本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
前回述べた原字制作方法は、文字を正向きに描けるので原字デザインは楽になり、しかも作業の分業化ができ、原字制作の量産化を可能にした。この紙の原字から写真凸版法によってジンク版のパターンを作成する。 ここから原字設計を「文字デザイン」と呼ぶようになった。
従来の種字制作に比べれば作業が効率的で、しかも精密で綺麗な線が描けるなど多くの利点が生まれた。しかし原字制作の作業効率は向上したものの、縦線や横線、曲線部分などに定規や雲形定規を使うため手彫刻のフリーハンドの味は無くなり、書体の印象は味気ないものになった。とはいっても、デザイン品質の良し悪しはデザイナーの資質によるところが大きい。
機械彫刻は母型の量産化に寄与したが欠点もあった。パターンは文字部分が凹版になっている。その凹んだ部分をフォロアと呼ばれる針でなぞると、パンタグラフ式に所定のポイントサイズで母型(マテ材)に彫刻される。
ところがそのフォロアは、ある太さをもつため凹部の先端まで入らない。そのため尖ったハライやハネなどの線の先端までとどかないため、丸みを帯びることになる。つまりシャープな線が彫刻できないことになる。
例えば、明朝体の横線の打ち込み部分の微妙なカーブの表現ができない。そこで原字上では横線は最初から直線的に描いておくことになる。ドットフォントの場合と同様にストレートになる。したがって彫刻母型の書体はシャープさに欠け、味がないといわれた。ましてや筆書系の書体ではなおさら表現できない。
そこで父型彫刻が生まれた。父型をマテ材に打ち込み母型を制作する方法である。元来ベントン彫刻機は父型彫刻用に開発されたものであったが、硬鋼に漢字を彫刻することや打ち込み技術の難しさから日本では利用されなかった。
しかし元日本マトリックス社長の細谷氏の特殊技術により父型と母型制作が成功し、後に「パンチ母型」と呼ばれた。これにより母型の量産化が一層進むとともに、自動モノタイプの鋳植機用母型制作に貢献した。
和文書体デザインにおいてはいろいろなテクニックを用いるが、特に錯視を利用する。漢字の字形には、扁と旁の関係で四角形型、三角形型、逆三角形型、長方形型、平行四辺形型などいろいろある。これらを正方形(全角)の中に調和をとって収めなければならない。扁と旁のバランスが悪いと字形が良くないという。
また同じ大きさにデザインすると、大きく見える文字と小さく見える文字がある。また漢字は前後にどの文字がきても、文字の大きさが同じに見えるようにする。したがって仮想ボディ内の字面率は文字により異なることになる。
その他にデザイン上重要な要素は、文字の「寄り引き」の問題である。寄り引きとは文字の並びのことで、組版したときに文字の並びが揃わないと可読性を損ねるし、見栄えが悪いことになる。日本語組版は縦組み・横組みがあるため、縦・横にも寄り引きが良くデザインしなければならない。(図参照)
同じ仮想ボディ内でも、字形によっては右寄りや左寄りに見える文字があり、また上寄りや下寄りに見える文字もある。これが寄り引きに影響するわけで、文字の重心の問題である。文字の重心は仮想ボディの物理的重心ではなく、視覚的重心に置くことである。
また太さ(ウエイト)の要素がある。その書体が持つウエイトは調整されているが、字画の多い文字は細目に、少ない文字は太目にする。つまりその書体のウエイトは、全文字同じに見えるようにする。文字を並べたときの黒さの均一を図るわけである。
今回デザインテクニックの一部について説明したが、ユーザー外字作成のときに参考にしていただければ幸いである。この他にもいろいろデザインテクニックがあるが、次回に紹介したいと思う(つづく)。