本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
私はBCCKS(ブックス)のチーフ・クリエイティブ・オフィサーという肩書きで、企画とか本のデザイン等を主にやっている。BCCKSはとても小さいところで、手弁当というか仕出し弁当くらいでやっている。
私はグラフィックデザイナーを本業としており、開発の人間もメインは4人いるが、彼らも別の仕事を持っていて、運営の人間も別に会社を持っている。大きく4ヵ所で集まってやっている株式会社である。
2007年から始めたので、今年で5年目である。2年前に電子書籍というか電子デバイスのiPadとか、最近のkobo等を考えて、大リニューアルを行って現在に至るという、BCCKSというサービスをやっている。
我々のサービスは、公開出版ということをベースに考えている。つまり、個人的なブログを綴じて自分または親戚や何やらに配ってというふうなことももちろんイメージしているが、一般ユーザーによる出版というふうなことに大きなターゲットを置いているというサービスである。
これがBCCKSのトップである。このように、一般ユーザーが作っている本がほとんどだが、ジャンルごとに並んでいる。これはすべて公開されている本である。
主に一般ユーザーの本が多いが、企業とか出版社とか編集プロダクションとか、それから一般とは言えないような著者、出版活動をしているような著者も少し含まれている。
我々も、出版社ではないが、本を作って、または作るサポートをして、こういった仕組みのことを全くわかっていない方たちも含めてサポートして出版活動を行っている。
わかりやすいのは、メルマガが大人気の津田大介さんが書いているブログを、発行している週の翌々日くらいにここで出版している。これは有料の本だが、勝手に見ることができる。ブログ、メルマガのテキストを流し込んで、若干成形する形でもって、ほぼ本の形にして読むことができる。
これをiPadとkoboと、適当な本を開いてみると、プロジェクターでもわかると思うが、文字組みとか本の形態などはかなり出版を意識している。一般ユーザーが作れる本のサービスという形で作っているが、その先には当然、出版社のとか編集プロダクションのとかプロの著者の本も十分に出版できるということを目指してやっている。
一般のユーザー、PCにあまり詳しくないような方でも本が作れるような入り口の広いサービスも目指しているが、現状はどうもまだプロに近いようなユーザー、出版マインドの高い著者が多くて、子育て日記とか猫の写真集といった比率は、広いパイのところの著者の作品は少ない。
これはPC上で、Web上のエディターでこの本を作ることができる。ここで作った本は瞬時にiPhoneとかiPadとかAndroid等で読むことができるようになっている。こだわっているのはマルチデバイスということである。スマートフォンから、iPhoneからiPadから、7インチの電子デバイスとか、PCとか、それから紙の本も我々は1つのデバイスだというふうに判断して、ここに共通のルールで1つの世界観の本が展開するというふうなことを強く意識して開発を進めている。
11月末に、これは噂のkoboだが、EPUB3のブックリーダー、kobo及び同じ時期に出たソニーリーダーもEPUB3に対応しているというか、EPUB3だけに対応している。
EPUB3の取り扱いが多い本屋さんというかリーダーというか、含むサービスだと思うが、EPUB3にBCCKSのデータが吐き出せるようになるので、BCCKSの作った本はPC、紙の本、iPhoneやAndroidなどの電子デバイスおよびEPUB3を取り扱っている電子書店に流通することができるようになる。
つまり、どんどん子育て日記とかペットとか、そういうユーザーからは離れていってしまっているようなところがあるが、いったんそこを作った上で、そちらの人たちに出版レベルのPODとか電子出版等を提供できればいいと考えている。
ちなみに、ERISという表紙があったが、高橋健太郎さんという、この人も一般ではなくてプロ中のプロの音楽評論家でベテランの人だが、その方がBCCKSの仕組みを使ってERISというサイトも立ち上げて、電子書籍の音楽評論誌、サブカル系のところで書いていたような優秀な人とか、さまざまな書き手を集めて十分に雑誌と呼べるようなボリュームとクオリティの出版をされている。興味のある人は、ERISのサイトで会員登録すれば無料で読むことができる。
