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印刷新世紀宣言

印刷新世紀宣言とは、2002年にJAGATが公表した提言。これからの印刷業界向上のために必要なものは「クロスメディア」と、「eビジネス」と、「デジタルプリンティング」という3本の柱と「印刷文化の継承」という従来の柱の4本で構成されるものだと宣言した。
以下がその全文である。


この10年間、印刷情報用紙の消費量は16%増加した。今後とも、紙も印刷もなくなることはない。
しかし、日本の印刷産業はバブルの弾けた1990年代初頭でひとつの時代の区切りを迎え、90年代はそれ以前とは異質の苦しみを味わったと感じている人は多い。電算写植・CEPSなどコンピュータ投資は相当していたはずだったが、気が付けば安いパソコンによるIT化に遅れをとって、かつてのパソコン少年たちから教えを受けなければならない立場になった。

一方、90年代は、オフセット印刷機メーカーや製版メーカーがトナーベースのデジタル印刷機を出し、DRUPA、PRINT、IPEXといった印刷を代表する国際展示会に、デジタル印刷機が堂々と登場するようになった。さらに紙の消費量全体は減っていないとはいうものの、ビジネス環境における脱紙媒体化が目にはっきりみえる分野もでてきた。このような変化は、ただでさえデフレと設備過剰のために従来のビジネスモデルが破綻し、自信を失いかかっている国内印刷業にとって、これからのビジネスの方向を考え難くしている。

その結果、印刷産業の投資意欲は減衰し、デジタル化によるコストダウンで帳尻を合わせるのみになりがちである。しかし将来に向けて何も手を打たないと事業が縮小に向かうことは明白である。20世紀の環境はもう戻ってこないので、新世紀にふさわしいビジョンを作らなければならないが、では20世紀の印刷と、21世紀の印刷では、何が一緒で何が違うのだろうか?

今日では必要な印刷物が満ち足りる時代になったが、それは日本の社会そのものが物質的には充足し、モノ離れの段階にあることと関連している。印刷ではモノ離れの中で百科事典が消えるとか、作りすぎの是正など減少する分野はあるが、一方で情報伝達はインターネットへとシフトし、これはものすごい勢いで増え続けている。つまり紙媒体の高度充足の先に、インターネットへと相転移してさらに進む領域があることが第一点目である。

例え情報が紙ではなく画面に表示されるようになっても、文字は印刷用に蓄積されたフォントが使われ、画像はやはりPhotoshopで調整され、レイアウトデザインも今までと同じように行われるように、人間が情報を認知し易くするための技法であるグラフィックアーツの世界は継承されている。これに自信があるところは、上記の情報伝達の加速があるので、活躍する場が減ることはないであろう。

印刷産業が提供する印刷物は、顧客のビジネスを促進するための道具でもある。そこでは印刷物のきれい汚いとは別に、ジャストインタイムや機能性、作業効率向上が求められ、印刷物とITとの比較や組み合わせなどが検討される。例えば「申込書」という印刷物を作る代わりに、オンラインの受注システムを構築するなど、従来のビジネスがネットワークへ対応するにつれて、印刷もIT化の相転移が進んでいく。XMLとかオンデマンド印刷など印刷制作サービスの高度化、また印刷に付帯するサービス化のビジネス開発など、得意先のビジネスのパフォーマンスの向上を手がけるのが第二点目である。

また印刷は高速で高精細な複製を安価に行う手段として発達したが、その技術の派生で、精密部品、マイクロエレクトロニクスなどの素材加工も大きなビジネスにしてきた。今日ではエレクトロニクス部品の多くに使われているが、こういった技術の進歩はプリンタの発展のように印刷の定義や応用範囲を変えるところまできた。従来の印刷では間尺に合わなかったことも、こういったプリンタの応用でビジネス化が可能になり始めているのが第三点目である。

JAGATでは以上の事柄を整理して、今後印刷業界側から切り開いて、価値を産むことが出来るものは、クロスメディアと、eビジネスと、デジタルプリンティングに集約できると考えた。

クロスメディアとは、紙メディアと電子メディアの共存をロスなくできる環境を作っていくことである。
eビジネスは,印刷物提供に付随して過去から行っていた派生サービスも含めて、ITを使ってさらにサービス価値の向上を図るものである。デジタルプリンティングは、デジタルデータから即アウトプットができる時代なのだから、データを最大限に活用して、いろいろな場所でいろいろなプリンティングをするように事業を広げていくことである。

印刷の定義はさまざまあるが、産業としての印刷の行く末を考えると、印刷の3要素とか4要素という教科書的な定義ではなく、今日から2050年にかけて持続発展が可能な印刷に再定義をしなおさなければならない。21世紀の印刷とはデジタルで相転移した、クロスメディアと、eビジネスと、デジタルプリンティングという3本柱と、印刷文化の継承という従来の柱の4本で構成されるものと宣言すべきではないだろうか。

新たな3つの柱は、ちょうど1980年代の電子化や1990年代のフルデジタル化に相当する大テーマであるといえる。これらのテーマを2002年度からのJAGAT事業に反映させ、20世紀的「観念」から脱却し、個々の企業が新しい印刷の枠組みの中で自分の戦略が持てるような関係を皆で努力して作っていきたい。

2007/08/02 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会