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人材をめぐる戦略的課題

■印刷会社の課題


印刷会社が「人材問題」を最重要の課題としていることは会員アンケートの結果などを通して明確に読み取れ、この間いくつかの媒体を通してご報告してきた。
その昨年末の全会員へのアンケートでは、求める人材の能力について「指導力/リーダーシップ」「企画/構想力」の二つを過半数の印刷会社があげていたのだが、その経営者の求める課題をどのようにすれば解決できるのか。
さらに、経営者の方々と直接お話しをうかがう度に、「経営を向上させるための問題・課題には気づいているがどこから手をつけたらよいかが分からない」「経営改革に取り組んでいるが、成果がなかなか見えない」「人がなかなか育たない。部下がなかなか思うように動かない」「新規ビジネスに手をつけても収益に結びつかない」「なかなか欲しい人材が採用できない」というお話しも、大なり小なり耳にする。
先の人材に求める能力と、耳にするこれら課題は、結局は同じことを言っているのである。それは自社の戦略への「人材の巻き込み方」と人材を巻き込むための「戦略の作り方」が大きな課題だということである。
その問題解決の答えの一つに「人材マネジメント」がある。

■人材マネジメントの課題


「人材マネジメント」の対象領域は、当然従来の人事の領域と同じである。「採用」「育成」「評価」「処遇(インセンティブ)」「組織」「雇用形態」というそれぞれの観点があるが、そのそれぞれの観点を通して何を追及するかと言えば、「変動の激しい経営環境の中で、会社の変化・成長と合わせて変化・成長していく自律型の人材を求めていく」ということである。

だからここで言う人材マネジメントとは、安定的な事業基盤の中で行われてきた、従来の「人事労務管理」とは違う。またアメリカ直輸入の人材を経営資源と考える、成果主義に象徴されるHRM(HumanResourceManagement)の考え方はとも違う。 前者は、それだけでは変化の激しい社会の中で機動性をもった運用ができず、後者は日本的経営手法との間で無理・ギャップが生じていた。

印刷会社はこの間、たゆまぬ近代化を続けてきている。しかしそのベースには日本的経営手法がいい意味でも悪い意味でも残っている。このいい部分をみすみす捨てることはなく、悪い部分を補い・解消することで「矛盾」のない形で進化・向上ができるのではないかと考える。
それを人材をベースに考えるのがこの人材マネジメントの考え方で、人材戦略コンサルティング会社・ワトソンワイアットでは「意思決定の遅さ」「相互依存や甘えを生み出す環境」という日本的経営につきものの二つの要素を解消しながら、「顧客・従業員との長期的関係の継続効果」「数字偏重でないプロセスの改善努力」「チーム重視の柔軟な組織運営」などの強みをよりいかす経営をすべきとしている。それは「正しいタイミングで正しい判断ができる自律的な人材を発掘、育て、活躍できる場を提供」するマネジメントでもある。

■これからの人材の問題


労働人口のこれから10年の推移についてリクルートワークス研究所では、「人材の流動化は年齢を超えてますます激しくなり」「サービス業の隆盛の中、そこへの人材移入が進み、その結果、需給のミスマッチは解消できず」「しかも少子高齢化が進む中、若手正社員の希少価値化が進み、優秀な若年層の争奪戦が産業の枠を超えて起こる」「また一方シルバーエイジの職種増加・活躍機会の増加が起こる」と予測している。

ここから読み取れることは、印刷会社のこれからの経営にとって最優先・最重要課題である人材問題は、しかし印刷会社・印刷産業の枠を超えて、産業界・社会全体の変化・変動の中、改めて考え直さなければならない極めて重大な問題ということである。そのためにも、人材を会社の従属物として捉えるのではない考え方、即ち、人材を会社の成長と合わせて変化成長していくものとして捉える「人材マネジメント」の考え方は、いち早く自社に取り込む戦略的意味が大きいのではないだろうか。


11月30日(木)開催のJAGAT「経営シンポジウム2006」では、本文で触れたワトソンワイアット株式会社・代表取締役社長・淡輪敬三氏に印刷会社の弱みを克服し、強みを活かすための手法として「人材を経営資源としてではなく資本として考えるマネジメント」に関して基調講演いただきます。
その後のディスカッションでは、会員企業、株式会社プロネート 代表取締役社長・狩野征次氏、大東印刷工業株式会社・代表取締役社長・佐竹一郎氏にご参加いただき、基調講演の提言を印刷会社に取り入れるための方法をめぐる議論をしていきたいと考えております。

2006/11/17 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会