EPUB版はまだ公開できないが、PC上及び電子デバイス上で読むことができるので、読んでいただきたい。とても質の高いものである。我々が目指していたのは、Web上でこういうハイクオリティのテキストが、それなりのボリュームを持って、簡単にしっかりとした編集がされて、無料でも有料でもいいが一般に公開されていく、そういう新しい出版フローというものを目指していたが、それの1つのすばらしい例だと思って、我々も喜んでいるメディアである。
先々週くらいに公開して、2、3日で3,000人くらいのユーザー登録があったと聞いている。ツイッター上でもいろいろ話題になったり議論が巻き起こっている状態で、とてもおもしろい。1つのBCCKSの使われ方の例だと思っている。
今日はBCCKSの全体的な話はこれくらいにして、POD、印刷物のことについて主に語ってほしいというオーダーだと思うので、PODのことについて話していきたい。
まず、簡単にエディターについて紹介する。これは私の書斎のトップで、私が作った本が並んでいる。その1冊の本が、今日のレクチャー用にまとめてきたものである。私のレクチャーは必ず前日、BCCKSにテキストを流し込んで持ってくる。来る電車の途中で誤植を直したりできて非常に便利である。
これがエディターの画面である。本で言うと、右側が直線的な台割だと思っていただければ大体正しい。このように記事が並んでいる。これは本文を作ってあるので、台割がたくさん埋まっている状態だが、こちら側が台割の、記事の中のパネルである。ここに見出しのパネルとか、画像のパネルとか、改ページとか、本文のパネルとか、そういったものが並んでいる。
これをページ化すると、このように、見出しがあって本文があって、ここは本文の脚注。ここを大きくしたり画像を足したり、エディターで編集していく。いくつかのページのフォーマットが選べて、画像がここに置かれて、画像のサイズを小さくしたりすると、先ほどと状態が変わっていく。自由度がないと言えばないが、一般的な、7割方、8割方の新書、文庫の紙面が再現できるようなフォーマットと画像の置き方を意識している。
表紙のエディターは、柄を読み込むこともできるが、本文と同じように画像を読み込んで、その上にタイトルを打ち込む。著者名を入れたり出版社名を入れたり、これもとても普遍的な本のフォーマットのものがいくつか用意されていて、それを選んで紙面をレイアウトしていただくという形になる。
これはまだ3種類しか公開していないが、画像の貼り方や文字の入り方など、さまざまな組み合わせが可能である。先ほどBCCKSのトップページに並んでいた本は、ほとんどこのレイアウトシステムで作られているものである。
では印刷の話に入りたい。表紙があって、扉が来て、本文が始まっている。普通の本の作りである。改めて言うが、BCCKSは電子書籍を読めて作れて売れるWebサービスである。これもトップのデザインが先ほどと違うが、もうすぐリニューアルする。書店がいくつか並んでいて、その中に本が並んでいるというトップ画面である。
この本を押すと、先ほどのように読むことができる。ここには一般ユーザーが作った本が、勝手に作った本が並んでいたり、BCCKSで一緒に作った本が並んでいたり、どこかの企業の人たちが書店を作って並べたりというふうなサービスのイメージをして、そのリニューアルを11月中に行う。
繰り返しになるが、マルチデバイスというところを徹底的にデザイン設計開発している。1冊作った本がさまざまなデバイスに、ほぼ同じイメージとボリュームをもって展開するというふうなサービスである。
Android、iPadなどのいわゆる電子デバイスと、koboとかソニーリーダーとか、これから出てくるであろう電子書籍リーダー、それから紙の本等、マルチデバイスにおいて展開できる出版サービスである。紙のほうは現在、文庫、新書、10インチ判、A5変型判の4種類が用意されている。
これはBCCKSのフォーマットサンプルというか、開発用、確認用に作ったもので、結果、さまざまなページフォーマットが展開している。ここでできていることが大体のBCCKSでできることということになる。
