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組版の良し悪しの物差し

澤田 善彦


 電算写植やDTPなどのコンピュータ組版は,組版ソフトに依存するところが大きい。つまりアプリケーションソフトがもつ機能に左右されることになる。したがって日本語組版ルールをよく知らないユーザーにとっては,現状のDTPのレイアウトソフトで,それなりに良しとして使っている場合が多い。

 言い換えれば,良い悪いの判断能力に乏しいわけである。しかし評価能力があったとしても,機能修正(カスタマイズ)ができないという不満もあるし,組版ルールにこだわって組版すると手間が掛かり,生産性を阻害するという問題がある。

あるベテランの出版編集者が話していたことがある。──書籍や雑誌は内容が重要であって,組み方は普通であれば良い。造本上から外れた組み方でなければ,細かなことは気にしない。一冊でも多く本が売れることが目的である──と。この「組版は普通であれば良い」の「普通」の意味を,どのように解釈するのかである。

 今まで日本において,日本語組版に関する標準的な組版ルールというものは存在していなかった。しかし過去に何人かの有識者が提唱する参考書はあったが,それらは「活字組版」とか「手動写植組版」あるいは「電算写植」のため,という文字処理システムの範疇における参考書である。欧文組版の「オックスフォードルール」のような,規範的なものは存在していな かった。

 その後,DTPの組版ソフトも徐々にグレードアップされ,日本語組版機能の充実が図られてきた。まだ組版内容によっては不十分といえるが,最近プロのユーザーの間でもDTPを非難することより積極的に使おうという姿勢から,各方面でDTPの日本語組版のあり方について論じられている。それは日本語組版が満足にできない,とはなにか,またどこが悪いのかなどである。日本語組版はどうあるべきかという観点から,アプリケーションソフトに対する批判・要望とDTPユーザーへのチュートリアルを含めた論点になっている。

しかし1995年に「JISX0451」として「日本語文書の行組版方法」が制定された(詳細は後述)。これは日本語文書の行組版に適用するもので,レイアウトに関しては触れてはいない。しかし1ページを構成するレイアウトは,組版全体に影響するものである。現在市場にある多くの組版ソフトは,制定以前に文字処理システムメーカーが独自に研究開発したもので,同じ組み方でも微妙に異なっている。

最近発刊された,文字組版に関するガイドブックを紹介する。「便覧 文字組みの基準」藤野薫 著(日本印刷技術協会)および「基本日本語文字組版」逆井克巳著(日本印刷新聞社)の2冊は,印刷関連業界のユーザーは勿論のこと,アプリケーション開発者に対しても指針になる書である。

「ルール」というと絶対的なものと思えるが,たとえ確立されたものであっても100%従わねばならないということはない。新しい時代に即応したファッショナブルな組版技術や組み方(ルール)があってもおかしくはない。ただし美的要素を破壊するような組版やレイアウトがなされてもよいということではない。つまり組版ルールは読み易い組版を行うための約束ごとであり,組み方の標準作業化である。

すべての産業に共通していえるが,品質と生産性の向上は永遠のテーマである。品質を落した産業は滅びるといわれている。DTPの組版やカラー製版の品質において,従来のレベルより低下したものがまかり通るならば,印刷産業の行く末は案じられる。品質に対する安易な考え方は,自ら首を締めることになりかねないであろう。

(次回更新は10月4日です)

1999/09/20 00:00:00


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