Windows Vistaには、コンピュータのスクリーン上でも印刷しても読みやすく、特に横組みに適した、ClearType対応和文フォント「メイリオ」が搭載される予定である。メイリオのデザインについて、和文の制作を担当した株式会社シーアンドジイ(以下C&G)代表取締役坂本達氏、技術営業部山下郁生氏、タイプディレクター&デザイナー鈴木竹治氏にお話を伺った。
1985年創業より電子機器向けの文字を手掛けてきたC&Gは、やがて新しいゴシック体の試作を始めた。
本文書体は明朝体というのが従来の常識であったが、スクリーンで小さな文字を読むには、縦横の太さが均一なゴシック体のほうが適している。また最近雑誌の本文などにも使われるゴシック体は、新しさや若さのイメージをもつ。
また、現代は文字を横に読む機会が増えているのに、和文フォントは伝統に沿って縦組みを基本に作られる傾向にあった。
そこで鈴木氏は、横組みに適したゴシック体を目指し、同社のシニア・デザイナー植田由紀子氏とともに、5年間コツコツと試作を続けた。
それがやがて、世界的に著名なタイポグラファであり坂本代表の友人でもある河野英一氏の目に留まる。当時マイクロソフトART(先端可読性技術開発)グループのコンサルタントとして、ClearType和文フォントの原型を探していた河野氏は、C&Gのゴシック体にある見やすさ、新しさを評価、またデザインの基準に置いていたマシュー・カーター氏のフォントVerdanaとの親和性もあるとして採用した。
縦組みは文字のセンターラインが揃えば良いが、横組みはセンターと同時にベースラインの概念が必要だ。「縦組みは普通に作っても読みやすい。しかし横組みは努力して作らないと読みやすくならない」(鈴木氏)。メイリオは、ベースラインが揃い、仮想ボディいっぱいの字面、均一な黒み、フトコロの広さなどと相まって、横方向にスムーズに読める。センターも揃っているので、縦組みでも十分使えるという。
また、和欧混植時のバランスが重要だった。カーター氏はVerdanaをC&Gの仮名に合わせて改良、一方C&GはVerdanaに合わせ和文のベースラインを上げ、扁平にデザインした。「メイリオは、和文と欧文のデザイナーが協力して一つのフォントを作った貴重なケース」(山下氏)。
アナログ印刷時代のゴシック体は、輪郭が単純な水平垂直ではなく微妙なカーブや突起をもつ。しかし、ドットで構成されるスクリーン上では、余分な要素はジャギーになり、見づらさを招く。だからメイリオは極力水平垂直線で構成し、カーブは緩やかなラインにしたという。
フォントは良いソフトと組まなければ生きないという考えの下、C&Gは電子機器メーカーと組み、台湾のARPHIC TECHNOLOGY社との技術提携によって、機器組み込み用スケーラブルフォントなどを提供してきた。坂本氏らは言う。「文字の過去を語ることも大事。しかし私たちは文字の未来を語りたい」。
『月刊プリンターズサークル』10月号「カレイドスコープ」より
2006/10/02 00:00:00