モノクロ、カラー両方刷れて、出力機が違ってくる。RISAPRESSという、本体はコニカが開発しているオイルトナー式のレーザーライターの大型版を利用している。モノクロ版は線数が120線くらいの、軽オフのような刷り上がりになっていると思う。私はモノクロの仕上がりには満足している。
カラーのほうは同じRISAPRESSのカラー版で刷っている。全く同じものというか、ほぼ似たようなものが、これはカラーで刷られているが、これもRISAPRESSで刷られている。両方ともオイルトナーで、普通のデジタルプリンターだとトナーを4色刷ってから最後オイルで定着するが、それが最初からトナーに含まれている方式のものである。
最近はキヤノンも作っているが、当時はコニカのマシンしかなかった。デジタルプリントの嫌なテカリがかなり抑えられていると思う。完全ではないが、コーティングしないという工程のために抑えられている。
もちろん紙とのテスト、それからこちらが出すRGBのデータをCMYKに変換したときのICCのファイル、墨版を取って戻していくとか、紙とのマッチングが、マシンと紙の組み合わせで40種類くらいのテストを繰り返した結果だが、紙はOKサワークリームという、ちょっと高い本文書籍用紙だが、この組み合わせがとてもテカリを抑えてくれる。まだ少しあるが、印刷の具合によってはかなりオフに近い状態に見えるのではないか。
先ほど配布した、帳合された刷り出しを見てもらいたい。これがこの本文用紙とカラープリンターで出力したものである。オフに比べるとかなり見劣りするが、現状のPODデジタルプリンターと呼ばれている中では、いまだにかなり高いレベルのポテンシャルを持っているのではないかと思っている。
もう1枚はポストカードフォーマットというものである。これはかなり気になる仕上がりになっていると思う。ヒューレット・パッカードのIndigo5500で、液体トナーなので、オイルがどうのこうのとか、定着がどうのこうのとかではない。
液体のトナーというのは、つまりインクということである。インクを粉にしたものがトナーなので、行って帰ってきて液体トナー、つまりインクで刷られているデジタルプリンターであり、かつ印刷方法がかなり独特で、私も完全にその構造を理解していないが、ドラムに網点を蒸着させてそれを瞬時に刷る方式ということである。
4色の見当と裏表の見当がとても合う機械で、これはオフ印刷のある部分をとってかわる新しい技術だと思わざるを得ないような機械である。仕上がりはご覧のとおりで、印刷適性の悪いカードを持ってきたが、こちらはかなり印刷適性の高い写真なので、こちらも見ていただきたい。これは個人のものなので、写真は勘弁してもらいたい。
3種類の判型で、50円のポストカード、キャビネサイズにほぼ近い中判、八つ切りにほぼ近い大判の3種類のポストカードを作ることができる。これはポストカードブックなので、1枚1枚はがせるように、PURの糊の量と圧と、いろいろテストした結果、半年くらいかかったが、ようやくできた。こちらはフォトブックのような形で使っていただくというイメージを持って公開している。
印刷のクオリティに関しては、かなりオフに近い状態のものを使っているので、非常に満足している。ゆくゆくはこの方式にどんどんとってかわっていくだろうと踏んでいるので、今のトナー式のいわゆるテカリは、近い将来払拭される心配であり、カラーのクオリティに関してオフセットと比べてどうのこうのというのは払拭できる問題ではないかと、個人的には思っている。
これは今開発中の豆本で、文庫本の半分のサイズである。これの狙いは定価を安くするということである。どうしても1冊ずつ作るPODなので値段が高くなってしまう。それで、文庫本1冊の値段で2冊作ってみたらどうか。それは十分メディアとしても、金額としても、紙の本として出せば、あまり売られていない希少性のある判型のものなどを考えて、今まさに開発中である。
もちろん小さいので開きとか手の持った感じとか、いろいろ問題はあるが、十分読めるというところがかわいかったりする。本のデザインとして優れているかどうかというよりは、記録して残しておく形としての可能性を感じて、今開発しているところである。
