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Webで「モノを売る」「広告を集める」「自社を知ってもらう」といったゴールに到達するためには、いかにユーザーを獲得するかが重要になってくる。
クロスメディア研究会では、「人を集めるWebサイトでは、どんな取り組みをしているのか」という視点で、電子雑誌を手掛けるブランジスタ、メガネに特化したブログメディアを運営するOh My Glasses、CG動画ニュースを配信するネクストメディアアニメーションの3社に話を伺った。
無料で読めるトラベルウェブマガジン『旅色 』の制作・発行をはじめ8誌の電子雑誌を展開するのがブランジスタ(→参考記事)だ。一般的な商業旅行雑誌が10数万人の購読者数なのに対して、同社の電子雑誌は8誌あわせて約200万人の読者を獲得している。有名女優や俳優を起用した品質の高いコンテンツが無料で読める点が大きなアドバンテージである。
デジタル展開のみながら、『旅色』では5~10名のスタッフが半月から1ヶ月かけて制作する。それだけ手間と費用をかけても、それを上回る広告収入を得ているため利益が出る。それを支えるのは、もともと販売促進の会社として蓄積してきた強い営業力だ。全国8か所ある営業所から、大手広告代理店ではリーチしにくいような地域の旅館、飲食店まで足を運ぶ。
さらに営業力を高めるしかけとして、制作した電子雑誌そのものが営業ツールになるのがポイントだと、同社 代表取締役社長の岩本恵了氏は言う。広告主には、自社の広告掲載部分と女優のインタビュー記事・特集記事を加えた再編集版を提供し、自社のWebサイトに専用の電子雑誌として掲載できる。誰もが知っている女優や俳優の写真入りバナーを貼れるのもブランディングになると好評で、年間パッケージの広告継続率は7割近い。サイト訪問者の反応もよく、広告主向けに再編集された電子雑誌では平均滞在時間が2分半、訪問者の約7割が旅館の説明ページをクリックしているという結果も出ている。全国の旅館や飲食店向け集客ツールとして活用されているだけでなく、『旅色』の認知度向上にもつながっており、営業力の高さが結果的に集客に結び付いている。
ブランジスタでは、自社で広告をとってコンテンツを制作、掲載する『旅色』のほか、楽天市場からの制作受託というかたちでコンテンツを制作する男性向けファッション誌『GOODA[グーダ] 』も手掛ける。同時に広告営業も担当し、営業収入の一部を楽天にバックするかたちだ。払い戻す金額が製作費を上回れば、楽天側としては、実質タダで電子雑誌が出せることになるというモデルである。
岩本氏は、現在手掛けている旅行、マネー、ペット、ウエディングといったジャンルのほか、将来的にはリクルートのような、衣食住あらゆるジャンルを網羅するような展開をしたいと考えていると述べた。
Oh My Glasses (オーマイグラスィズ)は、2012年に立ち上げたベンチャーで、メガネのEコマースを運営している。国内のメガネECとしては最大規模、270ブランド、約15,000種類の品揃えを誇る。ネットにもかかわらず、メガネを5本まで無料で試着できるのが最大の特徴だ。
今までメガネは視力矯正器具として、必要な機能を提供するモノとして捉えられていた。近年ファッションとしてメガネをかける時代になり、多様な色・デザインのメガネを安価に購入できるチェーン店も増えたが、Oh My Glassesでは、消費するメガネではなく、こだわりの1本、お客さんにとって運命の1本を見つけてもらうことをミッションとしている。「あなたに、運命の一本を。」がキャッチコピーだ。同社 COOの六人部 生馬氏は、「私たちは、単にメガネを売っているのではなく、価値観や自己表現手段を売っている」と言う。
同社がECサイトとは別に情報発信手段として運営しているのが、メガネスタイルマガジン「OMG Press」である。もともと公式ブログとして運営していたものを、2013年3月にリニューアルして現在のかたちになった。発信する内容は、フレームのトレンドやドラマで俳優が着用しているメガネ、ブランドの情報、Google GlassのようなIT系など、自社情報だけでなく、中立の立場でメガネに関係したさまざまな情報を発信する。現在では、月間15万人が訪問するメディアに成長した。
これまでメガネ業界では、業界関係者向けの雑誌はあったが、消費者をターゲットにした媒体がほとんどなかった。そこで、消費者目線でブランドのストーリーやこだわりなどの情報を伝える媒体がほしいと思ったのが、OMG Pressをはじめたきっかけだという。また、お客さんとの接点を拡げたいという思いもあった。メガネの購買サイクルは平均2.5年程度なので、単にメガネを販売するサイトだと、顧客接点が減ってしまうためだ。
