宮城県仙台市に本社を置くイメージパークは、早くからDTPに取り組んできた経験を生かし、印刷物の企画・制作はもちろん、Webサイト制作、データベースを利用したカタログ制作、eラーニングサービス、サーバ管理などを行っている。
もともとは製版を主体として設立された同社だが、「人が集い未来を創造する」をモットーに、常に時代の流れを見つめ、いち早くデジタル化の実現に努めてきた。
日々刻々と変化する顧客のニーズをつかみ、「紙媒体、電子媒体、通信媒体」を組み合わせ、企画制作から印刷までトータルなサービスを提供できる組織作りを実現した取り組みを、常務取締役田中知男氏と常務取締役平尾訓氏に伺った。
各部署間で連携しながら効率的なワークフローを実現
今年30期を迎えたイメージパークは、もとは製版会社として設立された。1991年に当時の製版チームの中から数名を選び、プリプレス事業部「イメージパーク」を開設、DTPの導入に取り組み始めた。その後、田中常務を筆頭に勉強会を重ね、Macの台数を増やしていった。
「近い将来、製版の仕事が少なくなっていくのは目に見えていた。自分もチームのみんなもレタッチ出身で、DTPって何?というところから始めた。仕事のためということだけではなく、将来の自分たちのためという思いもあった」(田中氏)
1996年、社名を「イメージパーク」に変更して、従来の製版業務全般から企画・制作・デジタル入出力・画像処理・情報処理サービスまでのメディア産業に参入した。1997年ごろからWeb制作やCD-ROM制作に着手し、2000年から本格的にデジタルメディア制作に取り組み始めた。
グループ会社を合わせた社員数は100名で、Webに携わるのが20名、デザイン・出力35名、印刷(CTP、オンデマンド含む)15名、営業・業務25名、総務5名となっている。売り上げ構成は、Web関連が全体の2割弱を占め、印刷が4割、デザイン・出力が残りを占める。
本社にある企画部では、企業のホームページやECサイトといったWeb制作を始め、データベースを利用したカタログ制作、ケータイコンテンツ、eラーニングの構築を担当している。企画部の中には、専任の営業が1人、大きな案件の場合のサポート役として2人を置いている。サポート役に関しては、普段は特定のWebサイトの管理、運営を手掛けているが、大きな案件の場合、技術的な話ができる営業として同行している。
「基本的には『営業』『現場』と分けていない。机のレイアウトも同じ島だし、顧客にとっては『分かる人が担当してくれればいい』わけだから」(田中氏)
同様に、Web関連を手掛けるチームとDTP・出力関連を手掛けるチームは、課としては分かれているが、連携がしやすいような雰囲気作りを心掛けている。
Webの人間もプリプレスや印刷のことを理解してもらう、その逆もまた必要だ。印刷物の営業がWebの仕事を受注してくる時もある。クライアントとの技術的な話し合いが必要な場合は、Webの営業が同行し、サポートする。そうすることで、DTPとWebの垣根を低くし、どちらも対応できる人材が育っている。
そのために実践していることは社員の知識共有である。媒体の変化が続く中、顧客のニーズも変化している。クロスメディアをテーマに、DTP・出力もWeb制作も知識を共有し、効率的な物作りを実践していかなければならない。「InDesignで作ったデータを印刷用、Web用にして公開するにはどうすればいいか」「Web制作の仕事を受注した。それに合わせて紙媒体の提案もしたいのだが……」同社ではこういった会話が気軽に交わされる。日常の業務で得た知識、経験をほかの部署とも連携して活用していく。作業効率を最大限に考えながら、こちらから顧客に提案できることこそ、仕事を受注できる営業スタンスだと自覚している。
組織も社員もともに成長できる人材育成
Googleで「イメージパーク」を検索すると、「印刷からWebまでをトータルにサポートする総合広告会社」と出る。印刷会社や広告代理店のアウトソーシング先であるとともに、印刷、製版業界で長年にわたり培ってきた技術を土台に「情報価値創造産業」「情報伝達媒体加工業」としての企業姿勢を打ち出そうとしている。
「周りの見方は、製版会社としてのイメージが強かった。だからこそ、製版だけではない企画デザインからデータベース、Web制作までできるという実力を見せること、アピールすることが大切だった。最初のWeb制作の仕事は、印刷関連のつてで受注した。受注を増やすため、取引先の紹介でこつこつと実績を重ねることを心掛けた」(平尾氏)
同社の物作りのコンセプトは「最小限の経費で最大限の効果」を生み出すことである。そのためクライアントとは、納得がいくまでディスカッションを行い、デザインを設計している。