もう1つ、これは1,024ページの文庫本だが、印刷のほうは大阪にある不二印刷とやっている。そちらにある製本機で通る最大の厚さが80mmで、これは68mmなのでもう少し厚くできるが、この「一〇〇〇本」というシリーズを、先ほどBCCKSは出版社ではないと言ったが、出版活動も行って、これを作っている。
東京デザイナーズウイークという毎年やっているイベントがあって、今年は伊藤若冲トリビュート展というテーマらしいが、私も参加していて、『若冲一〇〇〇』というふうに銘打った作品を、この仕組みを使って作っているところである。
1,000ページだから1,000個ではなくて、見開き1点にしているので500くらいになる。これはまだサンプルだが、でき上がったものを私の作品として展示会場に展示する予定である。
そもそもこの「一〇〇〇本」というのは、いろいろな著者に「あなたの1,000ページの本を作ってください」というふうなお願いをしてBCCKSの仕組みで作り、書店で紙の本として販売するという形のプロジェクトで、現状、8人くらいの著者に協力していただいて作っている。
多分年末年始くらいに何冊かずつ書店に配られるようになると思う。書店に配るということを1つの目標にして始めたプロジェクトである。書店に配るためにどうしても1,000ページ必要だったというのが、この企画の始まりである。
つまりプリント代はもうかなり安くなってきている。オフに肉薄してはしないが、1冊ずつ作るというところにコストがかかるということであれば、分厚くして高くすれば利益が出るのではないか。
どのくらいまで分厚くしたらBCCKSの利益がそこそこ出て、書店の6.5掛けとか7掛けになったとしてもBCCKSが赤にならない、印刷所が赤にならない本はできないかと思って開発したら1,000ページだった。それをこれから定期的に出版して書店に撒くというのが、BCCKSの1つのメディア戦略の1つである。
先ほどの『ERIS』も、完全に書店に撒くということで言えば同じことだと思っている。BCCKSで作られた本がkoboとかソニーリーダーといった書籍リーダー、もちろん電子デバイスでもいいが、そこで無料または有料で売ることができる。
今は電子書籍取次のような仕組みもしっかりできてきているので、BCCKSのような小さいところでも、そこと契約することで14社くらいの大手電子書籍ストアと取引することができる。
BCCKS Dという、もう1つの出版フローの形を大きくしようとしている。BCCKSで作った本をEPUB3で大手ストアに配本する。ここにあるのは決定ではないが、ほぼ決定の大手出版社14社並んでいる。
直取引がkoboとソニーのリーダーストア、それからビットウェイという取次を通してアマゾンとか紀伊國屋とか、そういったところでEPUBの本が出版されるようになるという形である。
当然、出版社であれば自社サイトでEPUBデータを売ることができる。自社サイトで売れば利益は100%、BCCKSで売ると70%、取次を通すと45~50%。というふうに、だんだん利益率が10%程度悪くなっていくという、世の中の当たり前の構造になっているが、今はこういうふうになって動いているところにBCCKSも乗っかっていこうと思っている。
この仕組みはいくつかの出版社とかコンテンツホルダー、ブログサービス的なもの、またさまざまな情報を扱っているようなわりと大きなサイトのコンテンツというか、ものを、この仕組みを使って出版していく。
つまり、なかなか紙の本で出版ということを考えていくと、いろいろなことを考えてやっていかないと、または完成度の高い、今までの積み重ねてきたものをしっかりと、例えばこの厚さでしっかり綴じられて耐久性を持たせてという製本のテストにも結構時間がかかる。
それを、印刷会社ならできるだろうが、IT企業の場合にはそういうノウハウはおそらくないと思う。そんな中でこういったものを残していくのが我々の役目でもあると思いつつ、大変だと思ってやっている。
電子書籍はEPUBにすればぱっと14社、すごく簡単にいってしまうが、取次をすればできるが、これはこういったものを作って、実際に本を作って、サンプルを持って書店に回って、おそらく都内の30店舗くらいの書店から配本して配ることが始まる。そういう形が今の商業ベースの紙の本を、我々のような出版流通を持っていないところがやろうとすると、そういったことをしなければならないという、1つのモニュメントのような例だと思っている。