効果は開始して数か月で表れ始めた。定期的にコンテンツを発信して読者を獲得することでSEO対策にもなり、メディアとしての認知度も向上した。現在ではブログ訪問者の約10%がECサイトを訪問、ECサイトの売り上げの10~20%が自社メディア経由となっている。業界内でもメガネメディアとして認知されるようになり、他のメガネメーカーからOMG Pressへ記事を掲載してほしいというオファーも来るようになった。
運営は、基本的に編集長とライターの3~5名体制。自社のことを知ってもらい、ファンになってもらうには、いかに物語を伝えるか、価値観を共有するかが重要で、そのためのブランディングには力を入れていると六人部氏は言う。メディアとしての軸が、ぶれないように、「どういうコンセプトで情報発信するか」「どういうトーンで、どんなコンテンツを、どれくらいの頻度で出すか」を明確にし、誰でもそれに沿った書き方ができるマニュアル化して社内で共有することで、テイストを統一している。
日々のニュースをCGを使った動画で配信する「TomoNews 」は、香港で新聞や雑誌を発行している大手メディアグループ「ネクストメディア」の関連会社、ネクストメディアアニメーション(NMA)が制作・配信している。2013年4月にTomo News日本語版として、正式にスタートした。
制作・配信しているのは、CGによる再現映像と実写映像、写真を組み合わせたアニメーションニュースと呼ばれるものだ。動画や模式図、通常では不可能なカメラワークなど、実写ではできない表現ができるのが特徴である。2014年4月末現在、Youtubeチャンネルで約9万人の登録者がいるほか、公式サイトとアプリで情報を配信。まずYoutubeで人を集め、そこから自社サイトへ誘導する戦略をとっている。
「TomoNews」日本語版の編集長である山川 亜沙美氏によると、日本語版の制作体制は日本人のライター、編集者、デザイナ経験者など7名と、台湾人のプロダクトマネージャー6名。シフト制度を組み、午前8時から翌午前3時まで動いている。大手ポータルサイトで扱われるトップニュースや話題のほか、ヤフーやツイッターの検索上位ワードに基づいて制作する内容を決め、1日10本程度のコンテンツを日々制作している。アニメならではの表現の独自性を活かし、ある程度の誇張表現やマンガ的な表現も取り入れ、視覚的にわかりやすく、時にユーモアや毒も含むような、クチコミで広がりやすいコンテンツを制作している。
同社の最大の強みは、最短90分で120秒のアニメを作るというCG制作のスピードにある(※動画の脚本執筆時間などは含まれない)。日々のニュースとしてCGを用いることができるのは、このスピードがあればこそだ。山川氏は、過去に蓄積された素材データの利用、モーションキャプチャの活用、完全分業化で時間をかけない体制などが迅速にアニメを作る秘訣だと述べている。
人を集める工夫は、コンテンツ内容そのものにある。検索ワードなどを参考に、世間で注目を集めているニュースを扱うことで、再生回数アップにつなげている。また、賛否が分かれるものはコメントを求めるようにし、コメントを通じてユーザーが盛り上がるような仕組みづくりをしている。
山川氏によると、TomoNews自体は儲けるためというよりも、技術力を披露するショーケースという位置づけであり、これによりアニメーション制作会社としてのNMA自体に興味を持ってもらえるようにすることが重要という。今後は、実写ニュースも増やしつつ独自ニュースチャンネルとして運営するなかで、柔軟にビジネスモデルを模索していく方向性だ。
(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)
印刷を軸としたクロスメディアビジネスを進める上で必要となる技術動向や活用事例について収集し、会員へ情報提供をおこなう研究会です。年間を通じて参加いただくことで、クロスメディアビジネスを推進する上で役立つ情報と知識を入手することができます。
次回(5月16日)は、「スマートフォンサイト構築のロジックを理解する」というテーマで開催。データ分析とデザインの両面から、スマートフォンサイト提案、制作をする上で基本となる考え方を学びます。前半では、Google Analyticsでの分析をスマートフォン構築に活かす方法について、後半では、スマートフォンサイトを制作する判断からデザインまでの基礎的な考え方 を解説します。