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最近デジタルプリントによるプリント・オンデマンドが注目を浴びている。小部数、短納期、可変データ印刷などが訴求力になっているが、なかでも小部数印刷がオフセット印刷より低コスト、というのが謳い文句になっている。
しかし印刷コストは、いろいろな要素が含まれているので一概に比較はできないが、印刷インクとプリンタの着色剤コストを比較すると、圧倒的にオフセット・インキの方が安い。
プリンタの機種にもよるが、一枚1色(黒)/A4換算でレーザプリンタのトナーは2.2円、インクジェットのインクが3円、溶融型熱転写のリボンが20円、昇華型熱転写が80~160円で、これに対して印刷インキは0.006円である。
小部数のオフセット印刷がコスト高になる理由は、プリプレスのコストが占める比率が部数に関係なく、固定的だからである。
オフセット印刷における刷版の網点の大きさは、印刷物の網点の方が大きくなる。この現象を「ドットゲイン」というが(図参照)、フィルム上の網点の状態を忠実に再現し良い印刷再現を得るためには、ドットゲインをなるべく小さくする必要がある。
そこで刷版工程において、露光度調整を行う。これを「焼き度調整」という。ポジタイプ・フィルムの場合、露光量が不足すると網点が太り汚れの原因になる。また多すぎると網点が細り、飛びやすくなる。この「焼き度調整」作業を経験的勘ではなく、数値的に標準化する必要がある。
DTPなどのデジタルデータは、忠実に網点を再現しフィルム出力される。フィルム出力の場合には焼き度調整は可能であるが、CTP(コンピュータ to プレート)の場合は、正確に網点が刷版に出力される。そのため刷版での焼き度調整ができないものもある。そこで前工程のDTP処理工程で、印刷のドットゲインを計算しておくことが必要になる。
「CMYK」の「K」は「blacK」で黒(くろ)のことであるが、印刷では墨(すみ)と呼んでいる。 なぜ黒を墨と呼ぶのか不思議であったが、自信はないが次の理由と思われる。
中国語ではインキのことを「油墨」と書く。油は亜麻仁油(アマニユ)のことで、印刷インキにはアマニユ・インキがあるし、「水墨画」は黒い墨で描いているので、ここから墨は黒を表す文字として使われたと思われる。
カラー印刷にはいろいろ難しいことがある。昔から「色の道は難しい」といわれているが、なかでもポスターや表紙、カレンダーなど「人の肌色」の印刷は難しい。この問題は製版技術の範疇に入るかもしれないが、美しい肌色はすべてのクライアントが望むことである。
美しい肌色といっても現実の肌色より演出されたもので、そこには常識的な色がある。空は青色、雪は白などである。しかしこの感性にも国民性の違いがある。オーストラリアの書籍印刷を受けたとき、その表紙の女性の肌色が黄ばんでいたのでクレームがついたことがある。
2色機で表紙4色を印刷したが、2色刷りの時の黄色がやや強くなり、後の2色で抑えきれなかった。経験上日本では赤浮きの肌色よりは、黄味の方が無難という判断で納入した。ところが白色人種にとっては、黄色人種的な肌色は受け入れられなかったのである。しばしば「肌色らしく」という指定が見られるが、お国柄によって感じ方が異なることを認識するべきである。