値段の話をすると、書籍、文庫本がモノクロ48ページで500円。新書が580円である。10インチが680円。ページ数が増えていくごとに、大体80円とか70円とか上がっていくというふうなメニュー体系になっている。
ポストカードのほうは、はがきサイズ15枚で880円、中判が990円、大判が1,110円となっている。これも15枚から63枚まで増えていくごとに値段が高くなっていく。1枚ずつの値段は安くなっていき、はがき63枚作ると1枚が26円くらいで作れる。
BCCKSはPODの中ではかなり安いと言われている。BCCKSより安いところもあるが、そこは自分でプリンターを持っていてすごい大量にやっている。印刷会社ではないところが自社でIndigoを買ってオンデマンドのサービスをやっているところの値段設定にはかなわないが、印刷所に発注してやっている中ではBCCKSはかなり安いほうだと思う。本にするという形では底値ではないかと思っている。
我々のPODのプロジェクトで一番しんどい目にあっているのは不二印刷だと思う。不二印刷は、「これは新しい技術だ、我々もここで利益をがっぽり儲ける気はない。でもこれをぜひやりたい」という形で参加してくれているので、ある意味、仕事をしながら協賛してくれているというニュアンスである。
つまり、彼らも手弁当というか、仕出し弁当なみの持ち込みをしてこのプロジェクトに参加してくれているというところでもって、この値段でできているというのが正直なところだと思う。したがって、なるべく迷惑をかけないようなプリミティブな造本設計にしている。
そもそも本にするためのところも、例えばブログから変換するところでプリンターで出すのではなく、BCCKSでそのままPDFの形、本の構造になっているかどうかを意識してエディターもサイトも開発し、造本計画、製造フローなどを不二印刷と話し合いながら進めている。ようやく2年目にして、送料が安くなる輸送方法とかパッケージというのを揃えたり、そういうやりとりを重ねながらやっている。
製造フローをシンプルにするための独特な帳合方法でPDFをプリントし、単ページにした状態をPDFで綴じて作っていく。本文と表紙にはバーコードが入って、そこで間違いないように配慮するが、手作業でやっているので間違える可能性もある。まだそういうことはないと思うが、手でやっている。
いわゆる特殊な製本機ではなく、普通の製本機を通して製本はされている。糊はPURなので、乾いてしまうと無駄になってしまうので、まとめて水曜日に製本して、週末にまとめて送るという、週1のターンでやっている。
受注量に関してはばらつきが非常に多い。まだ浸透しているサービスでもなく、大手ブログサービスと提携しているわけでもないので、ばらつきがあって、今週はたまたまいい数字なので報告すると、800冊くらいのオーダーが入っている。少ないときはかなり少ないこともある。
利用例だが、著者に近い形の方が多い。小説を書いていたり、写真を撮っていたり、イラストを描いていたり、あるいはプロの編集者とか同人誌サークルみたいなことをやっていたり、何らかの出版活動をさまざまな形でやっている方が7~8割だと思う。
その中でもさらに紙の本にする人は、個展をやるのでそこで配りたいというような人が多い。今週多いのは、企業で公募展をやっていて、それの受賞とか、公募展のカタログみたいなものがぽつぽつと入ってきたりしている状態である。
お客様の声で言うと、リピート率はやはり高い。一般書籍と見劣りしないようなつくりの部分もあるというふうに感じていただけたのではないかと思うが、これを一般ユーザーに送ると、やはり驚きの声が返ってくることが多い。中にはカラーの印刷のテカリが気に入らずに「こんなの絵本じゃない」といったお怒りの声もたまにはあるが、そこは致し方ないところである。
用紙は、本当はもっと安くて手に入りやすいものという手があるが、自社のオイルトナーでテカリを抑えているものですら、やはり気になる。もっと印刷再現の高い紙もあるが、一般ユーザーの写真を如実に晒すと写真のだめさがより際立つというようなことがあり、ある意味ごまかすために金をかけているというところもある。
