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芳野マシナリー株式会社
常務取締役 大音 勉 氏
『Polaris(ポラリス)』は印刷・製本業界初のアクチュエーターを採用したブックオンデマンドに対応した製本機で、1冊ずつの製本ニーズに応えるものである。
2011年に開発した一種類1冊の注文に対応する極小ロット製本機(三方断裁機 組込式)、ポラリスの最新機をJGAS2013に展示した。ポラリスはデジタル印刷の製本データをQRコードから読み込み、瞬時に各部を自動的にセットし、厚さ2mm~25mm 、A6~A4サイズまでの1冊ごとに違った本を連続的に製本できる究極のオンデマンド製本機である。
世界で初めての X・Y・Zアクチュエーターによる製本機で、第1号機は既に印刷会社で実稼働している。
アクチュエーターはものを動かす駆動装置と、その動作により制御を行う機械的あるいは油空圧的装置である。
現在、工場の自動化や省力化をサポートするアクチュエーターは、その制御技術を生かして、無人搬送ロボットシステムなど様々な分野で使用されており、中でもX・Y・ZアクチュエーターはICチップなどを所定の位置にセットするために使用されている。
ポラリスでは、このX・Y・Z アクチュエーターを製本機に採用し、芳野マシナリー独自の技術でヤレ本(ミス)を出さないメンテナンスフリーの製本機を実現させた。
また、従来の製本機が回転式で冊子が搬送されるのに対し、X・Y・Zアクチュエーターによって、自動的に必要な装置のみ通過して製本していく。品質面では通常の書店で販売するものと遜色ない高品質の製本を可能にした。
速度は約1時間当たりで最大80 冊(種類)の製本が可能である。現在は印刷されたものを手差しで投入するが、将来的にはデジタル印刷機との連結も考えている。
開発に当たって目指したのは、基本的に従来の製本機をコンパクト化することと、多品種小ロット化への対応である。従来の製本機は、ある程度まとまった数量の生産に対応したものであり、今後増えるであろう10冊だけ、50冊だけ、しかもそれぞれ異なるサイズでの製本というニーズに応えるのは非常に難しい。
このポラリスでは製本知識のない人でも、印刷したものを入れるだけ製本できるということを目指した。
また、小ロット対応なので省力化も必要になる。X・Y・Zアクチュエーターを採用することによって、従来型の製本機にあった各ユニットを無駄なくレイアウトすることで省スペースが可能になった。
印刷されたものを製本機に投入し、筋入れ、サンダ、糊付け、表紙付け、みして、三方断裁機も搭載しており、本が仕上がった状態で出てくる。
(図1参照:製本システム 概略図レイアウト)
製本工程は、印刷されたものを投入口から投入し、図版2(2nd new Polaris)の矢印(→)の流れで自動的に仕上がりまで進む。まず、背中に糊を付けるために背切り、筋入れ、その後に表紙と本文を付けるための横糊、背糊をして、表紙が入り、本文と表紙を同調してプレスし、次に三方断裁機で天地、小口の断裁を行う。
X・Y・Zアクチュエーター仕様の特長として、製本条件次第で加工順序(工程)を自在にコントロールすることができる。基本的な製本の場合は、「背切⇒筋入れ⇒糊付⇒表紙同調⇒成型」となる。厚物対応の場合は、強度を確保するために背の部分を強化できるよう、「背切⇒背切⇒筋入れ⇒糊付⇒表紙同調⇒成型」となる。
また、より高品質な対応を求められる大型の本などの場合は、糊付けを強化して、「背切⇒⇒筋入れ⇒糊付⇒糊付⇒表紙同調⇒成型」と、2回糊付けしている。これは1つのロールで2回糊付けするが、クランプの高さを変えることで糊の盛りなどを調整して強度を増している。これらの3パターンを事前のセットで使い分けることができる。
(図3参照X・Y・Zアクチュエーター仕様の特長)
現状は糊についてはEVA系のホットメルトを使用しているが、今後は注目を集めるPUR製本にも対応していく予定である。
冊子データ転送では、QRコードを活用している。社内ネットワークを通して管理サーバーからデータをデジタル印刷機に送って印刷し、その時に同時に本文と表紙にJDF情報をQRコードで印刷する。
その後、ポラリス側で1冊ずつのQRコードを読み取って、本文と表紙を照合して製本を行うという流れである。データとしては、表紙と本文のマッチングと本の厚み、サイズ、製本方法などである。
QRコードは折丁、表紙のドブ位置に印字している。このQRコードを読んで照合することによって、1冊ずつの本が間違いのないことを確認しながら自動セットを行う。QRコードの照合結果、間違っていた場合には警報がなる。
製本は一冊ずつ入れることによって、1冊ずつの各部分のセットが変わるようになっている。
JGAS2013に発表した新ポラリスは、顧客の要望に応えてコンパクト化した1号機よりも全長を少し伸ばし、横幅は短くすることで各ユニットを直線で配置することが可能となり、製本スピードの向上を図った。
今回の開発コンセプトとしては、バリアブルな仕様の製品マニュアルや商品カタログ、極小ロット出版やフォトアルバムなどの商品を、インターネットで発注して、100人で100様の製本ができる付加価値のある製本システムということである。
小ロット多品種のニーズが増えている中で、今後の製本業を考えるとソフトカバーの並製本では十分な利益を確保しにくくなる。そういう視点で見ると、これからは少なくなってきた上製本に注目すべきではないかと考えている。中でも、背を糸で綴じずにハードカバーに背表紙を貼る簡易上製本を提案したい。
当社ではイタリアのゼッキーニ(Zechini)社と代理店契約を結び、オンデマンドに対応した上製本機を販売する。極小ロットの上製本となると、これまで手作業の部分が大きかったが、この機械を導入することによって製本を手助けし、おおよそ1時間当たり300~350冊程度の生産が可能になる。
このように並製本から上製本へ、PUR本から上製本にして付加価値を付けて行く。 これによって、例えばポラリスで背表紙だけ付けて製本したものに、ハードカバーを付けて上製本にすることで製本単価を上げることができる。
これらの製本システムを導入することでデジタル印刷活用の可能性が広がる。
2013年12月12日トピック技術セミナーより(文責編集)