「クライアントの気持ちを伝えるために、一緒に作り込んでいく。それが私たちの広告表現に対する姿勢だ。社内ではよく言っていることだが、自分の要望をはっきり分かっている顧客は少ない。あやふやな話を広げるとまとまらなくなる。お客様の状況をよく調べ、もやもやとした中から少しずつ詰め、次につながることを提案しなくてはならない」
クライアントに沿いながら、ニーズをつかんでいくコミュニケーション力を養うことは重要だ。しかし、それだけでは効率的なワークフローは築けない。なぜなら、クライアントの要望を聞き出すのが営業の役目ならば、要望にこたえる作業を行うのは現場の役目だからだ。つまり、顧客の要望を現場に伝える力、社内コミュニケーション力も必要だ。同社では社内コミュニケーション、情報共有を高めるために普段から心掛けていることがある。課題や問題点のデータベース化である。
「例えば、お客様から入稿されたデータに不備があった場合、その状況と対処法を入力し、社内ネットで閲覧できるようにしている。データベース化することで、どんな問題が多いか分析し、お客様にどうアドバイスをしたらいいか話し合ったりしている。今後は印刷業界に限らず、企業、自治体、学校などがDTPソフトを導入し、WordやPowerPoint、そしてPDFからの印刷依頼が増えると予想している。その時、お客様にきちんとスムーズに説明できるかどうかが重要だ」
日常作業でのトラブル解消のキーとなるのは人材育成である。きちんと行っていないと技術的なトラブルにつながる。同社では、ルーチンワーク以外に課題を与え、学習、習得するようにしている。それを必要に応じてほかに伝えていく。現状における人材育成上の課題は知識の深耕だという。
新しい技術、ソフトに関しては常務である田中氏が率先して取り入れ、まず自分が検証し、できそうだったら部下に下ろす姿勢で取り組んでいる。
「まずは興味をもたせることだ。ある程度の知識はあるはずだから、本人次第でいくらでも仕事のスキルを引き上げることができる。きっかけを作ることが大切だ」(田中氏)
インフラに社員同士の情報共有があるからこそ、実際の業務での問題点、マニュアル化しにくい点を蓄積することができる。蓄積された問題点を、社内全体で分析し、適切な作業フローを検討しながら改善を重ねていく。
さまざまな経験を積む中で、社員一人ひとりが仕事の面白さに気づける組織作り、5年後、10年後の自分の姿や役割がイメージできるキャリアシステムを目指している。
インターネットを市場開拓のツールとして活用
同社では、2004年11月から楽天ビジネスに出店し、Webサイトのデザインから制作までとECサイトの構築、ロゴやキャラクター制作、名刺や封筒、パンフレットといった印刷物全般を受注している。
出店のきっかけは「印刷業として成功している企業は少ないのでは? 案件数は多いはずだから、うまくやればこれはチャンスだ」と田中氏自らが手を挙げた。本格的に取り組み始めたのは2005年の初めごろで、その年の12月までに獲得した商談は250件、顧客からの評価は159件に上った。
「こんなに顧客からの声が届く会社はあまりない」と、楽天の担当者も驚く。「非常にレベルの高いデザインと、ユーザビリティにあふれた対応に感服」「仕事のスピードも速くて、スムーズ」など同社の仕事への取り組みに満足している顧客の声が大多数を占める。
2005年には「楽天市場ショップ・オブ・ザ・イヤー2005」のビジネス賞を受賞した。「受賞できたのは、お客様への対応力のお陰だと思う。迅速なレスポンスはもちろん、どんな相談でも誠実にこたえるようにしている」と田中氏は語る。楽天における受注は、紙媒体とWeb媒体が半々くらいで、最近はリピーターも増えてきている。
同社では、インターネットは営業ツールの一つと考えている。新しい市場をネットを使って開拓する。ビジネス賞を受賞したことで、遠くの地域からの受注はもちろん地元からの問い合わせも増えてきた。今後は自社サイトを見直し、楽天と連動しながら、Webからの受注を増やしたいという。
同時にeラーニングのコンテンツ作りに力を入れていく。現状では、大学や銀行のものを作っているが、今後は新しい市場として一般企業向けにも取り組んでいく予定だ。
「新しいソフトや機器を導入した時に、社員全員が分厚いマニュアルを読むわけではない。要点だけを画面キャプチャーしながら動画で見せたり、より簡単で、だれにでも分かるようなものが必要だ。eラーニングを提供すると同時に、印刷会社の強みを生かして、紙媒体にもできる提案を考えている」
同社では、今年の9月にプライバシーマークを取得した。約1年半前から取り掛かり、ここ1年は勉強会を開き、社内の徹底に努めてきた。社会からの信頼と顧客の要望にいち早くこたえることに心を砕いている。
「不変的な技術、組織、市場、ニーズなどはなく、また変化するスピードは速くなる一方だ。現在の景況を転機と捉え、柔軟な発想と確かなビジョンをもち、知的管理・生産できる組織へと体質転換していく」と語った。
『プリンターズサークル』10月号より
2006/10/13 00:00:00