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一昔前のワープロでは、欧文文字は全角か半角でしか印字できなかった。欧文文字が正しいセット幅をもっていても、アプリケーションソフトが各文字のセット幅に対応していなければ、文字の送りピッチは全角か半角になる。
欧文組版はプロポーショナル・スペーシングで組まれるのが正しい。全角で組まれると間が抜けて見える。プロポーショナル・スペーシングとは、欧文文字が適切なピッチ(プロポーショナル)で組版されることを意味する。
適切なセット幅で組版されていても、文字によっては字間が開いて見える場合がある。書体によっては、A、M、V、W、Yなどの文字が隣り合った場合にこの現象が起きる。この場合は、送りピッチを詰めてバランスを保つわけである。
特にイタリック体の場合は書体の特徴から、隣の文字にくい込むように送りピッチにマイナス値を与えて処理する。これを「カーニング(kerning)」という(図参照)。
和文文字に対してもカーニングに似た処理に「つめ組み」がある。特にかな文字の字間が開きすぎている場合にこの手法を用いる。しかし和文文字は全角(正方形)基準でデザインされているから、つめ組み用として各かな文字に横のセット幅と縦のセット幅を設定し、その数値をテーブルに登録しておく(図参照)。これを「ピッチテーブル」という。アプリケーションソフトはこのピッチテーブルを参照してつめ処理を行う。
市販のパッケージ・フォントには、かなのピッチテーブルをもたないフォントがある。この場合、アプリケーションソフトの「かなつめ機能」や「カーニング機能」を使うと字間を一様につめるため、バランスが良い字間を維持できない。むしろ「トラッキング(tracking)」に近いつめ処理になる。
トラッキングとは全体の字間をつめたり、広げたりする処理をいう。アウトラインフォントは一つのマスターフォントから拡大・縮小して用いる。そのため各文字が適正なセット幅をもっていても、適正な字間を維持できない場合がある。そのためにトラッキング処理を行うが、適切なトラッキング処理を行わないと、文字が接近しすぎて可読性を損なうことになる。
しばしばこのカーニングとトラッキングの意味が混同して使われている傾向がある。また必要がない場合にもこの手法が用いられている。和文文字は全角基準でデザインされているが、漢字やかなも字面が仮想ボディのなかにバランス良く、しかも字間は適性に保たれるようにデザインされているわけだ。そうでなければ、そのフォントデザインは低レベルのフォントといえる。
欧文文字でも同じことがいえる。適正なセット幅でデザインされプロポーショナルに組まれているものを、あえて全体につめたり、広げたりする必要はない。特に本文組みの場合は考慮すべきである。
見出しのように大きく拡大しなければ必要はないであろう。しかしカーニングやつめ組みを好むデザイナーがいるが、これは別問題である。