やはり何よりもトナーとの相性が一番良かったのがOKサワークリームであった。文庫本としては斤量もずいぶん厚いものを使っていて、少し硬い印象を受けると思うが、そこは裏写りによる印刷の影響もかなり厳しかったので、必要以上に厚くしているというところがある。
判型は、ほぼ既存の判型ばかりだが、ちなみに10インチの正方形のものはiPadの10インチと同じサイズというところで決めた。それ以外は一般的なサイズである。そこは紙どりの問題で決まっている。今配っているこの用紙に効率よく面付けできる4つの判型という形で決まっている。
ちなみに、豆本は小さすぎて製本機を通らないので、同じ本を2冊くっつけて、こう帳合して、こっちとこっち2回通して、そこからの断裁という形をとっている。工程としては半工程増えるが、これなら文庫と同じ値段で1冊できるというふうにできないかと、とても協力的な印刷会社にさらに厳しい要求を出しているというのが、これの作り方の仕様である。
これはそうやって実際に作られたものである。今のところ、精度、強度など、全く問題ない。まだ1ヵ月半くらいのテストしかしていないので、耐久性はわからないが、おそらく今の感じからすると多分大丈夫ではないかと思う。
ユーザーからは、他の紙の種類を選べないのかという要望が結構多いが、それを変えると束厚が変わってしまい、そうするとジャケットカバーの背幅を同じページ数でも変えなければいけないという開発の負担があるので、今は全く対応していない。
たまたま同じ束厚になるような紙というのはいくつかあるが、320ページが最大のページ数で、320ページでほぼ同じになる紙というのはなかなかない。したがって、他の紙を導入するときは背幅が自動で変わるような技術を開発しないとそのサービスはできないというふうに思っている。
結局、用紙を減らすというのも印刷所にとっては負担が減るということでダブルの効果がある。判型とか、そこからはみ出さないで持っていくと結果プリミティブなものになって、世の中に多くある形のものになるということである。
電子書籍にないものも当然ある。代表的なのが、背、断ち落とし、ノドである。これらに対応しないと、少なくとも出版社とか、ユーザーでも編集マインドの高い方たちには満足していただけない。
これはBCCKSで作った本を紙の本のビューにしてPDFに出したものである。トンボの形が妙なことになっていることがわかりにくい断裁になっている。これは若冲の本のデータである。電子書籍だとこのような状態に見える。この状態では当然、ノド逃げとか断ち落としとか、全くない状態である。これを紙本の文庫判にしてビューすると、トンボ付きのビューになっている。
今、ノド逃げが3mmずつ自動的にとられるという素晴らしい仕組みを開発の人間が開発してくれて、トンボがあってトンボの塗り足しの部分までの画像、これは拡大なので、正確に言えば電子書籍のトリミングと紙の本のトリミングは微妙に変わるが、これは致し方ないところである。電子書籍のほうにそもそも塗り足しを付けるということも考えられるが、それはさすがにおかしいだろうということで、このようになった。
このトンボはトリックが入っている。ここも最初フローでミスが多かったが、右ページの場合は左側がトンボ、3本あるうちの一番左。左ページの場合は3本あるうちの一番右側のトンボをカットして製本すると、自動的にこの部分のノド逃げが作成され、センター位置が開いた状態でほぼセンターに入れるようになり、写真のくわえもないという形になって、自動的に塗り足しの部分ができるという仕組みができている。
印刷のほうはユーザーがレンダリングしたPDFを、そのままいつもの面付けソフトに突っ込めば、あとは何もせずにそういうクオリティの高い製本をしてくれるという仕組みになっている。
最近の若いデザイナーは、ノド逃げのことを知らないで、手でやっているのにノド逃げしないデータのまま入稿して、写真が見えない本みたいなものが多いらしい。そういったこともちゃんと伝えていかなければいけないのではないかと思っている。
