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前回の「デザインのテクニック」で漢字の寄り引きについて説明したが、平かな・片かなについても寄り引きの問題は、漢字以上に文字の並びを左右する。
特に平かなは、その生い立ちから見ても漢字と異なり曲線で成り立っている。明朝系・ゴシック系の漢字は直線的で角張っているのに対して、平かなは曲線的で丸みを帯びている。さらに片かなは、平かなとは異なる曲線部分と直線部分とで成り立っている。
平かな・片かなのデザインは、漢字のデザイン・コンセプトにマッチしたもので構成されている。漢字書体と異質なデザインの両かなは可読性を損ねることになるからだ。つまりウエイトや大きさが漢字とバランスがとれていることが重要になる。したがってかなデザインは、タイプデザイナーの力量が問われるところである。
漢字だけで文章を組むと硬い感じがするが、かなが混じると軟らかい感じになる。中国の文章が良い例である。したがって漢字かな混じり文は、かなの表情が変わると組版の表情も変わるものである。
写植フォントに「大かな・小かな・オールドかな・新かな」などがデザインされているが、かなの表情を替えると文章の表情も変化するものである。文章の内容によって使い分けることもタイポグラフィの要素である。
ところが近年、両かなだけ単独にデザインした、多様なかなフォントが多く登場している。漢字書体に従属した平かな・片かなを使わず、他のかな書体と入れ替えて文章を組むことが流行っている。両かなを入れ替えることで組版の表情が変わるといっても、どんなかな書体でも良いわけではない。特に本文に用いる場合はグラフィック効果よりも、可読性を損ねない範囲で漢字の書体デザインにマッチした両かなを選択して使うことである。
漢字とかなの大きさのバランスは、漢字に対して90%~95%の字面率が適当とされているが、意識的にかなを大きめに、あるいは小さめにデザインすることがある。また物理的な字面率だけではなく、「ふところ」を広く取るというデザイン手法を用いて文字を大きく見せることができる。
漢字の寄り引きは、文字の中心(重心)が必ずしも仮想ボディの中心とは一致しない。つまり文字の物理的中心ではなく、視覚的中心を仮想ボディの中心に置くわけである。両かなの寄り引きも同様であるが、漢字と違って文字の視覚的中心がとりにくい。
視覚的中心とは、見た目の中心であるから見る人により異なる。つまり錯視が生じるからだ。しかも縦に並べる場合と横の場合では中心の取り方が異なる。例えば、縦組みにおける平かなの「し」「ち」「は」、片かなの「ト」「レ」などは左右の寄り引きに、また横組みでは平かなの「へ」「つ」、片かなでは「ヘ」「ン」などが天地の寄り引きに関係する(図参照)