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数回にわたって組版ルールに関して述べてきたが,「かな漢字変換の誤変換」の問題は組版ルール以前の問題である。つまり誤字・誤植である。最終的な印刷物では,表面的に多くは見られないが,中間過程の校正段階では非常に多く見られる。誤変換入力の原因は変換後に確認をしないか,または漢字識別能力の問題であろう。
活字組版時代には誤字・誤植が起きる要素は少なかった。出版社の編集者が著者の原稿に手を入れていたし,たとえ誤字があっても活版の文選工が正しく活字を拾っていたからだ。言い換えれば誤字・誤植を判断する能力があったということである。
ところが自動モノタイプや電算写植になってから,文字入力は漢字キーボードを使って入力するようになった。現代の文字コード化のはしりである。しかし入力オペレータは若年層が多く,原稿に対する読解力が乏しいということもあったが,手書きの著者原稿が難読(悪筆)のため読めず,入力できないという問題が多発した。
今でも同じと思うが,当時の著名作家の原稿は悪筆というか達筆というか,判読できない手書き原稿が多かった。故人になった人も現存している著名な作家もいるが,出版社の編集者でも読めず生原稿をそのまま印刷所に送っていた。
このような原稿は文字入力の能率低下を招くため,その対策として原稿のマス目の脇に鉛筆でリライトして読めるような方法を講じた。そのリライト担当者はインテリのスタッフやベテランの文選工が携わっていた。
当時の文選工は,これらの難読原稿を読解し咀嚼(そしゃく)して文選を行っていたものである。なぜ読めたのかといえば,当時の文選工や植字工達が高学歴ではないが,文学や書道,俳句などに練達しているという,教養とインテリジェンスの持ち主が多かったからで,これが難読原稿の判読に役立っていたと思える。このことは,カラー製版のレタッチャが絵画の素養を身につけていたから,微妙な色調調整ができたのと共通していることである。
今では文字原稿といえば,手書き原稿とデジタル原稿(ワープロ原稿)の2種類が存在している。最近ではワープロ入力の原稿が多くなったので,判読できないとか入力できないという問題は少なくなったが,新たな問題として「かな漢字変換」入力の弊害が発生してきた。
かな漢字変換方式は,コンピュータで漢字処理を行うための画期的な技術であり発明である。初期には単漢字変換レベルで入力能率は低かったが,その後,単語変換,文節変換,連文節変換へと進化してきた。
ところが,このあたりから誤変換率が高くなったともいえる。かな漢字変換ソフトが高度化されたことはよいが,連文節入力の場合とんでもない漢字の単語に変換されることがある。「漢字」が「感じ」や「幹事」,「原稿上の」が「現工場の」,「自分自身」が「時分自身」,「旧態然」が「球体然」などである。変換を繰り返せばよいとはいえ,かえって能率を妨げるし,訂正をするための正しい漢字識別力が必要になる。