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従来から文字組版の難問題として直し(赤字)の問題が挙げられる。特に日本の印刷出版業界では、文字の追加・訂正は当たり前という悪慣習がまかり通っていた。しかもほとんどがサービスで無償である。もっとも営業が見積の際の組版単価に、直しがあることを前提に頁単価を計算しているという習慣も見逃せない。
ところがDTPになるとこの習慣は使い難くなる。
この悪慣習には理由があった。一つは執筆者や編集者側の意識の問題と、もう一つは印刷所の初校ゲラに誤字・誤植が多かったことである。活字組版時代の初校の戻りは執筆者や編集者の赤字が多かったが、自動モノタイプの組版時代になってから、文字化け(コードの読み取りミス)や入力ミスなどが多く、先方の直しに加えて初校のゲラ刷りが赤字で真っ赤になるほどであった。これは印刷所側に、どうせ赤字が多いんだから、という安易な考えがあったからである。
また再校ゲラで、初校ゲラの赤字訂正の個所以外が変わっている問題もあり、校閲は訂正個所の周囲もチェックしなければ危険である、という不信感も起きる。このことは現在でも通じることであろう。
顧客のクレームが多くなり、印刷所で内校正をして初校ゲラを出校するようになった。今でもよほどのことがない限り、内校をして出校することは稀であろう。意識の中には、どうせ直しが多いから多少の誤字・誤植があっても、そのために校正刷りを提出するのだから、というイタチごっこが続いていた。
外国の印刷業界では、校正や直しに対する考え方に違いがある。外国の原稿(欧文)は手書きではなくタイプ原稿である。しかも発注側はタイプ原稿をチェックし、間違いがあれば原稿を訂正して印刷所に送る。そして印刷所は組版後に内校正を行いゲラ出校する。
ゲラが戻ると直し(赤字)が入ることがあるが、自社原稿のミスに対する直しが多いと、直しの対価を請求するよう手紙が添付されている。ただし印刷所側での内校正は、文字の間違いはもちろんのこと、単語のスペルや文法の間違いまでチェックし訂正するという高レベルのものである。これができる印刷所が一流のプリンタ(印刷人)として信頼を得ることになる。
わが国ではこれまでこの問題をグレーゾーンとし、前述のように印刷所は直しの対価を請求しないか、直しを前提とした組版単価を設定してきた。
ところがワープロ原稿になると文字入力代は請求できず、しかもDTP原稿になると組版代もないことになる。となると直し代は正規に請求せざるを得ない。これからはグレーゾーンをなくして責任範囲を明確にし、必要な対価を請求する欧米型のビジネス慣行を築く必要があるだろう。