を持つ人もいるかもしれないが、一方で、3Dプリンターで家を建てようというプロジェクトもある。このプロジェクトでは工事現場に大型3Dプリンターを設置して、材料を流し込みながら家のフレームを作る。3Dプリンターは物を作る自動機なので、これで家を建築できるとなれば、工期や人件費の削減が期待できる。このように3Dプリンターは新しい分野、これまでできなかったことができる可能性を秘めている。
3Dプリンターは主に以下の方式がある。
熱射出方式
熱射出方式は、樹脂材料を熱で溶かしチューブ状に積み上げる。 最近ニュースなどで取り上げられることが多いプリンターで、安価なプリンターはこの方式が多い。プラスティック系の材料であるABSやPLLなど熱で溶かして積み上げていくものである。
粉末(焼結/固着)方式
粉末方式は石膏などの粉末材料をレーザーなどで焼き固めるや石膏に水を含ませて固着していく方式がある。
光造形方式
光造形方式は、液体状の材料をプールの中に入れて、特定の部分に紫外線を当てて固めることで形を作っていく方式である。
インクジェット方式
インクジェット方式は、吹き付けると硬化するインクを使って、積層することによって形を作る方式である。印刷でもインクジェットプリンターを使用するが、同じ印刷面にインクを何度も重ねていくことで立体化するというような仕組みである。
インクジェット方式は、発展途上であるが、今後はもっとも期待される方式である。その理由としては、2次元プリンターで優れた技術を持っているメーカーが多いので、それらの技術が3次元への展開が期待されること。また、現状の3Dプリンターはほとんどが単色か色の品質レベルが高くないが、インクジェット方式であれば、塗装の必要のないカラーの立体物を作ることが可能になると期待されている。
3Dプリンターのメーカーは、現状では米3D SystemsとStratasys(ストラタシス)が2大メーカーであり、日本ではオープンキューブなどがある。この2大メーカーは中小のメーカーを買収し、3Dプリンターのパテントなどが集中して他メーカーが参入しづらい状況がある。
プロ用3Dプリンターでビジネスを展開しようと考えたときに、ポイントになるのは造型するときに使用できる素材にある。
Stratasysのハイエンド3Dプリンター『Fortus 900mc』では、耐熱性と耐衝撃性だけではなく、生体適合性や耐薬品性のある素材で造型できる。PC-ISOは生体適合性や優れた強度を持っており、例えば骨や歯などを作成し医療に使用ができる。さらに使用できる回数が限られるので、小ロット向けになるだろうが金型の作成も可能な素材もある。
これらの素材を活用することで、賛否はあるだろうが、新たな製造業のビジネス展開が可能になると思われる。
3D Systems社から世界初のプラスティック系素材を使用したフルカラー3Dプリンター『ProJet4500』の発売が発表された。これまでのカラー3Dプリンターは発色がよくないという評価があった。しかし、色品質が上がり、着色した形で造形できるようになると、3Dデータさえあればさまざまなものが作れるようになるので、ビジネスチャンスは広がるものと思われる。
TVで行っているDMM.comの3DプリントのCMは、フルカラーの石膏を材料とした粉末方式である。DMMのサービス事例を紹介すると、石膏フルカラー、アクリル樹脂、ナイロン、シルバー、チタンなどの素材とした造形物で、一般ユーザーから3Dデータを受け取って、3Dプリントを行い、造形物を発注者に送付する。
まさに印刷通販ビジネスと同じようなビジネスモデルである。発注されたデータをチェックして、生産して納品する。そういう意味では印刷業界が培ってきたノウハウを生かせる分野だろう。
そのほかDMM.comは3Dデータのクリエイターが作った3Dデータを預かり、3Dプリントにして一般ユーザーに販売するサービスも展開している。今後、3Dプリントビジネスでは、いかに3Dデータを作れるのかがポイントになる。クリエイターのデータを販売することで、サービスの利用率向上と高品質な3Dデータを作れるクリエイターの確保の狙いがある。
材料提供として陶器メーカーであるノリタケカンパニーリミテドが参入している。3Dプリンター用の石膏材料を提供。低コストと着色可能な材料として期待されている。そのほかにも、3Dプリントとは接点のなかったような分野からも可能性を求めて参入している。そのような状況の中で一般ユーザー向けのサービスも広がっている。例えばCafe Laboでは、カフェにコンシューマー向け3Dプリンターを設置して時間貸しという形で、使用できるようにしている。もともとは段ボール製品の設計を行っている会社である。また、人の全身をスキャンして、そのデータを使って3Dプリンターで小さなフィギアにするサービスもある。
3Dデータを作るには専門知識やスキルを持った3Dクリエイターの存在が必要だった。ところが最近では、簡易に3Dデータを作成することができるソフトウェアが登場している。
例えば写真から3Dデータを製作できるようになった。iOSに対応したコンシューマー向けのAUTODESK 123D Catchでは、複数の写真から3Dモデリングを自動的に生成できる。このように3Dデータ作成の敷居は低くなっている。また、高額の3Dスキャナーを使用して、3Dスキャンサービスをビジネス展開しているところもある。
これらのように3Dデータが比較的手軽に作成できるようになって個人ユーザーのための一品モノを作る事業が成長である。例えば写真から3Dデータを生成する技術により、3Dwave社が『Petfig』というペットのフィギュアを作るサービスを展開している。
3Dプリントの現状の問題点としては、以下のような点が挙げられる。一つはようやくフルカラーが造型できるようになった段階なので、カラーマネジメントが確立できていない。そのため、出来上がったものの色が画面で見た色と合わない。これから3Dプリントのカラマネができる事業者の需要が出てくる。
次に精度にムラがある。特に低価格機では同じものを10個制作した場合に製品にムラが出ることがあるさらに造型に時間が掛かるということがある。しかし、これらの問題は今後のハードウェア技術の改良で改善されるだろう。
もう一つは造型した物体の強度や安全性にムラがある。まだ、材料などが成熟されていないので、材料も安く安全で均一なものを仕入れの段階から検討し、どのようなものを作成していくのかのワークフローを確立していく必要がある。
印刷業界が持っているカラーマネジメントやデータ入稿のワークフロー、大量生産のノウハウが3Dプリントビジネスの主役になる可能性がある。本を生産するように顧客からデータを預かり、それを生産物として納品するワークフローが3Dプリントでも生きてくる。
今後、3Dプリンターの性能・精度が上がり、価格が下がると、ハードを購入するユーザーが増加し、製作した物体が世の中に多く出てくることで、一般的に3Dプリンターの存在が認知される。これにより「物体を作る時には3Dプリンターを使う」というのが一般的になる。そうなると、高品位な3Dプリントが難しいからこそ、いいものを作りたいとなればプロのプリントサービスに価値が見いだされる。
3Dプリントサービスは、モニターで見た色をそのままプリントできる事業者が主役になる。それと歩留まりを上げる生産技術者の存在が必要になる。さらに3Dデータの需要が増大すれば、いかに高品位な3Dデータを作れる、もしくはラボとしてストックできるかがカギになる。それができた事業者が勝利者になると思わる。
2013年12月12日 JAGATトピック技術セミナー 2013より(文責編集)