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著者原稿ばかりに触れたが、印刷所自身の文字入力でも同じことがいえる。
著者によるワープロ原稿が歓迎されるところであるが、著者が原稿入力に際し組版の知識をもって原稿を書いているわけではない。つまりワープロ入力では、約物処理や禁則処理などが正確に行われていない。組版知識があるはずの印刷所でも、音引きの「ー」に対し「-」を入力したり、漢数字の「〇(ゼロ)」に対し記号の「○」が入力されたり、「(株)」を記号の「㈱」、洋数字の「0」に欧文の「O」を入力したり、また句読点の使い方が統一されていないなど枚挙にいとまがない。このことは誤変換というより、オペレータの組版知識の欠如が起因している。
原稿が手書き時代には、編集者や文選工、植字工などの支援によってカバーされていたが、ワープロデータ入稿の場合には誰が、いつ、どのような方法でチェックしたらよいのであろうか。
原稿作成者は、作家でも一般執筆者でも、常に正しく文章を書くことが原則である。そこに用いられる用字用語や句読点(。、.、)、約物類の( )、「 」、[ ]、などの使い方は、統一されることが組版の約束ごとである。しかし執筆者はこれらの知識がないのが一般的であり、このことを意識して原稿を書いているわけではない。
本来これらをチェックする仕事は編集者の役目であるが、著者がワープロ入力作業を担うならば、彼らにこれらの知識を要求してもよいと思われる。加えて用字用語の統一や正確さを必要とするから、執筆者自身が入力後の文章推敲は行うべきであろう。
活字時代は、活字になったゲラを見てから加筆訂正を行うのが慣習であったが、今ではプリンタ出力物が活字のゲラに相当するわけだから、送稿前に加筆訂正はできるはずである。これが現代のデジタル時代の原稿作成ルールでもあろう。
しかし印刷業界にとっては、日本語組版が満足できるアプリケーションソフトやフォントの問題、加えてカラー品質が印刷に耐えられるレベルになかったことがDTPを敬遠した理由でもあり、DTPは使い物にならないという見方がされていた。
日本語文章は漢字とかな混じり文で表記するのが基本である。漢字とかなの組み合わせ方は、実質的な意味を表す部分には漢字を使い、形式的な要素にはかなを当てるとされている。形式的な要素というのは、漢字に対する助字の部分で、送りがなをはじめ、助詞、助動詞のことである。 旧い表記法では、なるべく漢字書きにするのが方針であったため助詞、助動詞を漢字書きにしたものがある。
その例として、
まで→迄、 だけ→丈、 ほど→程、 くらい→位、
など→等、 こと→事、 とも→共
などがあるが、現在の音訓表では感動詞、助動詞、助詞の役割をはたす言葉には、漢字を使わないという原則がある。執筆者にとって、このような文章作成の基礎的知識は、デジタル原稿作成に際して心得ておくべきであろう。
参考のために「日本語練習帳」(大野晋著/岩波書店)を薦めたい。