画像はRGBのデータでアップされる。JPEGとPINGは貼り付けることができるが、CMYKのデータは貼り付けられない。貼り付けられるが、JPEG、RGBになってしまう。これがBCCKSのほうのICCプロファイルで、JapanCoatedに準拠しており、そこから若干印刷方式のことを加味して、留意して、墨版とシアン版を若干薄く製版するというICCプロファイルを作って一律やっている。
ゆくゆくは何種類か、鮮やかに製版するとか、オリジナルどおりに製版するとか、選べるようにあってもいいのかもしれないが、一般の人がどこまでそれを使えるのかという疑問とともに、この辺の仕様は悩んでいるところである。
質問:ビジネスモデル的に考えて、紙の対応、マルチデバイスに対応するということで、将来的なことはともかく、紙をかなり意識して作られているが、ニーズとしてはどうなのか。
松本氏:紙はもちろん減っていくと読んでいる。出版物、特に商業出版物のほうが減っている率が高いのではないか。何かの本で読むと、商業印刷物というのは、書店に流通するような出版社が出している本は日本の出版物の3分の1くらいしかない。資料性の高い、研究所が作っている本とか、そういうもののほうが多い。そっちのほうは実はまだそんなに減らないのではないかと思っている。
それから少部数というところにおいては、まさにPODの仕組みというのが今でき上がりつつあるところで、より手軽に作れるようになる。その中で、さらにコストをかけずに、PDFにしておけばいいとか、EPUB3にしておけば安心だという判断をされる方はいると思うが、絶対的に安全なのは紙にしておくということであれば、そこは減る率が商業出版物よりは低いと思っている。したがってそこは狙っている。
それから、EPUB3にできるというのは門戸がかなり開いている状態に見える感じになってきている。実際、そういった形の話が進んでいるので、そこは乗り込めるのではないかと感じている。
質問:デザイン性が高い紙面のような気がするが?
松本氏:天然文庫という、自社ブランドというかシリーズをもう3年くらいやっていて、そこでいわゆる著者、ユーザーというよりは知り合いである著者とか、この人おもしろいという人に声をかけて出版活動していくということを行っている。
今後の課題として、例えばワークショップみたいなことは内部で話が出ていたが、先ほど見てもらった『ERIS』のような、勝手にプロが集まって質の高いものを作ってくれる、こんな楽なことはない。
その他にも、電子書籍、電子発の出版物を出版社が考えて、今までの流れで作るのは難しいが、別会社を作るとか、今までの周りのスタッフを使ってということで、何億円の広告費を打っての新創刊というようなことではなく、ぽつりと立ち上げてじわじわとやっていくというのを考えているところが多く、そういうところがBCCKSに話を持ってきているのは事実である。
それらよりも一足早く、高橋源太郎さんはそのモデルをさらっと個人のレベルで、十分時間はかかってもやっているという、すごくいい例だと思っている。そういった例は、もう流通も印刷も紙も要らないで雑誌が作れる。
それを見て、「自分も何か作ろうかな」という反応も結構ある。そういうマインドは一番盛り上がっているところなのではないか。そういうところにうまく乗れればいいと思う。
質問:同人誌などははまりそうな気がするが、既にそういう話はあるのか。
松本氏:ところが、同人誌からは「デザイン性が高くて居心地が悪い」と言われる。「もっと我々はベタなところで、ぐちゃぐちゃしたところでやっているんだ」という感じである。それはそれで正しいと思う。
BCCKSが今提供できているのは、どうしても王道な、仕組み的にもまさにスタンダードな形のものを提供して、これでどうかと。これが、私がデザインしたものの中では一番汎用性が高く、かつ満足度も高いのではないかという1つの答えだが、ここにやはりヤオイ等が入ってくると変だろう。
表紙がコート、A4で大判のカラー印刷で、中はコピーみたいな感じ、あれは1個のメディアの形態だと思うし、手作りでいろいろな形があるというのがそのメディアのあり方だったりする。今我々が提供できているのはこの形で、ずっとこれだけで行くというつもりではないが、今はこれが喜ばれる方に使ってもらえるのがいいのではないかと考えている。
2012年10月22日TG研究会「個人向けブックオンデマンドのビジネス」より(文責編集)