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「印刷物の存在理由」や「合理的作業」を明確に展開できる能力が、これからのグラフィックデザインに求められている。
アナログ時代は道具が重要だった
グラフィックデザイナーの和田義徳氏は「デザインとは情報を可視化するもの」「デザインの基本は設計能力」と述べている。さまざまな分野でデザインが必要とされるが、その意味するところは同じでも「設計」方法は、それぞれの分野によって異なる。「設計」方法を訓練しなければ良い表現は実現できない。訓練とはそれぞれの長い歴史の中で培われたノウハウやルールのことである。
グラフィックデザインのノウハウ(技術やその蓄積)の中で、道具の使い方訓練がかなりのウエイトを占めていた。うまく道具を使いこなす人が上手なデザインを実現できた。なぜなら道具がその人の発想(設計)を具体的に表現する手段であるからだ。
この道具の中で大きな役割を果たしたのが製版技術である。写真技術がアナログの時代、レタッチマンにはかなりの「絵心」が要求された。カラー写真が一般化する以前は、写真に直接色着けをしたり、1色のモノトーンの写真原稿から4色(C、M、Y、Bk)のカラー印刷物を再現する人工着色技術などは、まさに想像力の賜物であった。そうした時代のノウハウを受け継ぎながら、スキャナーや画像処理ソフト、デジタル写真等々が、次々と開発、発展・普及する中で「人」も「機器」も進化を遂げてきた。
現在では正確な情報と操作があれば、かなりの精度の結果が誰でも得られる技術環境になった。このような環境下でのデザイン作業における大切なノウハウやルールとは何であろうか。
「アマチュアとプロの違い」はどこにあるのか
道具の操作以前に考えなければならないことが、実はたくさんある。和田義徳著『新 印刷メディアの基本設計』では「アマチュアとプロの違い」を以下のように説明している。
「1回だけ面白いアイデアを出すのであればプロもアマもあまり関係がない。しかし、そのアイデアを具体化するには技術と知識が必要であり、常にクライアント(顧客・依頼主)の意向やコンセプトを的確に反映した仕上がりとするには訓練と経験が必要になる。デジタル環境下でのデザインに関連していえば、DTPについての一般的知識は当然必要だが、さらにプロには、まず、色彩や形についての知識の量と質が要求される。
マーケティングや企業戦略などの知識、企画や抽象的テーマを具体化する能力、系統的にデザインを発展させる技術、組版の決まりについての知識など、挙げていけばきりがない。確かにプロとアマの違いはあるのである」。
和田氏は組版知識やレイアウトの心理的効果などの基礎知識も一種の「道具」であると述べている。知識という道具を手に入れたら、それを自分で鍛える、つまり訓練し、力量をつけることが必要である。氏はこれを「基本設計の能力」といい、この能力を獲得することこそが作業の合理性、効率性を大きくアップするという。
しかし、印刷界では、製版機器による差別化が失われた後も、道具の使い方を「機器操作」という狭義なところに力点をおき、付加価値や満足度よりコスト低減に能力が注がれてきた。その結果、クライアントのための市場開拓や販促支援に力を発揮することができなかった。
これからのデザイン作業とは、情報の分析・構造化→表現→製造というステップを確実に踏むための、知識(設計)を獲得、訓練することで「印刷物の存在理由」や「合理的作業」を明確に展開できる能力が求められている。この「考えるデザイン」姿勢こそがクライアントに対する信頼と貢献である。
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クライアントの要求をどう理解し組み立て、デザイン表現するか、
そのプロセスの論理的な考え方や基本ルールを実践的に学ぶことができます。